ギャグマンガの金字塔も時代の子 - 天才バカボンの感想

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天才バカボン

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画力
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ギャグマンガの金字塔も時代の子

5.05.0
画力
4.5
ストーリー
4.5
キャラクター
5.0
設定
5.0
演出
5.0

目次

史上もっとも有名なギャグマンガ

この形容に異論がある方はいらっしゃらないでしょう。ギャグマンガの帝王・赤塚不二夫の代表作であり、何回もTVアニメ化もされています。連載開始から50年以上、おおむねの終了から40年が経過した今となっては、古典と呼んでいいのかも知れません。

なんと言ってもこのマンガの最大の売りは、バカボンのパパです。赤塚3大マンガといわれる他の二つ、「おそ松くん」「もーれつア太郎」が、脇役キャラクターが目立つあまり主人公の影が薄くなっているのに対し、パパだけはどれほど異常な脇役キャラクターが増えても厳として屹立しています。もっとも、主人公はパパではなくてバカボンではないかという方もおられるかも知れませんが、タイトルロール必ずしも主役ならず。とはいっても、バカボン家は、表札になぜか「バカボン」と記されている不思議な一家ではあるのですが。

今では見られなくなったタッチ

赤塚不二夫は広く知られているように手塚治虫直系、いわゆるトキワ荘グループの一員です。「のらくろ」に代表される戦前マンガを一新するニューウェーブとして登場した手塚マンガに強く憧れ、同じように地方から上京した藤子不二雄や石森章太郎と強固な盟友関係にありました。

そのタッチはもちろん手塚の強い影響下にありますし、戦前マンガの遺風さえ若干残しています。赤塚は若手時代には少女マンガを多く書いていました。有名作品は「ひみつのアッコちゃん」は「おそ松くん」と同時に彼の最初の大ヒットとなりました。

つまり、「天才バカボン」といえども、時代の子なのです。

現在のギャグマンガの主流は、「こち亀」や「浦安鉄筋家族」に代表される、劇画風の濃密な線で描かれるもので、「天才バカボン」のようにシンプルな描線のものは。ほとんど4コママンガにしか見られません。したがって、現在このマンガに接するときは、どうしてもある種の時代の香り、60年代テイストを感じざるをえないのです。もちろんそれは「天才バカボン」の欠点では決してなく、むしろリアルタイム時にはなかった風味が加わったとみることもできます。まあ、土管が転がる空き地というのも昭和の風景ではありますが。

なお。ギャグマンガを濃密な描線で描く技法の元祖は、おそらく赤塚自身です。ただ、突如タッチが一変する笑いのエフェクトとして用いたので、基本の画風に変化はありませんでした。「天才バカボン」でも、後半にはいたるところで散見することができます。 

初期は人情ほのぼのマンガ?

「天才バカボン」が、前半、というよりも、ごく初期が全く別物のような作品であることはよく指摘されるとことです。バカ田大学も登場しませんし、ピストルのおまわりさんも登場しません。ハジメちゃんが誕生する前後の家庭劇を中心にして、ややほのぼのした空気さえ感じられるのです。この時期にレギュラーで登場するおまわりさんは後年のとは別人ですが、バカボン親子を馬鹿にして悪戯をしかける町の人々を叱りつける人情家でもあります。

では、この時期の「バカボン」が、ほのぼの人情マンガだったかというと、大いに疑問があります。特にパパが人情家だったというのはTVアニメしか見ていない人の大きな勘違いで、彼はこの時期からネジがはずれた人間です。放火殺人もシレッとやっていまいます。これは、おそらく当時の少年マンガの規範からは既に大きく逸脱したキャラクターだったはずで、むしろ全体がソフトな人情劇の名残をとどめているだけに、異様さが際立っている感すらあるのです。

いわば、初期バカボンは、赤塚ギャグ前回前夜の、橋頭堡的な役割を果たしているともいえます。

中期がもっとも充実

「天才バカボン」は、巻が進むごとに過激さや実験色が増し、1頁1コマとか、さまざまな試みがなされていきます。ただ、同じ作者の実験性がもっとも凝縮された「レッツラゴン」が今ひとつキャラクターの魅力に欠け大ヒットにならなかったのと同じことが後期バカボンにも言えると思います。

「天才バカボン」には、明確な最終回がありません。バカボン家が家庭崩壊してしまう話とか、ピストルのおまわりさんが相打ちになって共に死んでしまう話もあるにはあるのですが、これらを最終回と認める人はいないでしょう。その意味では、赤塚不二夫が煮詰まってしまう前、バカ田大学やピストルのおまわりさんが登場するあたりから、ウナギイヌが登場してしばらくぐらいのあたり、中期がもっとものびのびとしていて充実しています。また、初期から中期に移るあたり、パパとママのなれそめが描かれるあたりの回も活力があって楽しい時期です。このころの赤塚不二夫には、空を破る実験を志しつつも、児童マンガ作家としての初志みたいなものもしっかりと感じられるからです。

「天才バカボン」は、名作ではありますが、時代の子としての、また作者の試行錯誤を示す、激しい変遷の跡もまた味わいのひとつといえるのではないでしょうか。

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