こども達は、本当に希望の国へ”脱出”出来たのか
「半島を出よ」でもそうだが、村上龍の作品は綿密な調査とそれに基づく想定から織りなされるため、本当に「あり得そう」で怖い。
テロの戦士に憧れるこどもたち。 2000年に刊行された作品だが、今現在タイムリーなテーマだろう。
日本でもイスラム国に亡命騒ぎがあった事は記憶に新しい。
この本の中でもそうだが、こども達はテロという行為の背景にも意図にも、本当は関心がない。
閉塞的な社会環境から飛び出すための手段の一つなのだ。
だから行動を起こすきっかけとして「テロの戦士」が出てくるわけだが、戦士の役割は小説の冒頭で終わる。
こども達が自分たちで考え、行動を起こし、大人を踏み台にして自分たちの社会を作り出す。
動画サイトを使った仕事の創出、独自の電子マネーを用いることで既存の金融形態からの脱却。
インターネットによってこれらすべてがこどもでも可能になった。
この本の中のこども達は、大人に頼らずに独立国家を形成するに至るのである。
しかし、当初の目的は達成しているはずなのに、「本当にこれでいいのか?」という読後感に襲われる。
大人に甘えられずに、大人になるしかない。その悲壮感のようなものどうしても背負ってしまう。
こどもに焦点をあてた作品だが、現代の大人たちへの痛烈な批判とも言える。
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