踊らない、女性の心に優しく寄り添った映画 - マダム・イン・ニューヨークの感想

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踊らない、女性の心に優しく寄り添った映画

4.04.0
映像
3.8
脚本
3.4
キャスト
4.2
音楽
3.5
演出
3.4

目次

踊らない、西洋的な感性のインド映画

2012年のインド映画。監督はガウリ・シンデー。弱冠41才のチャーミングな女性監督で、この作品が長編デビュー作になります。この映画はトロント国際映画祭で上映された後、本国インドでも大ヒットを記録し、彼女はこの年のインドにおける最優秀新人監督賞を受賞しました。今後が楽しみな監督です。

インド映画といえば、よくインドカレー屋さんなんかでDVDで流れている、大勢の男女が列をなしてひたすら群舞するシーンが頻繁に差し挟まれる、あの独特のスタイルの映画をつい思い浮かべてしまいます。日本でも「ムトゥ踊るマハラジャ」などがヒットして良く知られていますよね。

しかしあれ、日本人から見たらものすごーく面白いですよね。初めて見たときは唖然としました。でも、底抜けにハッピーで、なんとも景気が良くって楽しいし、かわいらしい。映画の年間作成本数が世界一だといわれるインド、映画はまさに老若男女のインドの人々のためのエンターテインメントとして、重要な役割を担っているのだろうなと思います。

しかし非インド人の私からすると、面白いけどまあやかましいし、映画の中身がどうにも頭に入ってきません。
ですが、最近のインド映画は、徐々にそのスタイルを変えて来ているようです。というか、きっとあの「トラディショナル・群舞スタイル」の映画はいちジャンルとして堅固にありながらも、洗練されたより西洋的なスタイルの作品も多く作られ始めたということなんでしょう。


本作も、良い意味で予想を裏切ってくれた一作です。お話中心、脚本ありきの映画だし、踊りません(笑)
ですが、そうは言ってもまだまだ話の展開が冗長な部分は気になりました。ただし、これは途中にインターバル(休憩時間)を挟むインドの上映方式に依る、上映時間の設定の事情もあるんだろうなとは思います。(今でも映画の途中で休憩が挟まるのかどうかについては未確認で、あくまで個人的な推測です。)
で、この映画も訳の分からないミュージッククリップ的なシークエンスが唐突に挟みこまれています。確かに踊りはない。踊らないんですが、結局インド映画ならではの演出になってしまっているので、いかにも中途半端。いっそ踊ったほうが全然いいぞ、と私なんかは思ってしまったのですが。そういった部分で当惑するというか、その度に気持ちが散らされてしまって惜しいなあ、という感覚はありました。


インド人女性がひとりの人間として敬意を持って扱われるということを知る物語

この作品は、インドのアッパークラスの家庭の主婦シャシが姪の結婚式のために訪れたNYで、長年のコンプレックスだった英語を克服する為に英会話学校に入るというお話。
上に書いたような気になる部分はあったにせよ、それらを差し引いても余り有るくらい、これは心ある良い映画だし、とても大事なテーマを扱っていると思います。

特に、ラストの姪の結婚式のシーンの高まりには素晴らしいものがありました。主人公シャシの、つたない、でも心のこもった英語でなされるスピーチのシーンでは、涙が止まりませんでした。
家族とはどうあるべきか。家族をつくる者として、自分がどうあればいいのか。シャシは言葉に詰まり詰まり、謙虚に、しかし穏やかに誇り高く話します。

カースト制度の国であり、近年ではレイプ殺害事件なども立て続けに起こっているインドという国における女性の地位は、たとえアッパークラスではあってもけして先進国のようには恵まれたものではないだろうと思われます。少なくともシャシの言うような、equal(対等)ではあるまいと思います。

