今とるべき行動をいつも一生懸命考える - 目隠しの国の感想

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目隠しの国

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画力
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ストーリー
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キャラクター
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今とるべき行動をいつも一生懸命考える

4.54.5
画力
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4.5
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4.5
演出
4.0

目次

人とは違っていると知った時

少し先の未来が見えてしまうことがある高校生のかなで。誰かに触れたとき、ビジョンは突然降りてくる。未来が見えてしまうのはいつもじゃないけれど、見えてしまったら助けなくちゃ…!って思うかなで。本当にいい子で、未来が見えて苦しかった過去があるからこそ大人しくて、優しくて…。健気な彼女にはいつも心打たれた。世界を目隠しの国にたとえ、自分の目隠しは欠陥品でたまにずれて先が見えてしまうのだと言う。なーんかこの表現がぴったりハマっている!とは言えないと思うのだけれど、読み進めるたび、見えなくてもいいもの・見たくないもの・本当は少し見てみたいと思うもの…現実世界はまさに目隠しの国なのかもしれないと思えてくる。

彼女が人を助けたいと決めたのは、おじいさんが自分が死ぬと分かっていても火に飛び込んでいったことがあるから。そして、運命のせいにせず、生還したからだった。未来は変えることができる。そんな勇気をくれたおじいさんがもうパワフルで、こういう老人にこそ女は惚れちゃうと思う。

そんな彼女が出会ったのは、かなでとは逆に過去が見えるという内藤あろう。しかも、目隠しは外されっぱなしで、対象の人の体だけでなく、物の記憶でさえ覗き見ることができてしまうという能力の持ち主。彼は、過去が見えることで傷ついてきたから、かなでとは逆に傍観を決め込んでいるタイプ。さらに、かなでよりも安定して未来を視ることのできる先輩の並木さんも加わり、いよいよ三角関係へと発展していく。並木さんは、家族への絶望の果てに、自分の力で悪さを楽しもうとするような腐った野郎だった。あろうも並木さんも、かなでというまっすぐな人物に出会ったことで、自分たちの能力の使い道を考えるようになっていく。

誰かのために使おうと決めること

あろうも並木さんも、自分は他の人とは違うんだと知った時、力の活用方法は全然違ったものだったね。あろうは「何もしない」ことを選んだし、並木さんは「敢えて使って自分を守る」ことを選んだ。彼らだって、誰かのために良かれと思って行動してきたことがあって、その分、辛い思いも味わってきた。そして、自分一人だけだと思うからこそ余計に辛くて、悲しくて…

だから、かなで、あろう、並木さんたちが出会って、一緒にいるようになり、かなでを指針にいい関係をつくれたことは、本当によかったね…!と言ってあげたい気持ちになる。一人じゃない。できることがある。それだけで、若い彼らにはものすごく力になる。

確かに、良かれと思って行動して、傷つけてしまうこともあるのかもしれない。でもそれは、訪れるはずだった最悪の結果よりも良いものにつながっているかもしれない。誰にもわからないし、気づいてももらえないことだけれど、誰かが幸せであるように、できることをやりたい…そんなふうに他人のために一生懸命になれるかなでには心打たれるし、自分の黒さを照らされすぎて若干そむけたくなるほどのまぶしさ・一生懸命さがある。…自分に果たしてそんなピュアな時期があっただろうか…なんて考えてしまうくらい。

あろうとかなでがお付き合いを始めるのには全然時間がかからなくて、お互いに信用して、ラストまでしっかりと安定。並木さんの邪魔はあるけれど、やっぱり裏切ったりなんかできないくらい、お互いを大事にしている。いいな…こんなふうに全力投球で生きてみたい。子ども向けのようで、オトナでもしっかり満足できちゃうこの雰囲気。好きだ。

同志の絆

あろう、かなで、並木さんの絆はすごく固くて、1つずつ試練をクリアするたびに強固になっていく。並木さんはかなでが大好きだけれど、それ以上に、あろうとかなでの両方がかけがえのない存在だから、決してぶっ壊そうって気はないんだよ。自分の素をさらけ出して、力もさらけ出して、何も気にせず交流することのできる人間。そういう存在が、自分自身を確かな存在へと変えてくれるんだよね。ふわふわ浮いていたような気持ちが、地に足がついたような感覚になっていくんだと思う。

