揺るがない気持ちに読んでいるこっちが感動する
よくある能力なのに毒がない
人に触れると未来が見えてしまうかなで、過去が見えてしまうあろう、より鮮明に未来を見る並木。今まで変人扱いされて生きてきたこの3人が、どのように心を通わせ、目の前で起こった問題・これから起こる問題を解決していくのか。それがこの物語のテーマになっていると思うんですが、すごく優しいお話だと思います。確かに、辛いことの描写はあるんですけど、それよりも出会った人たちのこれからを変えて幸せに導こうとするそのメンタルの強さ、すばらしいと思います。
だいたいはこういう能力を悪用する人物がいて、確かに並木さんも株を当てさせてあげたりいろいろ悪いこともしていましたが、それほど悪!ってものは出てこなくて、些細な日常の中で出会う、危険や幸せに直面したとき、何が自分たちにできるんだろう?持っている能力とどう向き合っていったらいいんだろう?ということが語られていきます。1巻ですでにかなでとあろうは付き合い、ずーっと続いていくわけですが、並木さんもかなでが好きで、あろうも大切で、いいポジションにまとまっていました。一人だけ高校3年生ということもあり、ちょっと悪いこともしていたからか、次々起こる出来事を冷静にとらえられているお兄さんって感じで。この関係性がどんどん深まっていくんだろうと、最後まで安心して読めましたね。
正直で裏がないかなでに惹かれない奴はいない
物語のピュアさは、かなでのおかげでできていました。何もできなくても、何かできるかもしれない。困っている人をほっておくことができない。助けたい。そういう気持ちがとにかく先行して、後先考えずに人助けに走ってしまう。最初は遠慮もあった感じでした。一人しかいないと思っているところがあったからなのでしょう。それが、あろうと出会い、並木さんと出会い、自分一人だけじゃないっていう安心感ができて、より人助けがエスカレートしていったような…(笑)。どんどん無茶をしていきます。それをそばで助けるあろうと並木さん、たまったもんじゃありませんね。でもそれは惚れた弱みってやつなのでしょう。どこであろうと助けに行く。かっこいいですよね~…それもかなでが真っすぐで、悲観的じゃなくて、最も近くて最も遠いような思考をしているから、引き寄せられちゃうのだろうと思います。
あろうとのエピソードはもちろん心温まるのですが、個人的には一番印象的なのは並木さんとのお話ですね。未来が見えても、何もしない。自分には関係ない。絶対そう思うのって当たり前だと思うんです。自分と他人しかないから、自分に利益のあることだけすればいいって思うのは、偽善でもなんでもなくて、普通ですよね。そこをかなでみたいな人間がぶち壊しに来るわけです。今まで良くも悪くも学んできたことの概念・自分の対処の仕方とか、そういうものを一気にひっくり返す。無自覚で。最強ですね。これだけシンプルに、見える力を大切にしているのを思い知らされちゃうと、余計なことを考えていたのが馬鹿みたいに思えてきます。こういう素敵な性格に育ったのも、あろうと並木さんとは違って家族の愛があったかかったからなんでしょうね。友達がいなくたって、信じるものがあれば大丈夫。そんな気持ちにさせてくれます。
幸せな三角関係
あろう、かなで、並木さんの3人が一気に出てきて、恋模様が荒れるのが予想されたけど、全然そんなことはありませんでした。むしろ3人だから価値があるような、関係性だったと思います。
かなでは無茶するけど純粋で、黒くなくて、誰より人を助けたいと強く想える人間です。そしてあろうは、過去が見えるからこの3人の中で誰よりも何もしてあげられない無力感を味わってきて、辛く悲しい気持ちを押し殺して生きてきた。それがかなでと出会って、存在する価値が見出せるようになり、かなでという人間を幸せにしたいと思えるようになっていく。過去が見えることが何の役に立つんだろうって思っていたのが、未来の見える力と合わさって最強の能力になっていきましたね。そこにブラックな視点も持ち合わせている並木さんが加わって、もう敵なしじゃんってくらいです。これをひたすら善いことのために使っていくので、能力に溺れるような暗いものは出てこないんですが、もしかしたらそれを物足りなく思う人もいるかもしれません。個人的には、これくらいのほうが、優しい気持ちで見守れるので助かるなーという印象です。変に堕ちていく姿を見てしまうと、すごく疲れるんですよね。どでかい悪役が出てきてしまうとあまりに壮大なファンタジーになってしまうので、それだと魅力が激減すると思うのです。身近にありそうだからこそ、もしかしたらそんな人がいるんじゃないかという期待感が湧いたり、想像してしまったりするので、ちょうどよい描かれ方がしていると感じました。
理解のある人が周囲にいることの心強さ
周囲に、自分を理解してくれる人がいるのかどうか。これが人間が社会で生き続けるために一番重要なものだと思っています。誰からも理解されないのなら、誰かを理解しようとは思わないし、もっと希薄で薄っぺらく、夢も希望もなく生きていく人生になります。それが、たった一人、理解者がいるだけで可能性は無限大レベルまで引きあがる。それが人間のすごいところなんだろうと思います。誰かが支えてくれるならさみしくない。どこまででも頑張る力が湧いてくる。そうやってかなでも救われたし、あろうも、並木も救われていました。タイトルは目隠しの国なので、見えない・見たくない・でも見ようと思う。そういう気持ちをうまく表現していますよね。そうやって人を理解し、理解され、豊かになるんだなーと思います。SNSでも生身でもいいんですよね、誰かが自分を見てくれているのがわかるだけで、力が湧いてくるんです。たまに人間関係にへとへとになったときには、草木になりたいと思ってしまうけどね…人間って単純で弱いけど、やっぱり、いいもんですよね。
暗い過去をつくるのも救い出してくれるのもまた人
物語が進んでくると、並木さんとあろうの過去、そしてそこからの決別が描かれていくことになるんですが、ほんと、心無い人(自分にとっては)ってたくさんいますよね。同じ命はないから、とにかくいろいろな考え方があって、人を傷つけることがたくさんあります。ただ、どれほど辛い過去があったとしても、たった一度、たった一人、リスペクトできる人間に出会えたら人生はそこから激変です。傷つけるのも人だけど、癒してくれるのも人なんですよね。人に悩みたくないって思っても無駄というか、そう考えてしまえば、悩みと幸せはいつも隣にあって当たり前なのかもしれないと思えます。かなで、あろう、並木さんが、どれだけ前向いたって辛いことも待っているでしょう。それでも自分の信じるものを貫き通していたら、ポジティブでさえいれば、なんかなんでもできそうな気がしてきます。この物語は、男の子も読みやすい感じだと思うので、年齢も問わずほっこりした気持ちにさせてくれるお話だなーと思っています。
こんな能力あったら自分だったらどう使ってる?って思うと、決してこんなに上手に使えないと思うんですけどね…だから欲しいとは思わないんですが。世界には超能力・特殊能力を使って事件を解決するっていう人がいるらしいじゃないですか。そういう人たちってどういう時に能力に気づいて、どういうふうに人生を送ってきたんでしょうね?目隠しの国を読んでいると、そんなことにも興味が出てきますよ。
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