細かいことを気にしなければ十分楽しめる娯楽作品 - コロンビアーナの感想

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細かいことを気にしなければ十分楽しめる娯楽作品

2.52.5
映像
2.5
脚本
2.5
キャスト
2.5
音楽
3.0
演出
2.5

目次

リュック・ベッソン美しき暗殺者シリーズ第3作目

この映画は復讐を胸に秘めた美しき暗殺者の物語で、「レオン」「ニキータ」に続き、第3作目となる作品である。観終わって思うことは、「レオン」ほどの切なさや哀しみはあまりなく、「ニキータ」のようなぞくぞくするような設定もなく、あくまで最後までエンターテインメントに徹した娯楽作品だと思った。
主人公のカトレアはマフィアの大物に両親を惨殺される。死の直前にマイクロチップのようなものを父親は娘に「これがおまえのパスポートだ」と託した。両親を殺したマフィアの大物はマルコといい、恐怖に震えるカトレアにそのチップの場所を言うように詰め寄る。ここからはスピーディに話は進んでいく。恐怖に震え目に涙をためているだけの小さな女の子だと思っていたカトレアが、いきなりテーブルの下に隠してあったサバイバルナイフでマルコの手を突き刺し、窓から家を飛び出したのだ。ここからの逃亡劇がいかにもテンポがよく、カトレアがどれだけこの町並みを知り尽くしてどれだけの運動神経の持ち主かということをこれでもかというくらい見せ付けられた。まるで香港の下町を走り回るジャッキー・チェンの映画のようだった。あの名シーンのように、路地にある窓をノックして中から開けられた窓に追っ手が跳ね飛ばされるんじゃないかと思ったくらいだった。
あの逃亡劇の時間も長すぎず短すぎず、ちょうどよい長さで、観るものを飽きさせなかったところも良いと思う。
無事逃げ切りアメリカ大使館に助けを求めた彼女は、そのチップを大使館に渡して無事アメリカに渡ることができた。そして叔父の元に身を寄せる。しかしその叔父もまたいかにもマフィアらしいマフィアで、わくわくする展開となっていた。

いきなり15年後

そこから物語は急転し、美しく成長した女性が登場する。“15 years later”とかもなく、いきなりだったので、15年後というのはパッケージを見て分かった。エンターテインメント映画らしく、あまりそのあたりのことは深く突っ込まないほうがよさそうだった(前述したチップの重要性もさほどわからなかったところも、そう言える)。カトレアはターゲットを暗殺するために、酔っ払い運転の振りをして留置場に入ったのだ。そして「ミッション・インポッシブル」並みに身軽に留置場の部屋を抜け出し、天井をすり抜け、配電盤にトラップを仕込んで換気扇を止めたりと、そのアクションにはついつい引き込まれた。またカトレアのほっそりした体ながらも筋肉質の美しさが目を引いた。黒人女性の美しさが最大限に発揮されており、うっとりと見入ってしまったところだ。
無事暗殺に成功し、もとある自分の留置場の部屋に戻ったときにはもう酔っ払って熟睡しているように見せかけていた。ここまでのアクションは本当に見ごたえがあり、エンターテインメント作品らしくハラハラして見守ることができた。
反面あえて突っ込まなかったけれど、突っ込みたいところはたくさんあったのも確かだ。

よくよく考えてみて思った疑問

観ている最中はワクワクハラハラして全く気にならないのだけど、見終わって一段落したときにふと思う疑問がいくつかあった。その一つが先ほどの留置場を抜け出しターゲットを暗殺する場面なのだけど、飲酒運転で警察車両にぶつけたといえど、飲酒検査くらいすると思うのだけど、それもなしで留置場に入れられるのはどうかと思った。あと、ターゲットを殺すとき、わざわざ銃声を出すことはないだろう。銃声で看守が集まることくらい分かるだろうに、サイレンサーくらい使ったらいいのにと思ってしまったところだ。
また追われて屋上に逃げるところがあるのだけど、屋上から留置場内に入れるなら変装していたとはいえわざわざ顔バレする危険まで犯して、自らが留置場に入れられる必要なかったのではないかと、考えたら興ざめなことなのだけど、ついついそう思ってしまった。しかしこのような娯楽作品でそのような突っ込みをするのも無粋なことかもしれない。

