小説「正義のセ」主人公の凜々子が検事をめざした理由とは?
小説「正義のセ」とは?
阿川佐和子さんの小説「正義のセ」は、「正義のセ2」「正義のセ3」「負けるもんか 正義のセ」と繋がるシリーズの最初の作品です。
それぞれの内容は主人公の竹村凜々子の検事としての勤務地で概ね区切られていて、「正義のセ」は凜々子が検事を目指すきっかけとなった小学校時代のエピソードと最初の勤務地のさいたま地検が舞台になっています。
そこで担当した事件の話とか女検事仲間との語らいや妹の温子や家族との会話を中心に描かれているのです。
淡々と緻密に積み上げられた知識を基に、読みやすい平易な文章で語りかけて来る作者阿川佐和子さんの女性目線の語り口に共感を憶える著作です。
2011年に連載が始まり2013年に角川書店から単行本が発刊された小説「正義のセ」は、2018年4月からテレビドラマ化され現在放送中ですが、ここではドラマの内容もこの原作小説と対比する形で書き加えてゆきます。
シリーズ1作目の「正義のセ」では竹村凜々子が検事になった理由やきっかけについてかなりのページを使って描かれています。
ここはテレビドラマでは語られていない由来ですので、小説「正義のセ」を基にここを中心にすこし詳しくその理由を書いて行きます。
担任の先生が凜々子に投げかけた言葉
竹村凜々子が検事になったのは何故でしょうか?
竹村凜々子が検事を志した動機は、小学生時代のあるエピソードが出発点になっています。
これには秋田から転校してきた明日香ちゃんへのクラスのみんなの同級生のイジメが関係しています。
凜々子は秋田弁がきつくてクラスの友達とコミュニケーションが取れない明日香ちゃんに自分から近づいて、クラスのみんなのイジメから明日香ちゃんを庇います。
小学5年生になったばかりの凜々子には、6つ下で5歳になったばかりの妹の温子(ハルコ)がいました。
そのせいか凜々子はいつしか面倒見の良い強いお姉ちゃんに育っていてクラスの男の子からも一目置かれる存在だったのです。
男の子同士の問題にも割って入って解決してしまうこともしばしばあったことをいくつかの過去の話を阿川さんは書いています。
ドラマでの検事になった凜々子は、恋人に振られたりや男性被疑者に取り調べの途中で激怒して感情をぶつけたりと男性との相性はあまり良くないのですが、阿川佐和子さんはこの頃の凜々子を男子からも尊敬される姉御肌の女の子に描きます。
それに対して妹の温子は無邪気で誰からも可愛がられるお茶目な女の子。お近所の玉子焼き屋さんのおにいちゃんのお嫁さんになるともう決めているオマセなところもあります。
この温子は後に実家の豆腐屋を継いで家族の大黒柱となるのですが、この当時は夢にも誰もそう思わなかったのです。
話を明日香ちゃんへのいじめ問題に戻します。
凜々子は担任の熊川先生に手紙を書いてイジメを止めさせようとしますが、熊川先生はその手紙をクラスルームの時間にみんなの前で読み上げてしまいます。
その上、差出人の凜々子の名前まで言ってしまうのです。
これに激怒した凜々子が職員室で熊川先生に猛然と抗議し、言い訳を許さなず追及する場面があります。
追い詰められた熊川先生が凜々子に言った言葉が「なんか、検事に尋問されているみたいだな。竹村さんが犯人の取り調べをしたら、抜群にうまいだろうなあ」。
この熊川先生のひと言で凜々子は検事の仕事に関心を持ち始めます。
以来ずっと凜々子は検事の仕事ってどういう事をするのだろう?その疑問が頭の隅に残ります。
この時の熊川先生の話で分かったことは、刑事の仕事は犯人を捕まえること、検事の仕事は犯人を取り調べることらしい。
でもまだ、凜々子は自分が検事になりたいとまでは考えなていなかったのです。
たぶんこの時は熊川先生が言う検事そのものを具体的にイメージできなかったんだろうと思います。
テレビのニュースやドラマでは刑事はたくさん登場して姿も見ることは出来ますが、検事はそれほど頻繁に登場しませんからね。
小学生の凜々子には謎の様な存在にしか思えなかったのでしょう。
近所のお茶屋さんで殺人事件
この頃、凜々子の近辺で怖ろしい事件が起こっていました。
妹の温子が大好きな近所のお茶屋さんに強盗が入り、おじいちゃんが殺されてお茶屋さんが潰れてしまったのです。
温子は毎朝早く一人でご近所を散歩してこのお茶屋さんのお店の玄関から漏れて香るお茶の炒る匂いが大好きだったのです。
事件の起きた日も温子はお茶屋さんの前を通りかかって現場検証をする警察官から危ないからと注意されて帰宅したのですが、温子はお店からいつものお茶の香りがしないこと一番が気になっていました。
豆腐屋を営む武村家も他人ごとではありません。
家族中がこの事件に強い関心をもち、毎日遊びに来るようになった明日香も加わって、この話題で大議論になります。
用心しないとね!凜々子の家族では合言葉のようにお互いに掛け合います。
主人公凜々子が検事になった理由とは?
