1981年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した、アンジェイ・ワイダ監督の「鉄の男」
アンジェイ・ワイダ監督の「鉄の男」は、1950年代の労働英雄ビルクートが、ポーランド社会の激動の中に消されていった過程を描いた「大理石の男」の続編とも言うべき作品で、1980年8月のグダニスクの造船所のストライキが背景になっている。 そのストライキの首謀者である若者マチェックこそが、ビルクートの息子であり、演じるのも同じイエジ・ラジヴィオヴィッチという俳優だ。
前作の「大理石の男」では、映画大学の女子学生で、クリスティナ・ヤンダ扮するアグニェシカが、姿を消したビルクートの行方を追いながら、ドキュメンタリー映画を撮ってゆくという設定になっていた。 ビルクートは遂に見つからず、当局の圧力により、撮り終えたフィルムは、テレビ局に没収される。 その後、アグニェシカは、ラストでマチェックに会い、テレビ局に抗議して、フィルムを渡すよう要求するが、断られ、そこで映画は終わっていたが、この「鉄の男」では、この男女がすでに結婚している。
そして、今回はラジオ番組のリポーター、ヴィンケルが、ワルシャワの放送局から造船所のストライキの取材を依頼されるところから映画は始まる。 実はその目的は、指導者のマチェックを陥れるデータを集め、ストライキを圧し潰す事にあったのだ。 前作ではわからなかったビルクートの死が、ここではっきりするのだ。
労働者のデモを指導していたビルクートは、街頭で何者かによって、叩き殺されたのだった。 死体安置所で父の遺体を見たマチェックは、大学をやめて労働者としての戦いに立ち上がろうとするのだ。 造船所組合の生ぬるいやり方に業を煮やした彼は、単独で抗議活動に出て、遂に狂人扱いされ、病院に強制的に収容されるのだ。 一緒にビラ撒きなどをやっていた妻のアグニェシカは、拘置所に入れられる。 ヴィンケルは、その彼女に話を聞きに行き、マチェックたちの行動を心の中で支持するようになる。
このような政治的なテーマを扱った映画というと、妙に固苦しいものを想像しがちだが、アンジェイ・ワイダ監督は、マチェックとアグニェシカの度重なる駅での別離なども、甘い伴奏音楽を流しながら、メロドラマ的なムードを盛り上げる事も忘れないし、また、この映画はサスペンス的な面白さもあるのだ。
こうした苦節の末、造船所のストライキは、組合側の勝利に終わり、8月31日のスト中止の調印式には、マチェック、そして出獄したアグニェシカなどの労働者たちの詰めかける中に、自主管理労組"連帯"の委員長であるレフ・ワレサが進んで来るのだ。 実は、本物のワレサ委員長が、自分自身の役で特別出演しているのだ。
この映画は、1981年のカンヌ国際映画祭で、グランプリを獲得していて、あの時は、まだワレサ委員長も"連帯"も健在の頃だったのだが、その後、ワレサ委員長も"連帯"も、当局の弾圧によって、圧し潰された為、苦い感慨を覚えずにはいられない。 政治的な戦いも、そして人生そのものも、所詮は空しく儚いものではないかという深い挫折感を、この映画は感じさせるのだ。
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