悪役顔ぞろいのマフィアたち

この映画にはさすがマフィアものと言うべきか、いかにも悪役顔がそろっている。一番怖かったのは、カトレアの父親とドン・ルイスが対峙している一番最初の場面だ。お互い笑顔で「息子と思っている」などと言い合うのだけど、周りに部下たちが取り囲んでいる中双方絶対に本心でしゃべっていないことは当たり前にわかる。いつ殺しあうのかといった緊迫した一瞬で一番怖かったところだ。
それ以外は単純な暴力のみで、冷え冷えとした怖さとかどうなるかわからない怖さといったものはあまり感じなかった。
「レオン」では底からの冷たい怖さというものを、ゲイリー・オールドマンがうまく演じていた。あの男がビーズののれんをにこやかにくぐってくるあの有名なシーンは、いつ見ても怖い。そういう底知れない怖さというものが今回のマフィアたちにはなかった。
とはいえ、実力派ぞろいではある。カトレアの叔父の俳優はクリフ・カーティス。「トレーニング・デイ」での鬼気迫る演技が怖かったことを覚えている。宿敵であるマルコを演じているのはジョルディ・モリャ・イ・ペラレス。スペイン人でありながらイギリス人のような雰囲気を持つ彼は「ナイトアンドデイ」が一番記憶に残っている。
この2人はさすがにマフィアらしい怖さを身に纏っている。時々見せる凶暴な表情はさすがと思える。特にジョルディ・モリャ・イ・ペラレスのほうは追うものの殺意も時に感じさせ、出てくるマフィアの中では一番怖いと思えた俳優だった。

冷酷な暗殺者としての物足りなさ

カトレアは腕も確かだし、復讐が原動力ともあって冷酷に殺人を犯すことに迷いがない。しかし、恋人の前では無防備な顔を見せるところが個人的にはあまり好みではなかった。そのような気持ちの拠り所を持つことは敵に弱点をさらすことに他ならない。相手を危険にさらしてしまうことは簡単に想像できるだろう。たとえ偽名でつきあっていたとしても、もっと慎重にするべきだと思えたのだ。
またこのような暗殺もののストーリーなら、敵をスパイするためにあえて付き合っているという展開の方がスリルがあっていいと思う。だからこそこの恋人が撮ったカトレアの寝顔を不用意に友達に見せたことでずるずると正体がばれてしまうあたりは、“だから言っただろうに”と思ってしまったところだ(この友達が情報を流したのだけど、そもそもこの友達は誰なんだろう、という突っ込みも今更しないでおいたほうがよさそうだったが)。
もっと冷酷で残酷で、愛情など忘れ、任務にのみに生きるほうがリアリティがあったように思う。「レオン」でレオンが観葉植物の世話だけに心を安らげていたように、今回のカトレアももっと孤独な状態のほうが暗殺ものとしてのストーリーに魅力が増したと思う。もうひとつ、再び家族を惨殺されてしまったカトレアだったけれど、この時に涙を流すのはともかく、刑事に過去を語るときにも涙を流すのはちょっと感傷的すぎると思う。しかもポロポロ泣く。そうではなくて、こういうときなら一筋だけこらえきれなかったものが流れ落ちるといった感じのほうが、カトレアの感じている憎しみや絶望感を実感できたのではないのかなあと思った。
そういう意味では、暗殺者としての魅力はさほどではない。逃亡劇やアクションシーンは見ものだけれど、ストーリーには「レオン」や「ニキータ」ほどの深みは感じなかった。
とはいえ、エンターテインメントとしてはいい出来の作品だと思う。深く考えず、軽く観る分には十分楽しめる作品だった。

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