しばらくして犯人は捕まりましたが、凜々子の興奮はいつまでも冷めず「こんな犯人は死刑にすればいいんだ!」そう叫んでしまいます。
しかし、新聞に関心があって毎日読んでいた明日香は「裁判やらねば決まんねえ」と秋田弁で水を差すようなことを云いました。
「裁判なんかやらなくたって決まりだよ!」凜々子は憤慨しますが、明日香は「裁判所で検事と犯人側の弁護士が闘って、それを裁判長が見でで、最後にきめるんでねの?」と至って冷静に答えたのです。
後にドラマでは検事になって法に基づいて裁判に訴えることになる凜々子ですが、この時はまだ感情が先行していて明日香ちゃんにそこを諭されています。
もっともドラマの中でも事務官に諭される感情豊かな検事の凜々子は時々登場しますがね。
「検事?」明日香から教えられて、熊川先生が言っていた検事ってこういう仕事をする人だったんだ!と凜々子はこの事件で実感することになります。
「よし!だったら検事になってやる」そう凜々子は決意したのです。
ちなみに毎日新聞を読むことが好きだった明日香は、後に新聞記者になって検事になった凜々子の前に現れることになるのでした。
さいたま地検時代の新米検事凜々子
それから十数年後に凜々子は検事になって最初の赴任地さいたま地検に赴任しました。
ここで、凜々子は様々な事件を担当して経験を積むことになるのですが、中でも最初に担当した交通死亡事故事件と暴行傷害事件が小説「正義のセ」では詳しく描かれています。
特にお伝えしたい事があるのが交通死亡事故事件です。
凜々子が、取り調べ中に年老いた被害者の妻から被疑者の若い男性の減刑を訴える嘆願書を受け取り戸惑う姿が小説の中で描かれています。
被害者の妻は、最初は自分の夫を事故で殺した若者を憎んで謝罪に来ても合おうともしなかったのですが、何度追い返されても遺族に謝り詫びようとする若者の姿に許す気持ちになったのです。最後にはこれから将来がある若者の人生を考え、助けてあげたいと減刑の嘆願書を出したのでした。
検事は事件を起訴するのが仕事。法律的に言えばこの事件は十分に起訴できる事件です。
そう考えていた凜々子ですが、何度も被疑者と嘆願書を提出した被害者の妻の双方から話を聞き、そして悩んで出した結論が不起訴という判断でした。
ドラマでは、凜々子の言う台詞に「正義のセもまだ解からない若輩者です」という言葉が使われているのですが、原作者の意図したところはもっと深いところにあったのではないかと感じます。
つまり、子供の頃から検事の仕事とは何かを考えて来た凜々子だからこそ出した結論がこのタイトル「正義のセ」に現わされていると考えます。
まとめ
小説「正義のセ」では主人公・竹村凜々子の小学生時代のエピソードを中心に、凜々子が検事を目指すことになった経緯が詳しく書かれていました。
この「正義のセ」、最初に長く描かれたこの子供時代の事件や先生のひと言が、いかに凜々子の検事としての人生に大きく影響を与えているか気付かされます。
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