さらに、この映画で語られていることはインドだけのことではないと一人の女性として痛感します。現代の拝金、資本主義社会において、直接金銭を稼ぎ出さない、生活を支える諸々の「女の仕事」は、とても軽んじられていると思います。お金を沢山稼いでいる人は、お金を稼いでいない人よりも価値があるし、当然重んじられると、多くの人が何の疑いも無く信じているように見えます。でもそれは、ほんとにそうなんだろうか?そのことを、この映画は、とても軽やかで楽しい物語の形に乗せて、観る人に問うています。

やっぱり涙が出たのは、小さな日常の中で、世の中や家族や関わり合いになる色々な人とのやりとりの中で、子育てに追われる日々を生きている自分もまた軽んじられている存在であるということを、自分自身が感じているからに他ならないのかもしれません。

しかし、それ以上に、この映画に叱咤させられたのだと思います。世の中がこのような状況のなか、自分自身も資本的拝金的な価値観に染まって、どこか卑屈になり、誇りを持って生きることができていないということをつきつけられたからなんだと思うのです。普段考えないようにしていることを、ぐっと見せられたかんじがしました。

Now the time I have to help myself.

美しく、有能な主婦でありながら、夫に軽く見られ、高い教育を受けているバイリンガルの娘にも軽んじられ、仲間の女性以外からの敬意を受けることなく生きて来たインド人女性、シャシ。彼女は思いがけなくニューヨークで新しく色んな人種の色んな人と出会い、自分の良さを認め、褒め、好いてくれる男性にも出会った。

色恋とかそんな浮ついたことではなく、ひとりの人間として自然な敬意を示されることを、また自分がそうされるだけの価値のある人間なのだということを、ニューヨークの町でシャシは初めて身をもって知った。その事は、シャシにとって静かな自信となり、やがて姪の結婚式で『人は、相手に対して愛と敬意を持って接しなければならない』ということを、毅然と彼女は話す。これは、ひとりの女性のそういう物語です。

キャストも魅力

それにしても、主演のシュリディヴィはめっちゃ可愛らしかったです。彼女は日本で言えば、さしづめ吉永小百合のような存在の女優さんかと思われます。押しも押されぬ国民的大女優であり、変に若造りすることなく清楚でかわいらしくって。特別目立つ衣装を着ているわけでもないのに、画面のどこにいてもぱっとそこだけ華やぐようで、自然に視線が吸い寄せられてしまう。こういう人を「スター」というのでしょうね。4才から多くのインド映画で活躍し、ボリウッド映画史上最も活躍した女優のひとりといわれるだけのことはある、さすがの存在感でした。

しかし、彼女はそこまで成功した女優にも関わらず、結婚を機に15年もの間休業していたとのこと。そのような逸材を再び表舞台へと引っぱり出してきたことも、この作品を成功させた大きな理由のひとつだと思います。

シャシに恋をするローラン役のメーディ・ネブーも素敵だったし、姪っ子役のプーリヤ・アーナンドもきらきらと怖いものなしの若さの輝きが見ていて嬉しくなるような魅力でいっぱいでした。

久々に嬉しい予想外が多い作品でした。

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他のレビュアーの感想・評価

はじめてのインド映画は美しかった

美しかった!はじめてインド映画をしっかりとみました!元々インド映画には歌とダンスの華やかなイメージはありましたが、描写が大変美しかったです。そしてシャシを演じていらっしゃるシュリデヴィさんの魅力!すごく神秘的な美しさで、女性の私からみても惚れ惚れしてしまいました。そしてインドの洋服であるサリーにも。サリーって女の子の憧れがつまっている民族衣装でもあると思うんですよ。鮮やかな色でヒラヒラしていて!あと結婚式の場面もとても美しかったですね。結婚式って宗教でけっこう違いがでるので、見ていてとても楽しいです。異文化私も英語は苦手だし海外にも行ったことがないので、あの出発前の不安な感じはよくわかります。日本は実用的な英語を義務教育で教えないこともあってそこまで英語で困るってことはないのですが、実践的な英語教育をさせている学校の両親は大変でしょうね。言語って本当に習得するのって大変なことだと思うん...この感想を読む

4.04.0
  • ころなころな
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