つむじ風食堂の夜の感想一覧
吉田 篤弘による小説「つむじ風食堂の夜」についての感想が4件掲載中です。実際に小説を読んだレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
こんなにきれいな小説があるなんて(本作にぴったりの一曲を添えて)
こんなにきれいな小説があるなんて種も仕掛けもございません。そこにあるのは、午後6時に開店するパリの裏町にありそうなビストロ風食堂。お客さんはいつも顔なじみばかり。この小説は、そんな月舟町の十字路の角にある、どこか懐かしい雰囲気のつむじ風食堂に集う“先生”と、お客さんを描いたたわいないお話だ。こんなにきれいな小説があるなんて。本作を読み終えて、最初に感じたのが、これだった。つむじ風食堂に出てくる料理―クロケット、ステーキ、オムライス、サーモン定食などなど―はとても美味しそうで、個性派揃いの登場人物―おしゃべりな帽子屋さん、イルクーツクへ星を描きに行きたい果物屋さん―も魅力的。“先生”と奈々津さんとのオレンジを交えた、いい大人の淡い恋愛も素敵。どこか遠くの離島にぽっかり広がった世界のようで、なんだかすべてが夢の中のつくりごとみたいで、最初から最後まで、やさしい言葉でていねいに紡がれた物語だっ...この感想を読む
静かな小説
これもまた実に吉田篤弘さんらしい作品。カバーデザインはもちろん吉田篤弘・吉田浩美ご夫妻ということで。カバーのデザインとも相俟って、世界観や流れる空気がやはりやわらかで静か。本当に夜だし、食堂だし。と言っても、人が集まっている、にぎわっている食堂とはまたちょっと違って。個性的な人たちが集まって、主人公として「雨降り先生」がいて。彼を取り巻く人々・物事のお話。映画化もしていて、八嶋智人さんがされているのはぴったりじゃないかと思っている。彼の父親が手品師だったというのも、物語に深い印象を落としている設定ではないだろうか。情景が難なく想像できるのが良い。
あなたの昔話
「あぁ...懐かしい」ボクはこのようなタイトルの本はまったく読まない。でも、何か「ミステリアス」な雰囲気を感じ、ボクがそのキーワードを好きなこともあり、手に取りました。「食堂の夜」?なんのこっちゃ??笑内容は、ド田舎の小さな小さな町のゆるーい日常がメインで構成されていた。かなり淡々としたストーリーである。つまり、まったく「ミステリアス」な部分がなく、文学小説のような夏目漱石のようなご老人がすごく好きそうな(偏見すいません)小説でした。独特の世界過ぎて、ボクにとっては読みづらい作品でしたが、この手が苦手なジャンルのかたでも、最後まで読める作品です。
『ここ』はどこなのか
舞台となる月舟町は、作者の吉田篤弘氏が幼い頃住んでいた街が元となっているそうで、この街は『それからはスープのことばかり考えて暮らした』の主人公、オーリィ君が足繁く映画を観に通う街としても登場する。吉田氏の各作品の舞台は、いつも東京の下町を彷彿とさせる。行ったことがなくても、暮らしたことがなくても、なんとなく想像する「東京の下町」の風景や建物の佇まい、人々の顔ぶれなどが、すごくイメージにしっくりくる。この作品はそんな街を舞台に『雨降りの先生』を主人公として、先生にまつわる人々や物事を静かに描いた作品だ。静か、という形容詞がよく似合う。果のない夜と宇宙の深淵に自分の『ここ』が消滅してしまうようなイメージの作品だ。この作品は、同タイトルで映画化もされている。主演は八嶋智人だ。作品の空気が見事に映像化されているので、ぜひこちらもご覧頂きたい。