「敗者の告白」そのタイトルの意味 - 敗者の告白の感想

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敗者の告白

3.003.00
文章力
4.00
ストーリー
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キャラクター
2.50
設定
3.00
演出
3.00
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「敗者の告白」そのタイトルの意味

3.03.0
文章力
4.0
ストーリー
3.5
キャラクター
2.5
設定
3.0
演出
3.0

目次

はじめから騙されました

被害者は奥様だ。小説を開いて5分間はそう思っていました。

まずはじめに雑誌編集者である、藤井友利子の供述調書から始まります。

そこには生前インタビューを行った際の本村瑞香に対するイメージであったり、本村家全体の雰囲気が書かれていました。

若手社長の妻としてセレブな生活を送っている瑞香からは、夫婦間のいざこざがある雰囲気が皆無で家族4人が幸せに暮らしているような感じでした。

しかし瑞香は夫である本村弘樹に殺害されてしまいます。

別荘のベランダから突き落とされてしまうのです。しかも息子の朋樹も一緒に。

さらに、この事件がこじれた原因として瑞香から藤井友利子宛に手記が送られていることが判明したのです。その内容は「夫とその愛人に殺される。助けてくれ」というものでした。

藤井友利子がこの手記を早く警察に提出していれば未然に防げたのではないか⁈そう思っていました。

誰が本当のことを言っているのかわからない〜朋樹〜

事件は夫による殺人として幕を閉じるかと思いきや、新たな手がかりが発見されるのです。

それは殺された朋樹が祖母に送ったメールでした。

「大好きなおばあちゃんへ。僕はもう直ぐパパとママに殺される。僕が殺人犯だから」

朋樹が殺人犯とはどういった意味なのか。始めこのメールを読んだときには意味がわかりませんでした。

本村家は4人家族です。弘樹、瑞香、朋樹、そして数ヶ月前に自宅の風呂場で溺死した由香。

そう風呂場で溺死したと思われた由香は朋樹によって殺されていたのです。猟奇的殺人者としての性質というのでしょうか?朋樹は幼いながらにしてその性質を持っていました。

それをみかねた両親は自分達の息子殺害を決意しました。

もし自分の子供が殺人者としての性質を持っていたら、皆さんはどうするでしょう?

想像したくもない内容ですが、ありえないこともないですよね。

大半の方が病院なり専門医なりに相談して、解決の糸口を見つけるものだと思います。

しかし本村夫婦は殺害を計画しました。

いくら会社社長という立場があるとはいえ、我が子を殺害するでしょうか?

誰が本当のことを言っているのかわからない〜弘樹〜

被告人として全国的に報道された本村弘樹は陳述書を書くことに。

殺人犯は何を語るのか。この事件の真相は見えてくるのか。そう思っていましたが期待が大きくはずれました。

弘樹によれば「瑞香が、朋樹と共に私をベランダの外へと押し出そうとした。そこで抵抗するうちに瑞香が外に落ちてしまった。私は正当防衛だ』と。

一体誰が本当ことを言っているのかわかりません。

弘樹の弁護人である睦木怜が弘樹、瑞香双方の関係者にも話を聞いて回ると事件解決の糸口が見えてきました。

・まずはじめに、瑞香の手記に書かれていた弘樹の愛人の存在ですが、これは本人も友人である溝口もいうように愛人などいないようでした。弘樹は仕事にかなりの熱量を持っていたようですね。

また妻である瑞香のことをとても大切にしていたと。

私はここまで読んだ段階で、やはり正当防衛だったのかな?と思いました。

・瑞香に関しては友達という存在がいません。強いていうのであれば溝口の妻である佐木子とは話があいました。瑞香はお嬢様育ちで常に身の回りのものをブランドで固める「お高い女」だったようで、夫以外の男性と何人か関係を持っていました。

そこで今回の事件の鍵となるこの瑞香の男癖ですが…本村夫婦の長男である朋樹は弘樹の息子では無く溝口と瑞香の間にできた子でした。

朋樹を妊娠した際瑞香は溝口の血液型を聞いてきたそうです。

弘樹と溝口の血液型が同じとわかった時の瑞香の反応は「あら、ラッキー!」

この女はどうかしていると思いました。普通旦那に対する罪悪感とか、子供が生まれた後の不安感のようなものが、瑞香には皆無でした。

そりゃ友達ができないわけだ、と納得できますよね。

ここまで瑞香の悪態が出て来れば検察側も弘樹をこれ以上裁くことはできません。

裁判は無事無罪で終了を遂げるのです。

本当の真実

無事裁判は終了しました。

しかし何かが引っかかる。

そう、この事件に関わった人物の関係性が私はとても引っかかりました。

自分の妻と関係を持った溝口を弘樹は許せるのか?猟奇的殺人者の子供の親として名を知られた溝口は普通に生活していけるのか?

そもそも、朋樹は本当にそんな性質を持っていたのか?

そんな疑問点がいくつも残ったところで「xにまつわるひとつの推論」が弘樹の元に送られてきました。そこにはこの事件の真実が書かれていたのです。

今回「敗者の告白」を読み進めていくたびに思ったのが、すべてのことがふわふわした状態で、何一つとして確証がないままストーリーが進んでいくということ。

被害者が死亡しているのだから当然ではありますが、つかみどころが無く、確証もないままに進んでいく不安定な状態です。

読んでいる側も何が真実かが全くわからないのは弁護人として登場した睦木怜と近い心境なのかもしれません。

そしてこの事件の最終的な犯人は弘樹です。弘樹は本当に頭のいい人間ですべてが計画通りに進みました。自分を裏切った妻と友人の溝口に復讐するために二人の人間を殺害したのです。

私から言わせれば弘樹こそ猟奇的殺人者の性質があったのではないでしょうか?

学生時代は医学部をめざすも家庭の事情により挫折。

その後若手IT会社社長として崇められ、品と美貌を持ち合わせた妻・瑞香というブランドを手に入れました。

とても努力家であると称えるべきでしょうが、すべてにおいて完璧主義者。一緒にいると疲れるタイプの人ですね。そんな完璧主義者であるがゆえに何の努力もしない溝口を下に見ていました。

しかし心のどこかで溝口にたいする安堵感を感じていたのは弘樹だけではなく瑞香も同じでした。

瑞香も弘樹も、もしかしたら同じものを求めていたのかもしれませんね。

お金や地位ではなく、家族の安心感や相手を思いやる優しさ。

そこに本人たちが気づけなかったがゆえに弘樹は負けたのです。

裁判に勝っても彼が本当に求めていた意味では敗者でした。

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