薄幸の作家・中島敦の孤独な魂を表現した名作「李陵」
薄幸の作家・中島敦の孤独な魂を表現した名作「李陵」中島敦は、作品が発表され始めてから、一年足らずのうちに他界した薄倖な作家です。その優れて純粋な作家的な資質が、どのような展開を遂げるのか、限りなく未知なものを持っていた作家だろうと思われますが、彼の死後、残された数少ない作品は、全てが一級の完成品と言ってもよく、特に「李陵」は、見事な結晶度を示す名作だと思います。意志的で格調高い、彼の洗練された、漢文学の素養に裏付けされた、独自の文体は、その書き出しではっきりと、その素晴らしさを味わう事が出来ます。「漢の武帝の天漢二年秋九月、騎都尉・李陵は歩卒五千を率い、辺塞遮虜鄣を発して北へ向った。阿爾泰山脈の東南端が戈壁沙漠に没せんとする辺の磽确たる丘陵地帯を縫って歩行すること三十日。朔風は戎衣を吹いて寒く、如何にも万軍孤軍来るの感が深い。漠北・浚稽山の麓に至って軍は漸く止営した。既に敵匈奴の勢力圏...この感想を読む
5.05.0
PICKUP