今も色あせない名作。 - いつもポケットにショパンの感想

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いつもポケットにショパン

5.005.00
画力
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ストーリー
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キャラクター
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今も色あせない名作。

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画力
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ストーリー
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演出
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目次

30年近く前の作品とは思えない!

この漫画、発表時が1980年!何と、27年前、もうすぐ28年!前の作品なんです。当時、私は小学生で、ピアノ教室の待ち時間にマーガレットで連載時に読んでいました。ふと読み返したくなって、文庫で大人買いしたのが数年前。で、再度読み返してみて驚きです。当時からくらもち先生の作品はとてもスタイリッシュで、洗練されていて、「くらもちふさこが好き。」というと、カッコイイというか、笑、漫画通っぽかったんですけど、笑、とてもそんな昔の作品とは思えない位、今再度読み返しても古臭いと感じませんでしたし、むしろ、大人になった今の方がその面白さをより理解できたように思います。やはり学園ものとは言え、大人っぽい作品が多かったからですね。

音楽学校、ショパン。

このお話は音楽学校でピアノを専攻している須江麻子さんのお話。お母さんは有名ピアニスト。音楽学校が舞台ですが、最近、よくTVで音大特集とか、音大女子とか聞きますけど、この漫画は30年近く前で、すでに音大どころか、その前の時点の音楽中学・高校を描いているのです。それだけでも、今思うとありきたりな学園ものではありませんでした。そして、ピアノ、ときてショパン。ピアノ少女・少年が必ず憧れるあまりにも有名なフランスの作曲家です。ピアノを始めたからにはショパンが弾きたいと思わせる作曲家。ピアニストが演奏前に、パリのショパンのお墓に訪れる。そんなショパンです。この作品のタイトルからして、本当にぐっとくるのです。「いつもポケットにショパン」って何というセンスのあるタイトルでしょう?一見、ぱっと見には分かりにくいけれど、読者に実に色んな妄想を掻き立てるタイトルです。漫画作品はこの世に数あれど、これほどハイセンスなタイトルは滅多に無いと思います。

きしんちゃん。

この物語は実に、実に、魅力的なキャラクターが満載で、それはくらもち作品のすべてにおいてそうなんですけれど、とにかく脇役の果てまで光りまくってるのです。そしてその光り方が半端なく、どのキャラクターも好きにならずには要られない位、ちょっとしたしぐさとか、ちょっとしたセリフとか、シチュエーションとか、細部まで細かく本当に面白くて、何度読んでも飽きません。ちょっとした一コマが永遠に心の中に残って、ずっと先になっても時折思い出す、そんな”くらもちワールド”が作品内に溢れているのです。

先ず、麻子の幼馴染で、麻子の好きなきしんちゃん、こと、緒方季晋くん。くらもち作品の特徴の一つに、男性キャラがめちゃくちゃカッコいい。それはもう、手の指の先、一挙手一投足、何てことないトレーナー姿、何て事ないジーンズ姿、細部の細部まですっごくカッコいいのです。そして、このきしんちゃんも御多分にもれず、めちゃくちゃカッコいい。笑。

そして、死んだと言われていた麻子のお父さん、指揮者・村上稔氏。彼は天然な感じで、あがり症で、おっちょこちょいな感じなのですが、ドイツで苦労して一流の指揮者となって日本に戻ってきて、麻子の前に現れます。登場シーンは少ないものの、凄く印象に残るキャラクターで、指揮でタクトを振るシーンがもうめちゃくちゃカッコいい!この普段天然な感じと、指揮棒を持ってる姿のギャップにやられます。それに、セリフがとても優しい口調でなおかつ、男っぽいのです。このキャップもさらにやられました。笑。

他、ハーフのマリアさんも実に絶妙なキャラで、凄く個性的で、表情の描き方とかがもう本当に最高なんです。どう言ったらいいのか、感覚的なものなので難しいですが、例えば、イライラしてる時とかの感じが何故か凄く面白い。あ、でも、これは大人になってから読んで感じた事です。

