耽美派の鬼才・田中登が遺した乱歩ワールド - 江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者の感想

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江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者

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映像
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脚本
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キャスト
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音楽
4.50
演出
5.00
感想数
1
観た人
1

耽美派の鬼才・田中登が遺した乱歩ワールド

4.54.5
映像
5.0
脚本
4.5
キャスト
4.5
音楽
4.5
演出
5.0

目次

江戸川乱歩でも屈指の映画化人気作

2015年は江戸川乱歩の没後50年にあたり、同年末をもって膨大な作品の著作権は保護期間切れとなりました。戦前から多数の作品が映画化、テレビドラマ化されてきた巨匠ですが、長編の構成力に難点があるといわれてきた人だけに、意外と長編の映画化が多くありません。東映の「恐怖奇形人間」は、中篇「パノラマ島奇談」と長編「孤島の鬼」をドッキングして短編を二つほど断片的にまぶした脚色でしたし、「陰獣」の原作は中篇です。何よりも不思議なのは短編「屋根裏の散歩者」の映画化人気が高いことです。Vシネマに近いものやピンク映画を含めると5回。これは相当な数です。何しろ60枚ほどの長さしかない上に物語も単純で、エロティックな要素もほとんどないのですから。

秘密は、5本の映画が全部原作題名をそのまま使っていることにあります。ちなみに、テレビドラマ化は4回されているのですが、これも、うち3回が原作題名どおりです。つまりインパクト抜群なタイトルなのです。原作にエロティックな描写がなかろうが、いやがうえにもそうした想像をかきたてずにはおれませんし、なければオリジナルで作ってしまえばいいのです。

1976年の日活映画「屋根裏の散歩者」は、どうだったでしょうか。日活ロマンポルノ5年目、もっとも充実していたころの作であり、監督田中登は前年「実録・阿部定」で「愛のコリーダ」に先行して同題材を取り上げ、勝るとも劣らぬ国内評価を勝ち取った耽美派の鬼才です。脚本いどあきおも、やはり曲者中+の曲者。しかも主演は宮下順子と石橋蓮司という垂涎ものの豪華コンビです。脇も後述しますが適材適所で固めています。

素晴らしすぎるロケセット

結果は、演出も脚本も主演者も、申し分ない仕事をしてくれたのですが、もうひとつこの映画には協力無比のファクターが加わっています。それはロケセットです。おそらく屋根裏を含めた室内場面は日活撮影所にセットを建てたのだと思いますが、外観と、入って中庭をぐるりと囲む内廊下はロケセットです。これは、どこで探してきたのでしょう。大正ロマンとデカタンスの香りを湛えた、素晴らしいものなのです。1976年当時はまだこんな建物が残っていたんですねえ。記録としても貴重です。ビデオを入手してから、この建物内部をカメラが嘗め回す冒頭部を何十回見返したことでしょう。その迫真ロケセット映像に、白昼夢のごとく日傘をさして現れる宮下とその痴態、まだ若い石橋の冷えた狂気演技、そしてこれまた凝った室内セットが巧みに挿入され、観客はもう完全に虜です。救世軍のトランペットをあしらった音楽も何とも言えません。

ドラマを支える女たち

いど脚本は、さすがに原作の遊戯殺人はきっちり抑ええていますが、明智小五郎による解決という後段はばっさりカット、後年の実相寺昭雄版「屋根裏の散歩者」(これまた見事な映画です。かくもすばらしい長編映画を2本も生み出した短編小説というのも古今東西まれではないでしょうか)と違って、この映画には明智は登場しません。

かわりに、原作にはまったく登場しない女たちが投入され、ドラマを支えています。宮下以外で印象深いのは、下宿専属の女中・田島はるか。タージマ・ハールにちなんでつけた芸名だといわれる彼女は、その名のとおり素顔はインドおたくだそうですが、東映や日活の映画では純情な役と攻撃的な役を演じ分けている人です。この映画はまあ純情派の方で、気はいいがだまされやすい田舎娘を演じて、いい味を出しています。もう一人、インテリぶった女画家(渡辺とく子)が登場。石橋は宮下以外にもこちらとも関係を結びます。ピエロの扮装で宮下にもてあぞばれる住人の男とか、人間椅子もどきとか、男も随分ヘンなのが色々でてきます。あと、石橋が連れ込んでくる売春婦が中島梓。ロマンポルノ的には結構豪華な顔ぶれです。

ただ、中盤は大正ヒマ人たちのセックス遊戯図鑑みたいな感じになって、少々ダレてくるのも確かです。宮下とその夫が上流階級に属する以外は遊民みたいな連中ばかりで、その生態への興味で何とか映画が持っているような印象さえ出てきたところで・・・新たな殺人も発生はしますが。話は人間関係もふくめた、その解決へ移っていくかと思っていると。

最後は関東大震災

それで殺人も謎解きも愛憎マンダラも、すべてチャラです。登場人物もほとんど死に絶えます。いいのかよそれで、と思わないでもありませんが、何しろ凝り性の田中監督、映像がはんぱじゃない。地震そのものを描写する特撮にお金は使えなかったかわり、一面廃墟となった描写が物凄い。夢の島へロケセットを組んだそうです。そして、ただ一人生き残った女中が、明るく「カチューシャの唄」を歌いながら(完全に発狂している)井戸で水汲みに励む場面、その清水がだんだんと血に染まっていく様をクローズアップでエンディングです。思わず出かかった文句を飲み込んでしまうほどの衝撃的なラストシーンでした。

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