女性を虜にした『最遊記』は果たして名作か - 最遊記の感想

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最遊記

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キャラクター
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設定
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演出
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女性を虜にした『最遊記』は果たして名作か

3.03.0
画力
2.5
ストーリー
3.0
キャラクター
3.5
設定
3.0
演出
3.5

目次

ゼロ年代における女性人気を集めた代表的な作品の一つ

2000年代、女性読者を虜にした漫画作品が数多く台頭した。ジャンプにおいては『テニスの王子様』や『D.Gray-man』『家庭教師ヒットマンREBORN』、スクエニ作品においては『鋼の錬金術師』、そして『最遊記』。これらに登場するキャラクターはいわゆるBLによくあてはめられ、公式のコミックスやグッズのみならず、二次創作家たちによる同人市場が多いに活況を呈し、結果としてコンテンツそのものを盛り上げる結果となった。

同人が売れれば、漫画の売り上げも伸びる。アニメ化の後押しも受けて、『最遊記』はティーンの女性たちを中心にバイブル的な漫画作品として一躍有名になった。アニメイトなどのアニメグッズ取り扱い店では『最遊記』のコーナーが広く用意され、下敷きやノートなどが売れに売れていた。

その人気のもとになったのは、一体何か。次項から考察していきたいと思う。

男四人の無頼旅 ルールは無用、女も無用

『最遊記』の中心人物は四人。三蔵、悟空、八戒、悟浄である。いずれも若いイケメンばかりで、タイプが全く違う。

誰が一番好きかということで盛り上がれるのも、女子の間ではポイントが高かった。その四人がジープに乗って荒野のような砂漠のような道を旅しつづけ、天竺を目指す。作中にはジープも出ればタバコも出る。メタ発言が平然と飛び交い、三蔵はリボルバーを武器にしている。

これがティーン女子たちのハートを掴んだ。かっこいいイケメンキャラたちの無頼旅。それぞれに女の影はないし、少年漫画に見られるベタベタとした友情劇もない。互いに干渉しない、あくまで大人の男たちのクールな付き合いが展開される。

このあたりの雰囲気は、洋画にも通じるものがある。だが、洋画に必ずといっていいほど取り上げられる性や麻薬は、潔癖性を重んじる日本の女性読者に嫌われると踏んでか、日常会話には登場しない。峰倉かずやはこの辺りの裁量が上手い。なにが武器になって、なにが嫌われるかよくわかっている。女性でありながら峰倉かずやという男らしいペンネームを使っているのも計算かと勘繰りたくなるほどだ。

ティーン女子を狙い撃ちにした『最遊記』の匙加減

その変わり、性をここぞというときのパンチに使う。悟浄の出生、兄と義母の不貞のシーンや、八戒妖怪化の件は、多感な女性読者の恥じらいと好奇心をここぞとばかりに煽り立てた。

ちょうど性に興味を持ち始めた年頃の女性にとって、『最遊記』の展開、キャラの仕草やセリフ回しは、甘美な毒となって思春期の人格形成に影響を与えただろう。事実、現在活躍する女性同人作家の多くは、『最遊記』から腐に目覚めたと述懐する者も多い。

さらに悟空の存在も巧いところだ。三蔵、八戒、悟浄は先に述べたように大人の男性としての役割、振る舞いで女性らを魅了したが、悟空は一人だけ外見が少年なのである。大人たちに囲まれ、時に相手にされないこともあるヤンチャ少年の姿は、女性読者たちの母性をくすぐった。大人三人がどちらかというと受動的に動くのに対し、悟空はコミックリリーフの役割を受け持つことが多く、物語に躍動感を与えるのに一役買っている。

四人揃っての『最遊記』。一人でも欠けてはならない旅路。互いに言葉にも態度にも出さないが、四人の間に確かな信頼関係を感じ取ったとき、読者は『最遊記』の根底に潜んでいる甘い罠にまんまとかかっている。そして退屈な日常生活からのトリップを楽しみ、同人漫画の世界に足を踏み入れるようになるのである。『最遊記』を一通り読んで真人間でいられたティーン女性は、誇りに思っていいぐらいだ。

女性に愛され続けた『最遊記』。一方で男性は

しかしながら、男性読者の目は冷ややかだった。

そもそも男性の漫画読者にとって『最遊記』はどこまでもマイナー作品であって、漫画好きを公言する男性でも『最遊記』を知らない人は多い。また、例え『最遊記』を知っている人でも二次創作で好まれる題材は冷ややかな目で見られ、今なお「腐が沸いた漫画」と忌み嫌う人間がいるのがほとんどだ。

漫画作品やアニメ作品は個人の好きこのみが分かれる。だから、一度そっぽを向かれてしまえば、もう一度振り向いてもらうことは難しい。連載初期においてBL好き女性たちから支持を受けた『最遊記』を、あらためて漫画として評価しようという人間は少なく、ファンは増えても読者は増えない、という結果に落ち着きかねなかった。

アニメが終わり、コミックスの刊行は頭打ち状態になった。連載は遅々として進まず、やがて世間の大多数は『最遊記』を忘れていく。

しかし、『最遊記』ファンは根強かった。月間連載の作品を待ちわび、アニメが終わってもなお里帰りをするように『最遊記』に戻っていく。”腐が去ったあとは雑草も残らない”と揶揄されることも多く、実際そういうコンテンツはごまんとあるのに対し、『最遊記』は今なおファンに愛され続け、現在ではミュージカルも再上映しているという結果に至っている。

『最遊記』は単なる腐女子向け漫画か、否か。答えはそこに隠れているように思う。

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