とにかく色々盛り込まれたストーリーの深さ。

やはり今、改めて読んで見て、小学生には難しい内容だったな・・・と思いますね。今、大人になって読んでちゃんと理解できた部分が多いです。登場人物の細かい心の動きなど、凄く繊細に描かれているのが今となっては凄く良く分かりました。

麻子ときしんちゃんは近所で育った幼馴染でお互いピアノ教室に通っていました。麻子のお母さんときしんちゃんのお母さんは学生時代の友達で、しかも二人ともピアニストを目指していたが、麻子のお母さんは有名ピアニストになり、きしんちゃんのお母さんは挫折。しかも、二人は同じ人を好きになるけれど、彼の心を射止めたのは麻子のお母さんで、好きな人もピアニストの夢も両方得た麻子のお母さんに、きしんちゃんのお母さんは嫉妬し、きしんちゃんを麻子より成功するピアニストにする為にドイツへ留学させ、その留学先で事故にあって亡くなってしまいます。きしんちゃんはその亡くなったお母さんの角膜で失明を逃れ、母の無念を知り、日本に帰って麻子に復讐しようとします。

色々登場人物の背景にあるもの、気持ち、などがかなり複雑で、人物それぞれの内面、抱えてるもの、が、本当に深い。でも、表面上だけじゃない心の奥底などが、垣間見え、色々と考えながら、かなりじっくりゆっくり噛み締めて読むと、本当に色んな意味で深い漫画だったのだな・・・と再確認します。

でも、そんな色んな人の色んなドロドロの気持ちが、最後にはみんな”ふんわり”とした感じで、幸せな気分で終わってるのです。それも凄く自然にそういう流れになって、ラストシーンも本当にほんわかと暖かい気持ちになって、読後感がとても良い。凄く描き方が上手い。特に麻子のお母さんの有名ピアニストの須江愛子さんの描き方がもう絶品としか言いようがありません。ぶっきらぼうで、とっつきが悪く、自分の感情を素直に表せなくて、娘にもどう接していいのか分からず、唯一の女友達だったきしんちゃんのお母さんが夫の事を好きだったと知り、別れる事になるのですが、麻子がきしんちゃんに言った一言でこの愛子さんが本当はどういう人間なのかというのが分かったりします。きしんちゃんが麻子に自分の母親の気持ちを知って別れたというのか?そんなお人好しなのか?と言います。そこで、麻子は何故別れたのかは分からない。

だけど、お母さんはきっとこういうわ

「別れたのはお父さんがぐうたらだったから」

わたしのお母さんはそういう人よ

と答えるのです。凄く印象的なシーンです。

あと、特筆すべきは、そのシリアスな内容の中の、印象的でコミカルなシーンです。例えば、きしんちゃんが麻子の事を、ピアノを習いに来た小さな男の子とこういう会話をするのです。

あのさー、お兄ちゃんが探してる人 目がグリグリしてて 髪が肩くらいの人?

ああ、デコちんで髪が薄いんだ

うん ひとっふきで吹っ飛ぶくらい

そうそうだからつむじがハゲっぽいの

って二人で笑うんです。これだけ読んだら、ひどー!と思うかもしれませんが、お話の後々で「麻子は美人だからな」というセリフがあるんです。色々過去の母親の因縁があり、再会してからずっと麻子に対してのきしんちゃんの態度は冷たいものだったのですが、このちょっとしたセリフできしんちゃんの心の中の暖かい部分がうかがわれ、なおかつ、前のセリフがあるから、後のセリフに余計に胸キュンになるのです。さらに胸キュンなのが、きしんちゃんの音楽学校の先輩が麻子に言い寄り、触れようとすると「さわるな!」と怒るのです。このシーンでもうキュン死です。爆。

くらもちワールドは永遠。

挙げればキリが無い名シーンの数々が、今も漫画の中に生きている。これからもまた度々読み返したい漫画であり続けます。

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