過去の戦争に思いをはせることも時には大切
上川隆也はよくがんばったよ
「大地の子」は社会派として有名な山崎豊子先生の同名小説を原作としています。その後の出版物『大地の子と私』のなかで、日中合作のこのドラマの制作について苦労した点をいろいろ語っておられました。そりゃそうでしょう、相手は中国ですもの。立ち入り禁止の場所も多ければ、書いてはいけないといわれたことも多々あったでしょうよ。それでも、そんな苦難を乗り越えて完成したこのドラマはやっぱり深い…深くて平和のありがたみを考えさせられるのです。
まず、主演は仲代達矢さんなのかな?私のなかでは、断然上川隆也さんなんですけど。私は、このドラマをみるまでは上川隆也さんの存在自体を全く知りませんでした。ほとんど全編、中国語での演技ですので、中国の人、もしくはずっとあちらで生活していた人かと思ったくらいです。しかし、このために中国語を猛勉強されたそうです。すごいな。
あんまりこのドラマの印象が強すぎて、私は今でも上川隆也さんがテレビに出ると、「あ、陸一心だ」と思ってしまい、(他には風間俊介さんが出ると健次郎と呼び、西田敏行さんを池中玄太と呼び、中野英雄さんがでるとチョロと呼びます。わかってもらえたら嬉しいのですが…。)私たち夫婦の間ではそれで会話が成り立っているのです。一説では、この役は最初は本木雅弘さんがやる予定だったとか…。んー、モッくんかあー。それはそれで合っているかもしれないですね。他局でリメイクするときは是非とも見てみたいものです。
あと、キャスティングの件でもう一つ言わせてください。陸一心と離れ離れになってしまい、のちに再会を果たすことになる妹「あつこ」なんですけど、なぜ永井真理子さんが選ばれたんだろうか?女優さんとして何か他の作品に出演してましたか?永井真理子さんといえば、柔道のアニメ「YAWARA!」のテーマソングをヒットさせたシンガーですよね。ま、ぼろぼろにすり切れた役が良くお似合いでこちらも名演技だったので、良かったですけど。キャスティングの不思議を感じました。
一番の功労者は
陸一心は日本人であるがゆえに様々な辛酸をなめさせられ、運命の波にザブンザブンと翻弄されていきますが、もうだめだぁとなった時には必ずその窮地にスーパーマンのごとく現れてピンチをすくってくれる人々がいました。その人たちがいなければ間違いなく陸一心は死んでいたのではないかと思います。
まず、黄書海さん。あなたがいなかったら、日本語も覚えられず、労働改造所での刑期も延びて、もしかしたら生きて出られなかったかもしれません。
そして、丹青さん。あなたが夫を告発してくれたおかげで元の職場に戻り、高炉の最後の完成をみることができました。
忘れてはいけない、中国のお父さんとお母さん。特にお父さんの無償の愛情には頭がさがります。一心のためにあんなに苦労をしてきたのに、日本から実の親が現れたら「今度はあなたが一心と暮らしてください」なんて、普通は言えませんよ。なんて良く出来た人間なんだ。このドラマの核はやっぱり「父と子」に尽きると思いますし、最終的に一心が中国人として生きていこうとする決意の奥底にはこの陸徳志への感謝と愛情があるのだと思っています。そうじゃなきゃ人でなしだわ。
最後に、一番感謝すべきなのは、のちに結婚する江梅でしょうよ。何てったって命の恩人。うーん、命の恩人という意味ではお父さんの陸徳志もそうなんだけど、お父さんに内緒で手紙書いてあげたことが出所につながったし、妹を見つけてくれたし。いわばこのドラマにおいて一番のキーパーソンであったことは間違いないと思っています。偉いぞ!
原作との相違点
私は、ドラマを鑑賞した後に原作を読みました。そこでいくつかの相違点を見つけました。
ドラマでのあつこより、原作は酷い人生を歩んでいました。頭の悪い亭主に性のおもちゃのように扱われているシーンがありました。何度も出産と流産を繰り返しているというような描写があったと記憶していますが、ドラマではさすがにそこまでは見せられなかったのでしょうね。
そして、陸一心が内蒙古の製鉄所に生き生きと帰っていくラストシーンですが、原作はそんなしーんはありません。三峡下りで自らを「大地の子」だと実の父親に言うシーンで終わっています。私は、ドラマの方がいいなーと思いました。愛する家族に見送られて、自分の出自や、過去の経歴も関係なく好きな仕事に打ち込める…そんな時がやっと彼の日常にやって来たんだと思うととても清々しく、長いドラマの最後としてとてもふさわしく明るい気持ちで見終わることができました。
それでも、戦後70年が過ぎても、結局あつこのように日本に帰ることの出来なかった残留孤児の方々の無念を思うと胸が苦しくなります。戦争を知る世代は、もうとても少なくなってしまったけれども、忘れてはいけないこと、次の世代に伝えなくてはいけないことは確かにあると思うのです、私は。
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