たった二人の小学生が大人に勝利する痛快コメディ
研一と昭が犯人と疑われる!!
この街の大きなケーキ屋さん、金泉堂の社長に戦いを挑むことになる。ケーキといえば、ご褒美の象徴で、大人は子供に言うことを聞かせられる大事なアイテムだ。その店の中のチョコレート城は子供にとって権力の象徴だ。研一と昭が学校の帰りショーウインドウを眺めただけなのに、たまたまガラスが割れて犯人に疑われた二人がなんとか自分たちが犯人じゃないことを証明するために立ち上がる。この時の大人の態度のショックはかかりしれない。たまたま空気銃をもっていて、たまたま男の子二人組がずっとケーキを眺めていたというだけでお店の従業員はこんな悪質ないたずらをするのはお前たちしかいないんだぞと決めつけてくる。子供の心中を図ると地獄に突き落とされた気分だろう。ましてや相手は天下の金泉堂だ。僕たちが何をしたんだ!と怒りと悲しみがふつふつと湧いてくるのが読んでいて心が痛くなった。今まで自分たちの、ご褒美の象徴である街で唯一のケーキ屋が敵に回った瞬間だ。見ているこっちもドキドキしてくる。いつのまにか私は研一と昭の仲間になって宣戦布告をしていた。
担任の桜井先生だけが犯人でないと信じてくれた
たまたま空気銃を持っていた、なんかやんちゃそうな男の子二人でいかにもいたずらしそうだという風貌だけでお店の大人たちは自分たちを犯人ではないかと疑うところに、大人は常識で誰も疑わないのに対して子供は非力だということをまざまざと見せつけられて、自分の小学校時代にいじめをしたんだろうといじめられたと主張する子供の家に親と謝りに行かせられたことを思い出した。でも担任の桜井先生だけが自分たちを疑わず信じてくれたのが地獄で仏とはこのことではないだろうか。私にもそんな大人がいたら、やさぐれた小学校時代を送らなくて済んだのにと思った。担任の先生が誰になるかで子供のその後の人生が大きく変わるのだ。時には親以上に、子供の人生に影響を及ぼしてくるのが担任の先生なのだ。桜井先生で本当によかった、桜井先生にも私からお礼をいいたい、そして、幸せになってねと願わずにいられない。
金泉堂に子供が勝った瞬間
権力の象徴であるケーキ屋、支配人、学校、親を相手に非力な小学生たった二人がが無い知恵と力で最後は勝利する過程と瞬間は実にすがすがしい。ケーキといえば大人が子供に黙らせる一番の常套句だし、私もそうだった。そのケーキ屋が敵というのは、対構図として実にわかりやすい。苺のショートケーキ、エクレア、ガトーショコラなど聞くだけでよだれが出そうな誘惑が出てきて、悪の代官のような金泉堂の社長は毎日これを食べるという、苦々しくなる気持ちなる。しかもこの社長も単なるバカでなく、子供の仕返しの計画をまんまとうまく利用するのに成功するという、地団太を踏んでしまう内容だ。そこが大人といえども社長だ、あまくはなく、簡単に引き下がらないのが、物語としてのめりこんでしまう内容だ。時代劇風に言えば「そちも悪よの~う」と言ってしまいたくなるような、悪代官の親玉に見えてしまう。しかもこの社長、子供をだますのに成功したと知って、喜ぶさまも実に憎々しく感じてしまう。でもここにきて諦めないのがこの小学生の勇気と友情と運だ。学校新聞と真犯人の出現により、犯人の汚名を返上できるのである。目の前のニンジンをぶら下げて服従させていた大人たちも、ニンジンはもういらないよと言われたら、どうするのだろう。子供らも馬鹿じゃないんだ、昭と研一が戦っている様子をみて、自分たちも一緒に戦っていたのだ。ニンジンを餌に服従させていた親に、しいては社会に。いいぞ、やれやれ!とエールを送りたくなる、巻き返しの場面だった。最後には金泉堂の社長が負けを認めます。認めただけだなく、小学校に毎年金泉堂のケーキのプレゼンをするという粋な計らいまでします。ここが児童書の素晴らしいところである。敵が敵のまま終わらせないで、最後は握手で仲直りするという結末は児童書には、なくてはならないものである。そうでないと、恨みがいつかはとんでもない仕返しで最後は命まで落とすような事件になりかねない。これは現実のニュースを見てもそう思うのである。真犯人も偉かった。子供が窮地に追い込まれているのを逃げなかった、逃げることも出来たのに。そうはせずに自ら謝りにいく勇気。これは子供に見せるものだ。大人も過ちをする、親も過ちをする、大事なのは認めて謝ること、最後は双方が遺恨を残してないところを子供に見せることだ。1965年の作品でもう50年以上も前の作品なのに、色あせないのが不思議だ。今はSNSなどで、簡単に拡散をして味方も付けられるし、一企業を貶めるなんで簡単だが、同時は携帯もパソコンも普及してない時代でアナログの時代だ。地道な子供たちの作業と熱意だけが味方だ。逆にお金もコネも力もない、ただの小学生でも、共感さえ得られれば、大人を負かすことができるのだ。しかも親の最大の味方であり、頼みの綱のケーキ屋をだ。
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