「藁の楯」を3者の方向から考えてみました。
賞金10億円欲しさに誰もかれもが殺人未遂犯
日本全国民が10億円のために清丸の命を狙う。10億円というと想像もできないくらいの金額です、一生かかっても稼ぐことのできない金額かも・・・。それが清丸を殺しさえすれば手に入るのです。たとえ10人で協力して殺害したとしても1億円は手に入る。しかも資金を出すのが政財界の大物となれば、殺害さえすれば確実に手に入る可能性が高い。借金を抱えている人はもちろんチャンスさえあれば、と思っている人が無限大に増えてしまっても無理はないでしょう。でも大抵の人が清丸に近づくことさえ困難です、出された広告のために警察・SP・自衛隊と精鋭が彼を守っているのだから。危険なのは清丸に接近できる距離にいる人、そうですわざわざ殺しに行かなくてはいけない人たちより、清丸に手を伸ばせば触れることのできる人の方が殺害するチャンスがあるのです。この映画では、普段人の命を守る立場である警察・自衛隊・医療関係者なども、普通の人間なんだということを再認識させられるシーンがたくさんあります。また清丸が殺害したのも幼い女の子ということもあり、国民からの反感をかっているため、殺害しようとする側も正義を行っているような錯覚を起こしてしまうのでしょう。奴は生きている価値もない奴だと、10億円もらえるのであれば奴の命をみんなが狙っても不思議じゃない。集合意識の狂気がわかりやすく表現されています。
殺人犯でも自分の命は惜しいのです
自分は人の命を奪っておきながら、自分の命が狙われると助けてほしいと命乞いをする。殺人を犯す人間でも自分の命の重さだけは知っているようです。それが他人には置き換えられないのか、他人の命も自分の命と同じように重いことは知っているが人を殺したいという衝動の方が勝ってしまうのか、そこは快楽殺人者でなければ計り知れないところではあります。それでも、自分の命が危険にさらされると周りのSPに八つ当たりするところなど、同情をかう余地がないくらいのクズ加減には脱帽です。いくら殺人犯でもこれだけ命が狙われれば同情する過去の一つや二つあるでしょうが、そんな過去があったとしてもそれが何なんだというぐらいの自分勝手な人間だからこそ、文字通り全日本国民が敵になるというシナリオでも納得できてしまうのでしょう。世界中の殺人犯が清丸みたいな人間であれば、裁判官も極刑を下すのに、迷ったり心を痛めたりしないかもしれませんね。他人が傷つくことに関してはどうでもよく、自分の身が危険にさらされるとヤケをおこす、映画のラストでは結局死刑になってしまうのですが、なるべくなら1日でも長くいきたいと殺人犯でも思うのですね。
殺人犯を命がけで守るのも大変
映画でなくとも、殺人犯を守る立場の人たちというのは大変なものだと思います。自分たちは何も罪を犯していないのに「そんな人間を守るなんてどうかしている」とまで言われることも少なくないでしょう。ましてやこの犯人清丸は、幼い少女を自分の欲望のために殺した異常犯罪者です。守る価値なんてどこに見出せるのか、もはや生きている人間だからという以外守られる理由なんてないでしょう。しかも警察・SP・自衛隊なんて「国の税金じゃないか!」っていうところでますます反感を買う。守っている方側からも「こんな人間のクズを守る価値があるのか?」というものが出る始末。守るのが最後二人になった時、一番身近な一人になっていたからこそ、いろいろな感情が混ざって清丸を殺そうとした白岩の気持ちは共感こそすれ反感をかうことはないでしょう。それでも命がけで清丸を守る銘苅はSPの鏡というべきなのでしょうか?どうせ死刑になって最後には死ぬ運命の清丸、その清丸を助けるために何人が犠牲になったのでしょう。それでも、法治国家である以上清丸のようなクズでも殺してしまったら、殺した人は殺人犯になってしまう。銘苅は清丸を命を守ったというよりは、清丸を殺さないことで自分のSPとしての誇りと、誰一人殺人者にならないように国民を守ったといってもいいかもしれませんね。余談ですが、銃社会のアメリカであれば、清丸が「逃亡しようとした」とか言えばすぐに射殺されていたかもしれません、日本だからこそ成り立つストーリーなのでしょう。
「藁の楯」というタイトルがこの映画の内容そのもの
「溺れる者は藁をもつかむ」ということわざがありますが、「藁の楯」のタイトルを聞いて連想したことわざがまさにこれでした。命を狙われている清丸が、本当に自分を守ってくれる気があるのか信用できないものに守ってもらわざるを得ない。それどころか味方からいつ敵に寝返るかわからない関係、そんな頼りない関係が「藁の楯」として表現されているのでしょう。銃弾が飛んで来たら避けてしまうかもしれない、死にそうになっても助けないかもしれない、そんな危ういSPたちの葛藤もこのタイトルにこめられているような気がします。
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