刑事クルト・ヴァランダーが活躍するスウェーデンの警察小説の第1弾となる作品「殺人者の顔」
過疎化地帯の農村から警察に通報があった。隣の家のものが死んでいると。駆けつけた警察官が見たものは無残な光景であった。被害者は老夫婦で、夫は必要以上に傷つけられ死亡、妻の方はロープで縛られ、最後に「外国の」という言葉を残した後に死亡した。犯人はいったい何故に残虐な殺し方をしたのか?--------。
この「殺人者の顔」は、刑事クルト・ヴァランダーが活躍するスウェーデンの警察小説の第1弾となる作品だ。
この作品は、ガチガチの警察小説であり、さらにはスウェーデンの社会情勢の一端を垣間見ることのできる社会派小説でもあり、スウェーデン国内での外国人問題をテーマとして物語が描かれている。どうやらスウェーデンという国は移民を全て受け入れるという政策をとっている(現在はどうかわからない)ようで、その事が国内に様々な問題を引き起こしているように思われる。この作品では一つの事件を通して、外国人が犯罪を起こせば、どのように社会が揺れ動くのかと言うことを描いており、それはまるでアメリカにおける黒人問題を感じさせるようなものになっている。
このように、やや堅めの内容の作品であるが、そこに色を添えているのが、この作品の主人公、刑事クルト・ヴァランダーなのだ。この刑事は他の警察小説で見られるような、中年の猛烈型ではあるのだが、ちょっと他の主人公達とは異なる一面をもっている。その一つは、周囲の同僚などに対して、細かい気配りをしているというところ。よって、本人はバリバリ働いてはいるものの、決してそれを必要以上に周りに強制するようなことはしない。そうした気配りや、ちょっとした気の弱さが垣間見えるところなどがこの作品の“色”であると感じられる。
この作品の評価はどうかといえば、ラストの尻つぼみ具合が非常に気になった。中盤までの展開はかなり良いと思われたのだが、最後がやけに単調で散文的であり、途中までの勢いはどこへ行ってしまったのだろうと言いたくなる。また、ミステリとして最終的な結末も曖昧で、その辺は結局のところ、この作品は社会派小説という方に比重を置いてしまったせいかも知れない。
中盤までのテンションで、最後まで続けてもらいたかったなと思う。
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