伏線をコツコツ回収してハッピーエンドまで
カタカナと貴族と魔法使い
こういう名前が何個かあったり、長かったりする物語って、ちょっとアレルギー起こす人がいると思う。人物の相関図も複雑。このパンドラハーツにいたっては現在と過去が入り乱れて訳わからなくさせるし、読み進めている途中で繋がりが把握できなくなってしまった人も多数だったことだろう。それでもやっぱり、よく練られた展開だったと思うし、まずは一気に読んで、あとでもう一周して納得させるくらいはしたほうがいい。
登場人物の数は若干多いかなーと思うけれど、各所にちりばめられたボーイズ同士の友情や愛情、歪んだ気持ちと誠実な気持ち、小説チックな展開と言葉の難しさ、そして過去と現在・未来を動く陰謀とドキドキのどんでん返し…楽しい要素は満載だった。スクウェア・エニックスが出してる漫画だし、ゲームになっていてもおかしくない、けっこうたっぷりな内容だった。キャラクターのギャグっぽさから考えて、テイルズシリーズの1つとも言えそうだ。
全体像としては、敵対する者同士だったはずの貴族の家で、いかにも人のよさそうなほうが実は悪役で、いかにも悪そうな人物がそれなりに正義の気持ちで動いていた、という展開だ。そこでオズという存在が頭一つ抜けた異質な存在になっていて、“存在してはいけないはずの命“という言葉に、すごい深い意味が込められている。普通の子どもだったはずなのに、時々見せる表情と態度がいかにも強敵の雰囲気…
オズの存在意義
序盤の流れで、オズは父親から見捨てられたことが何よりもショックで、心の傷を隠して笑顔を振りまく人間になった、という表現だった。ここがいまいちインパクトが弱いよなー…と思っていただけに、オズの本当の出生と存在する意味が語られたとき、あーこんなに深いものがあってのその行動なのねって納得させてくれた。親からの愛情を受けられなかったことはもちろん大きな問題だっただろうけれど、ここまでこじれたりするのには訳があるはずだよね。子どもらしくない言葉がスラスラ出てくるのは、父に認められたい一心で勉学に学んだ結果だけとも思えないものだった。
オズは、何も知らないからたくさん傷つき、何も知らないからこそ幸せだったかもしれない。彼がアリスと出会って宝探しを始めたことは、もはや仕組まれた必然だったと言うしかないし、まさかのチェインが自我を持ったパターンだったとは…。おもしろい。RPGゲームになっても納得できる出来である。こういう主人公が実は一番生きていてはいけない存在だったっていうオチはあらゆるジャンルの漫画・アニメ・ゲームで登場するが、その事実にたどり着くまでに飽きてしまったり、だいたいネタバレしちゃってることもあって、扱うには若干難しいと思う。
君はどこにいるんだい?
という言葉が意外にもキーワードになっていて、オズが自分を自分として認められたときに改めて用いるシーンは、ありがちだけど割と感動した。まったく同じ言葉を使っていても、過去があるから今があると断言でき、「辛くても全部をなかったことになんてしない」という前向きなメッセージに重みがもたらされた。
ブラコンのヴィンセント
兄のギルだけは異様に大事にしている弟ヴィンセント。ギルを傷つけようとする存在はなんであろうと消してしまおうとするうえ、ギルの記憶が消えてしまっているのをいいことに、わざと悪役っぽくふるまって自分を傷つけようとする、極度のブラコンであった。
オッドアイの瞳を持つ、マッドサイエンティスト。自分で血の海つくれるのに、いざ100年前の惨状がフラッシュバックすると動けない。チェインとの違法契約者であり、確かな実力とサド具合を持つから、ギルへの愛情とのギャップに萌えたファンも多いと思う。もちろん主人公のオズもよかったけど、ヴィンセントも捨てがたい。
ギルはヴィンセントを守るために汚れ仕事をした過去があり、それを全部忘れててオズの従者になっている。彼にとってはオズだけが自分のマスターであり、それ以外に仕える気は毛頭ない。だから、ヴィンセントにとってのオズはおもしろくない存在で、いつかは衝突もあるかなーと思った。でも、オズの妹に翻弄されてブラコン以外の愛情も学んで、人間ぽくなったカレ。もともとギルのためだったし、グレンに仕えていたのだからオズとは敵同士じゃなく、協力関係に収まった。どっちかが死ぬかもしれないよな…って思っていたから、ずっと生きていてくれて本当に良かった。
オッドアイの瞳を持つキャラクターは時々登場するが、やっぱりかっこいい。今作では、ブレイクも片目を持たないキャラで、若干方向性のかぶりを感じたものの、その歪んだ性格とブラコン具合が絶妙で、憎めないキャラクターになった。
オズとギルとアリス
オズとアリスの関係は、結局チェイン同士だっていうことと、どちらもレイシーというアヴィスで生まれた存在から誕生した存在だということで、姉と弟みたいなもの。黒うさぎのアリスではなく、黒うさぎのオズが本来で、アリスの力はオズによってもたらされていたわけだ。この設定には全然気づけなかったなー。てっきり顔がそっくりなのは、ジャックと血のつながりがあるからなんだとばかり思っていたけど、もともとはジャックとオズに契約関係があって、だからこちら側の世界に存在できていたんだもの。そりゃージャックに似るよ。
ギルは蚊帳の外のようだけれど、オズが心から信用するのはやっぱりギルだし、いい感じにBL臭がしてよかったと思うよ。アリスとオズの間に生まれる感情は、恋愛には程遠いものだったし、逆にラブな雰囲気が出なくてちょうどよかったと思う。
存在してはいけないものが存在し続けることはなくて、やっぱり消えちゃうのが定石。そのあとをどうまとめるかが非常に難しいと思う。なんかもうオズとギルは天の川を隔たりとした織姫と彦星みたいなもので、すぐそこに存在を感じながら、会うことの許されない恋人みたいだよね。平和になったが英雄は心の中で生き続けるエンド、平和になった世界をほっぽって大事な人たちとだけ生きていくエンド、どれも悲しい…。
100の巡りエンド
ラストでいきなり登場した、「100の巡り」なるルール。100年巡ってまた同じ魂が戻ってくるというエピソードは、よく思いついたなーと思う。違法契約者は歳をとらないからだになるし、ギルが100年でも待つと言ったことは、無理矢理ではなかったと思う。10年待ったのだから、次は100年待っていられると言ったギル。…いや、100年は無理だろ。その前に死ぬだろ。というツッコミを見事にかわしてみせた。
全体として謎を隠しながら進んでいくストーリー。不思議の国のアリスをうまくモチーフにして、読者を惹きつけつつ、少しずつネタを暴露して、20巻越えたぐらいでだいたいフルコンプリートさせた。オズの危うさとか、時々出る別の表情とか、萌ポイントも高くて、最後まで楽しませてくれた。ブレイクが死んでしまったことは非常に残念だけれど、いずれ死ぬフラグが出ていたし、まー納得もできる。全部の後始末をブレイクが引き受けて消えてしまうエンドも考えられたが、やはり重要なポイントはオズとアリスという、アヴィスで生まれた者たちが片をつけていいと思うね。アヴィスに堕ちたオズが今度はアヴィスの意思と契約するっていうあたりはなかなか複雑だったが、全部を平和的に持って行ってくれる、いい終わりだったように思う。
できれば成長したオズとギルが一緒に並んでいてくれたら嬉しいね。ジャックとグレンにできなかったことが、オズとギルにはできる…的なね。
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