妄想女子の究極バイブル - 覇王愛人の感想

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覇王愛人

4.004.00
画力
4.00
ストーリー
3.50
キャラクター
3.50
設定
3.50
演出
3.25
感想数
2
読んだ人
2

妄想女子の究極バイブル

3.53.5
画力
4.0
ストーリー
3.0
キャラクター
3.5
設定
3.0
演出
3.0

目次

黄金の新條パターンの究極、今度はマフィア

新條作品には一つの黄金パターンがある。

主人公の女の子が童顔で凡庸(ただし巨乳)、主人公の男子が高校生なのに異様に大人びていてツンデレ、主人公カップルのどちらかが金持ち(大体男性側)で、それが故のぶっとんだイベントの数々、愛情表現に性を重視しすぎる、といったところだろうか。

新條さんの作品については、キャラクターが絵的に魅力的なので、珍しい展開を求めてつい手に取ってしまうが、この作品も例にもれずの展開で少々食傷気味な感じを受けた。しかしなぜか癖になってしまうのも否めない。

しかも今回は恋愛対象の男性が香港マフィアである。アーティストや国内の富豪などと違い、闇の組織だ。そもそも外国のマフィアがどういう活動をしているか、いくらなんでも作家も潜入取材などするはずもないので、想像で何でもありにできてしまう点では、この作品が新條作品では一番ぶっ飛んでいると言ってよいかもしれない。

男子高校生が彼女の恋敵を銃殺する漫画など、この作品でしか成しえない事件だろう。

黒龍に好感が持てるかどうかで評価が変わる

黒龍は快感フレーズの大河内咲也などと比較すると、同じ横暴ツンデレ系でも、倫理面で問題がある。マフィアだからと言われればそれまでなのだが、中高生から20代の女性読者層が、その点に好感が持てるかどうかが非常に微妙なキャラである。性格的にも万人受けする男性ではない。

快感フレーズの咲也は愛音と一緒に住むにしても、愛音を親を説得したり、親が愛音に無関心なところを指摘するなど、シンデレラ展開でもある程度常識を持ち、現実味を伴っていた。しかし黒龍は、父親を亡くして病身の母親と兄弟を実質養っている、一家の大黒柱の来実を拉致という形で引き離す。一応家族は黒龍が金銭的面倒を見ていたという説明がなされてはいるものの、若干快感フレーズに比べると羨ましい展開とは言い難い。そもそも最初の出会いからして、一歩間違えば強姦の犯人とも言うべき男性を、来実が家に招いて傷の手当てをする時点でかなり無理がある。いくら相手がイケメンとはいえ、顔が良ければよいというものではない。

来実のライバルの女生徒を黒龍が銃殺してしまったり、自分の元を離れた来実を保護してくれていた定食屋の家輝に暴行を加えたのも、マフィアという立場があるにしても相手は一般市民である。ぶっ飛び設定とはいえ、暴行や殺人が黒龍だから容認されて何の社会制裁もないのはいささか違和感をぬぐい切れない。

いずれの悪事も色々正当化されるべき理由が説明されるものの、結局は性的な嗜好から黒龍のとりこになってしまった来実が、倫理観を失い、黒龍のどんな悪事も許してしまっている感がある。こういった現実離れしたぶっ飛んだ妄想展開が好きな人にはたまらないかもしれないか、話のツッコミどころが気になりだすと、黒龍に全く好感が持てず、この人より定食屋の家輝の方がよほどいいのではと思ったところに物語の意外な結末が待っている。

同棲物は親の描写が希薄

桂正和氏の電影少女が最近また脚光を浴びているが、この作品も高校生の同棲物の代表格である。電影少女では主人公洋太は片親であり、父親は海外でデザイナーをしていて、息子を一人大邸宅に残し、時折手紙はあるが基本放任主義で子供に無関心という印象がある。来実の親も、いくら金を積まれたからと言って、娘が香港に何の事前の挨拶もなしに連れていかれたと言って、一般常識的に納得するだろうか?この作品を読んでいると、来実の結婚話などが持ち上がっても、彼女の日本の家族はどうなるんだと疑問が残ってしまう。カップルの二人がいい大人ならいいのだが、無駄に10代設定にするなら、親やその他家族のことはしっかり描かれた方が、黒龍が魅力的になったように思う。

覇王愛人に限ったことではないし、漫画だからと言ってしまえばそれまでなのだが、奥浩哉さんのGANTZでも、主人公の玄野計は親に見放されている感があり、高校生なのに一人暮らしをしていた。ある程度特定の世界観に学生を放り込む際に、親の縛りや存在が邪魔になってしまうことがあるので、どううまく親の存在を希薄にするかは設定上の課題になるが、まだ電影少女の親の特殊職業やGANTZの出来の悪い息子を体よく追い出したという設定の方が理解ができる。

覇王愛人の場合、ストーリーの展開上来実の家族が日本にいたままなのは正解だったが、家族思いの来実があまり母親の身を案じていない点が気になった。

珍しいバッドエンド

この作品は新條作品においては珍しいバッドエンドの作品である。大体がシンデレラストーリーの王道として幸せになる結末が多いのに、結末に来実の笑顔はあるが、黒龍とは生涯を共にできない終わり方をする。黒龍に暴行を受けた家輝が最後に悪者になってしまった感がある上に、彼もただじゃすまなかったろうと察するが、物語を俯瞰で見た場合、善良な一般市民に暴行を加えた黒龍に因果応報的にツケが回ってきた、という感もあり黒龍の死を美談にして家輝を悪者にはできないと感じるのである。

マフィアが凡庸に幸せになると言うサクセスストーリーもおかしいし、そもそもマフィア設定が悲恋の伏線の様な気もするが、愛人(アイレン)という言葉の美しさがテーマだとすれば、それはそれで納得ができる終わり方なのかもしれない。

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