マギー・チャンの特別な存在感 - クリーンの感想

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マギー・チャンの特別な存在感

3.43.4
映像
4.2
脚本
3.3
キャスト
3.0
音楽
3.5
演出
3.2

目次

感性で見せる

2004年フランス映画。監督はオリヴィエ・アサイヤス。彼の近作は、ジュリエット・ビノシュを主演に据えた「アクトレス〜女たちの舞台〜」で、ちょうど最近日本で公開されていました。1〜2年毎に作品を発表し、なかなか多作の監督のようです。

アサイヤスの作品を見たのはこれが初めてですので、この作品に関してはということですが、非常に感覚的に作られていると感じました。私も感覚で見るタイプなので、整合性を気にしない映画は全然嫌ではなく、むしろ好きな方なのですが、そんな私でも腑に落ちない、と感じる部分がところどころありました。

あえてこのような演出なのだろうということは理解できますが、主人公エミリーと、亡くなった夫の父親、アルブレヒトの双方の気持ちに上手く寄り添うことができず、いささかおいてけぼり感のあるままに唐突にエンドロールが流れ「あれ、終わり?」という感覚がありました。

説明的に過ぎる映画は良くないものですが、人物がその言動に至るまでの根拠というか、ヒストリー、あるいは感情的な前提というのは、あまりに舌足らずだと共感ができにくい。受け取る側の力量もありますし、塩梅が難しいものですね。

エリック・ゴーティエの撮影が効いている

しかし、とにかくこの作品は撮影が美しく、ファーストショットからクールでセンスのいい映像が続き、ああいいなあいいなあ〜と思いながらずっと見ていました。ちょっとした切り取り方にもセンスが感じられ、鉄格子越しや窓越しといった、覗き見るようなショットが多用されていましたが、見苦しくなく効果をあげていました。

カラーバランスは彩度が低く、白っぽく、少し緑がかっている。ヴィヴィッドさなどまた全然違うのですが、ちょっとロビー・ミューラーを思い起こさせる感じがあります。アメリカ映画にはない、ムードのある画です。

パリの街中のシーンでは、今まで様々な映画に出て来たパリという街ですが、自分には全くパリには見えないくらいちょっと独特の雰囲気でした。どの映画でも撮影が大事なのは当たり前ですが、とりわけこの作品では、撮影が「気分を作る」ことに大きな役割を担っていることだなあと感じられました。

撮影監督のエリック・ゴーティエは長いキャリアを持った実績あるフランス人カメラマンです。私の大好きな「モーターサイクル・ダイアリーズ」や「イントゥ・ザ・ワイルド」のDPでもあり、しかもこれらはどちらもロード・ムービーなのですよね。ロードムービー好きの私ですが、そこら辺もこの撮影がぐっと来る一因になってそうな気もします。

マギー・チャンを見る映画

穿った見方をして申し訳ないのですが、この映画はそれほど予算が潤沢ではなく、結果として一点豪華主義になったのではないかと思えてしまいました。そして、何より監督の元パートナーであるマギー・チャンありきというか、彼女の思いを叶えるというのが作品を作るにあたっての根幹にあったのではないかなーと思われます。

集中して資本投下したのは、もちろん上記に挙げた通りのクオリティの高い撮影であり、主演にマギー・チャンとニック・ノルティを起用するという部分においてです。

とにかく主演二人以外の(ジャンヌ・バリバールだけはわりと素敵でした)ほとんどの役者さんのクオリティーが残念だ〜。

冒頭に、マギー演じるエミリーとエミリーの夫リーとが痴話げんかをする長めの会話シーンがあるのですが、このだんなさんがまず残念だ・・・。エミリーがその才能に惚れ込み、執着するという役どころであるのに、それだけの魅力がいかんせん感じられないし、普通に大根だ・・・。脇役の役者さんが皆いまいちなので、気持ちが削がれることが度々あってもったいなかったなという印象です。

でもそれだけに、マギー・チャンがいかに「持ってる」人なのかということが、分かりやすくありありと知らされます。以前、ある日本の監督が役者を起用する基準について「カメラの前に立つべき人とそうでない人がいるので」と、さらっと言っていましたが、こういう映画を観ると、それって冷徹なまでにその通りなんだろうな、と思わざると得ません。

マギーだけ格が違うので、どうやっても存在感が強く、良くも悪くも非常に浮き上がって見えています。周りの人々と馴染みません。子役とのシーンはともかく、ニック・ノルティとのシーンにおいてのみ、均衡の取れた見応えを感じさせます。ニック・ノルティは年取るほどに素敵になっていく役者さんで、色々なことを飲み込んでここにいる、という説得力を感じさせるとても魅力的なキャラクターでした。忸怩たる、という部分が、ちょっとした屈託のある笑顔がとても良かったです。確かに彼なくしては、この作品は成立しないと思います。

まあ、そういう際立ちみたいなものもあって、マギー・チャンはカンヌで主演女優賞をとったという部分もあるのかもしれません。

そして、ラストの下り。マギーの歌・・・微妙でした。この映画を最後にマギーは女優を休業し、長年の夢だったというロック歌手に転向したのだとか。そちらが上手く回ってるのかについては知りませんが、何にせよ、俳優として、誰でも持ってる訳ではない特別なものを彼女は持っているのだから、またスクリーンで見たいな、と願うばかりです。


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