他人の未来や過去が見えるのに、自分のことは一切わからない彼ら。3人寄ればいろいろなものが見えてくるね。お互いの過去も、その先も。かなでや並木さんは、見たくなくても流れ込んでくるってわけじゃないから、気を付けていれば割と楽だよね。かなでに関しては力のコントロールが定かじゃなくて、本当に危ないものとか、心が動くものを感じ取っている傾向がある。だからこそ、救いたいという気持ちを強く持てるのだろう。並木さんはある程度狙って未来を視ることができるからかなり便利。あろうは無差別になだれ込んできてしまうため、きついだろうなー…かなでみたいに、視えた時だけ行動するってんなら、あろうだって頑張れただろうけど、無差別に何でもかんでも見えたら、そりゃー逃げたくもなる気がする。

3人いるから辛さが分かり合えるし、切っても切り離せない絆につながる。あ、並木さんにはあの大切な子犬がいたね。彼も大事な仲間だ。

大切な友だちエリ

かなでの親友、エリちゃん。彼女の男前さといったらカッコいい。かなでが初めて他人に自分の能力を明かしたのはエリちゃんだったね。そりゃーびっくりするだろうけど、いつも未来が視えるわけじゃないし、そんな便利な能力ってわけじゃない。それならエリちゃんだって受け入れやすいだろうと思うよ。

宗さんみたいに、あろうの母親に固執してどうしてもその時の過去が見たいと願って利用しようとする輩もいるなか、エリちゃんの清々しい行動には心打たれるものがあった。

それにしても、宗さんの行動ってなんか謎だよね。確かに自分と血のつながった妹である早苗さんという人は、大切な存在であることに変わりないだろうけどさ。大切な人の危機を救おうと強く心に思うことがトリガーになって力が強化されるらしいんだけど、そのためにあろうを傷つけようとか、でも結局できない…とか、回りくどい。大切な人を苦しめて、自分も苦しんで、いなくなってしまった過去の人にビジョンの中で出会って…何が変わるわけでもなければ、むしろ気持ちは退化してしまいそう。こういう人にこそ、エリちゃんみたいなパワフルな女性が必要なんじゃないのかなー…。あんな正直者でイケメンだけれど口の痛すぎるやつより。

だんだん画力が上がっている

目隠しの国って、けっこう古い作品だと思うんだけど、絵がすごく好きだね。そして雰囲気が穏やかで、優しい感じがするし、時が止まったような空気が流れて落ち着く。1巻はさほどでも…と思っていたが、2巻、3巻と進むにしたがって男キャラはイケメンに、かなではよりかわいらしく変化していったなーって思う。作者である筑波さくらさんの作品の中では、やはりダントツにかわいくて、優しくて、何回でも戻ってきたいと思うね。

雪山では、あろうが遭難したかなでを救おうと力を使いまくって消えちゃうっていう…すごいファンタジーな現象が起きたね。これにはびっくりしたけど、かなり理論にあっていると思うんだ。宇宙の理論でも、宇宙が始まったから時間という概念が生まれたらしいし、過去に戻るってことが、もしかしたら存在さえ消失させてしまう可能性を秘めているのかも…って考えたら、すごいワクワクするよね?あろうの危機だったにも関わらず、一人でかなり盛り上がってしまったシーンだった。

かなで、あろう、並木さん、そしてエリちゃんのように、まっすぐに行動できる人間になりたいなーと思わせてくれる、いい物語だ。

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他のレビュアーの感想・評価

揺るがない気持ちに読んでいるこっちが感動する

よくある能力なのに毒がない人に触れると未来が見えてしまうかなで、過去が見えてしまうあろう、より鮮明に未来を見る並木。今まで変人扱いされて生きてきたこの3人が、どのように心を通わせ、目の前で起こった問題・これから起こる問題を解決していくのか。それがこの物語のテーマになっていると思うんですが、すごく優しいお話だと思います。確かに、辛いことの描写はあるんですけど、それよりも出会った人たちのこれからを変えて幸せに導こうとするそのメンタルの強さ、すばらしいと思います。だいたいはこういう能力を悪用する人物がいて、確かに並木さんも株を当てさせてあげたりいろいろ悪いこともしていましたが、それほど悪!ってものは出てこなくて、些細な日常の中で出会う、危険や幸せに直面したとき、何が自分たちにできるんだろう?持っている能力とどう向き合っていったらいいんだろう?ということが語られていきます。1巻ですでにかなでとあ...この感想を読む

4.54.5
  • betrayerbetrayer
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