ハリウッドなのにハリウッドらしくない名作 - アンダーカヴァーの感想

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ハリウッドなのにハリウッドらしくない名作

3.53.5
映像
2.5
脚本
2.5
キャスト
3.0
音楽
5.0
演出
2.5

目次

うれしい2大スターの共演

この映画は主演がマーク・ウォールバーグで、彼の弟役はホアキン・フェニックスだ。マーク・ウォールバーグは個人的には、彼が出ていたら観てみようかなというくらいには好きな俳優だ。そこに「サイン」や「8mm」で強烈な存在感を感じさせたホアキン・フェニックスが出ているとなると、観ないわけにはいかない。ただ、タイトル通り、ニューヨークの警察とマフィアの絡みがメインのテーマとなると、あまり食指が動かなかったのは事実だ。警察同士の仲間意識の美しさ、殉職した人への過剰なヒーロー扱いなどをただ強調しただけの映画を多く観ただけあって、今回もそんなものだろうと思っていたからだ。
だけどどうしてもこの2人が出ているとなると気になってしまい、手に取ることとなる。そしてその結果最後まで観るのを止めることができなかった。
それは当然この二人の鬼気迫る演技もあるけれど、それ以外にも多くの理由がある。そしてそれこそがハリウッド映画なのに、ハリウッドらしくない名作といわせしめるものだと思った。

冒頭からのホアキン・フェニックスがストーリーに引き込む

この映画の始まり方も個人的には好みだ。恐らくノンフィクションの写真を使っているのだろう、警察が犯人を逮捕するところや、麻薬関係の現場の生々しい写真などが、淡々と流れていく。だいたい、映画が始まり方で、キャストの名前などがだらだらと長く続くタイプは好きではない。終わりかと思わせるほどのその長さだけで、もうその映画を観る気がしなくなってしまうのだ。それはそんなセンスでいい映画が作れるわけがないと思いがあるからだ。しかしこの映画もストーリーが始まるまでが長いにもかかわらず、リアルなノンフィクションの写真を出すことで、いきなり観る側を引き込んだ。
そこからホアキン・フェニックスの登場だ。ホアキン演じるボビーがアマダにセクシーに迫るシーンはギャングのように悪そうでもあり、少しふざけた恋人のように甘くもあり、この二人はどんな関係だろうとそこでも引き込まれる。
ここから展開は早い。ボビーの仕事、ボビーの家族、家族との関係などが簡潔に表現される。わかりやすいのは、マーク・ウォールバーグ演じるジョセフの昇進パーティでの一幕だろうか。警察エリート一家としての威厳と誇りで生きているジョセフと、家族の鼻つまみものとして生きてきたボビーとの対立の場面だ。対立といっても感情をむき出しにしているのは兄ジョセフのほうで、ボビーはどちらかと言うと理解してもらえることをあきらめたような哀しみが感じられる。
この映画の見所はたくさんあるけれど、この兄弟、そして父親の家族ドラマもそのひとつだと思う。

マーク・ウォールバーグの演技

この映画では彼は思いがけなく兄役だ。比較的ベビーフェイスな彼がこんな役ができるのかと内心は思っていた。
マーク・ウォールバーグは「TED」のようなコミカルな演技もできれば、「ローン・サバイバー」のようなシリアスな演技もこなせる俳優だと思う。しかも役柄のためには大幅な肉体改造もいとわないことで知られてもいる。しかしどこか幼い感じがして、その幼い顔ゆえに「ローン・サバイバー」では向こう見ずな兵隊役がよくはまっていた。
個人的には「ザ・ファイター」の役が、マーク・ウォールバーグの印象だ。ダメな兄に愛想を尽かしながらも、隠せない愛情が溢れているような抑えた演技が印象的だった。他にも「ハプニング」や「ミニミニ大作戦」「猿の惑星」など多くのはまり役はあったけれど、どうしてもエリート警察の兄役と言うのが想像できなかった。
だけれども、今回の兄役はなかなか合っていたと思う。エリート意識だけではない元来の融通の利かなさや、だからこそ優秀な警察官ぶりがそれほど時間が経たないうちから感じられたのは、彼の演技によるものだと思う。
特に、ジョセフが車から降りて拳銃を突きつけられた瞬間の場面が心に残っている。あの時、彼の表情から恐怖と覚悟が一瞬にして感じられた。あの場面はこの映画でもかなり強烈な場面だと思う。
とはいえ、マーク・ウォールバーグでなければならないというほどではなかったところが正直な感想だ。どうしても面倒見の良い人間に見えてしまうからだ。ここはもっと悲壮感を出せるコリン・ファレルとかエドワード・ノートンとかはどうだろうか。クリスチャン・ベールもいい。難しいところだ。

