人間の本質を見事に表現した作品 - 獣神ライガーの感想

キャラクターも上手だなんて

『獣神ライガー』のキャラクターデザインを担当されていた内田順久さんですが、正直驚きました。私が内田さんの名前を最初に意識したのは、当時大好きだった『機動戦士Zガンダム』の時でした。でも、その時はメカニック担当で、その内田さんがキャラクターも描ける方とは思っていませんでした。そして、『ライガー』を見た時にそのあまりにも高い作画レベルに再び驚かされました。あまりにもキャラクターが美しかったのです。主人公の剣は、少年らしい凛々しい目元が特徴的で、小学生らしいイタズラ好きな所と、世界の運命を背負った苦悩が交互に現れ、揺れる彼の心を表していました。そして、双子の巫女である神代ゆいとまいは幼さの中にもどこか神秘的な雰囲気を醸し出していました。更に、最初は敵として現れたあのリュウ・ドルクの気高さ。彼を一目見た瞬間に、「こんな敵っている？」と思いました。金色の髪と、不敵な笑顔。ちょっとど派手な戦闘服に身を包み高笑いする姿はかなりインパクトがありました。内田さんの絵は、男女共にかなり色っぽい気がするんです。特に2期目のエンディングですれ違う剣とリュウ・ドルクが居るんですが、その表情が妙に色っぽく見えるのです。

人間の本質

この作品は、神話の時代から続いている「善」と「悪」の戦いがベースとなっています。善神アーガマの血を受け継ぐ小学6年生の大牙剣は、右手に現れた獅子の痣を空に向け、「ライガーッ」と叫ぶ事で、バイオアーマーである「獣神ライガー」へと乗り込む事が可能となります。大切な友人や祖父を殺され、次第に世界を守るという大きな決意をします。人間はいろいろな経験を乗り越えて大きく成長します。現に、剣は痛みや哀しみ、そして敵に対する憎しみを乗り越えて大人っぽくなりました。しかし、それと同時に人間の嫌な部分も暴かれたような気がするんです。後半、敵であるドラゴ帝国は邪神復活の鍵となる双子の姉・ゆいを狙い始めます。最初は理由が分からず混乱するゆいですが、剣やまい、そして兄である事が判明したリュウ・ドルクに守られ、彼女は自分の運命と戦う決意をしました。しかし、もしかしたら真の敵はドラゴ帝国ではないのかもしれませれ。ドラゴ帝国にゆいを差し出せば自分達は助かる。そんな浅はかな気持ちから暴動を起こす市民。スタッフの方が視聴者に問いたかったのはここではないでしょうか？敵ならまだしも、味方の筈の市民が剣やゆい達に拳を上げて抗議するのです。今まで散々守っておいてもらってあんまりです。本当に恐ろしいのは、こうした人々の悪意ではないでしょうか？自分達を守る為なら、幼い少女さえも敵に差し出そうとするのです。そんな、人間の本質とも言える部分をスタッフは子供達に伝えたかったのではないでしょうか？誰だって、自分の身が可愛いのです。確かにひどい事なんですが、もし、自分だったらどうしただろうと考えさせられた作品でした。

愛の形

敵として剣の前に度々現れたリュウ・ドルクですが、彼にはたった一人愛した女性がいました。アキという名前のその女性は、剣にとっても大切な存在で、ポニーテールがよく似合っていました。ある事がキッカケで記憶喪失となったリュウ・ドルクは彼女に介抱されます。明るく、身の回りの世話をしてくれるアキに、リュウ・ドルクはおそらく初めて誰かに好意を寄せたのでしょう。そして、アキもまた素生の分からない彼にほのかな恋心を抱きました。しかし、ライガーとドルガの戦いの中、爆風に巻き込まれ彼女は命を落とします。探しに来たリュウ・ドルクの腕の中でアキは微笑みながら息絶えてしまいます。この時にリュウ・ドルクは初めて誰かを失うという絶望を感じた事でしょう。しかし、この事が彼が変わるキッカケになった事は間違いありません。アキとの交流がなかったら、彼はきっと終始剣達の敵として終わってしまったでしょう。そして、そんなリュウ・ドルクを密かに想い続けていたのがドル・サタンです。彼女がいつからリュウ・ドルクに対して想いを寄せていたのかは知りませんが、彼女程純粋な愛を傾けた人はいなかったのではないでしょうか？ドラゴ帝国の女帝であるザーラの配下として四天王の座に着いた唯一の女性で、「氷の将軍」と異名を持つ彼女は剣達にも容赦はありませんでした。しかし、その内面は氷とは正反対の熱い恋心を抱いていたのです。リュウ・ドルクにさえも自分の気持ちを隠し、さりげなく彼をかばっていました。しかし、結局その想いはリュウ・ドルクに伝わる事なく、彼の為にその命を散らします。せめてもの救いは、最後、愛するリュウ・ドルクの腕の中で生き絶えたという事です。きっと彼女にとっては幸せな最期だったのかもしれません。リュウ・ドルクが彼女を本当はどう思っていたのか、その真意は分かりませんが、彼女が誰よりも深く彼を愛していた事には変わりがありません。