ホアキン・フェニックスの演技

エリート警察一家から脱落し、自由な道を選んだホアキン・フェニックス演じるボビーは、それなりにうまくやっていた。ロシアマフィアが経営するバーの雇われ店長として信頼関係をうまく築いていた矢先、兄が指揮する強制捜査によって立場が危うくなってしまう。
しかしそのことで兄が殺されかけたことで、自分が汚れ仕事をやることを決意する。すなわち、麻薬工場にアンダーカヴァーすることだ。
映画でこのような身分を偽って、相手の懐にもぐりこむ映画は多くある。一番有名なのが、ジョニー・デップ主演の「フェイク」だろうか。実際の話で、いまだに彼の首に懸賞金がかかっていることがリアルだった。
しかしそれとは違い、この映画のボビーはいわば、さほどの覚悟がないまま、義憤にかられてやってしまった感が大いにある。だからすぐに敵に見破られる。そもそもライターに盗聴器が仕込んであるのなら、ニジンスキーに出会うときからそのライターを使うべきだ。そこで使い捨てのマッチを不用意に使うことですぐにばれてしまった。
でもその展開が決して悪くない。あまりにもどんくさいその展開がなにやらリアルで、ついついボビーに感情移入してしまいハラハラしてしまった。
そしてそのどんくさいところこそが、ボビーの魅力かもしれないのだ。そう思わせたのはひとえに、ホアキン・フェニックスの演技力だと思う。

BGMがほとんどないという素晴らしさ

この映画のなんといっても素晴らしいところは、余計な音楽が一切ないところだ。ハリウッドお得意のカーチェイスでさえ、音楽がまるでない。代わりにボビーの息遣いのみが聞こえる。その緊迫感は音楽では演出できない素晴らしさだった。
特に父親が死んでからは音さえもない。耳鳴りがするような静けさがことの大きさを強調し、こちらまでも恐ろしくなるくらいだった。
BGMの全てを否定するわけではない。ジブリシリーズやピクサーアニメでは耳障りに思ったことはない。映画だって、うまく音楽を使っている映画も少なくない。反面、まだそんな古い効果音を使うのかというくらいがっかりすることも多い。音楽だけならまだしも、びっくりさせるためのバイオリンの甲高い音や、「ジョーズ」のようなわざとらしい不安をあおる音を簡単に使う映画がどれほど多いことか。誤解のないように言っておくと、「ジョーズ」のあの音楽を初めて使った監督はすごいと思う。でもそれを考えなしに真似しているような映画があまりにも多いから、ここまでの拒否反応になってしまうのだと思う。
この映画のテーマ自体はそれほど魅力的ではない。ストーリーも月並みだ。でもそれをここまで観させるのは、余計なBGMがないことが一番大きな理由だと思う。

2大スターだけでない楽しみ

マーク・ウォールバーグや、ホアキン・フェニックスだけでなく、この映画には有名な俳優を見ることができる。
例えば二人の父親役のロバート・デユバル。華々しい主役こそそれほどないものの、個性的な渋い脇役を淡々をこなすことで知られている。それにボビーの相手役アマダは、「トレーニング・デイ」や「ゴースト・ライダー」など、多くの有名作品を持つ。そしてそのどれもがセクシーさだけでない、確実な演技力をうかがわせる役であり、実力的俳優だ。
この映画はビッグネームを使い、アメリカの警察社会とマフィアの絡みといったバイオレンス、そして家族の愛といういわば、「ハリウッド的売れるための要素」(これはティム・ロビンスの「ザ・プレイヤー」で知ったのだが)を含んでいる。にもかかわらずそれほどハリウッド的でないのは、音楽がないこと、そして俳優たちの抑えた演技にあるのではないだろうか。
最近ハリウッド映画には見切りをつける気持ちでいた。だからこそ、ヨーロッパの映画のほうに興味を持って観ることが多かった。でもこの映画は、ハリウッド映画も悪くないと思わせてくれた。
こんな映画がこれからも出てきてくれれば、これからもハリウッド映画を観続ける価値がある。そう思えた映画だった。

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