今泉伸二氏らしい作品 - 神様はサウスポーの感想

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神様はサウスポー

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画力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
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感想数
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今泉伸二氏らしい作品

3.73.7
画力
4.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
3.0
演出
4.0

目次

泣かせる要素が多いのは今泉氏らしい

今泉伸二氏の作品で印象に残っているのは、体操を題材とした「空のキャンバス」、野球を題材にした「チェンジUP!!」そして、この作品「神様はサウスポー」という人も多いのではないか。

週刊少年ジャンプがまだまだ驚異的発行部数を誇っていた当時、コテコテの友情や格闘漫画、スポーツ根性物が人気であったが、そのコテコテな時代ですら、今泉氏の漫画の人情に訴えたスポ根ものは、やや設定に古臭さを感じた。

それでもつい読んでしまうのは、どろどろな展開の昼のドラマや韓流ドラマについ見入ってしまうような感覚に近い。空のキャンバスやチェンジUP!!が、主人公の持病などを主眼に置いて描かれているのに対し、神様はサウスポーは比較的長期連載のボクシング漫画であったため、主人公のみならず対戦相手の凄まじい過去も事細かに描かれている。

最初は単なる悪党に見えた対戦相手にも事情があり、人情があり、そして最後はスポーツマンシップに乗っ取った戦いをしているのは、少年誌らしい展開なのではないだろうか。

単にそのスポーツばかりに没頭してしまうのではなく、周りを取り巻く人間との感動話を盛り込んだ展開は今泉氏の得意なところであるようなので、そういう意味ではこの作品は非常に今泉氏らしいと言える。

好みが分かれそうな描写

神様はサウスポーでは、一定の描写傾向があり、主人公の弾を始め、弾の周囲の仲間や対戦相手についても、幼少期の回想シーンや現在彼らを取り巻く人々がどうしているかなどのシーンを交えて、登場人物の人格形成のきっかけになった体験などをしっかり描いている。

好感が持てる人物が多いので、そういった回想シーンの泣ける描写が気にならないという人もいると思うが、かなりそういうシーンが多いため、中にはむやみに感動させようとしすぎなのではと辟易してしまう人もいそうだ。出てくる人物のほぼ全員が異常な苦労人のため、もう少し凡庸な人生を歩いている登場人物がいてもいいのではと思ってしまう。

弾のライバルの友樹にいたっては、日本人なのに戦場ジャーナリストが問題視している紛争地域の少年兵状態だったという過去には、凄まじい過去にしては容姿(特に顔)があまりに女性的な顔立ちなのでびっくりしてしまった。

ボクシングというスポーツ自体より、ボクシングを通じて自分の過去と向き合って解決していくことの方に主眼が置かれた漫画なので、ボクシングを思い切り楽しみたい人にはやや肩透かし感はあるかもしれない。

絵柄がコミカルなのに迫力がある

今泉氏の絵柄というのは、どの作品も登場人物の目が丸っこくて、人懐こいようなかわいい感じのキャラクターが多い。女の子はそれでいいにしろ、男性キャラもカッコいいというよりは、かわいいというキャラクターが多い。

しかし、ボクシングの試合中、パンチがさく裂した際の描写はかなり迫力がある。はっきりいって、日常のシーンを描いている人物とは別人が描いているのでは?と思うほどなのだ。

コミカルなルックスのキャラクターたちは、デッサンが狂うことなく視線が厳しくなり、ボクシングをする男の目つきになって試合をしている。

この迫力・今泉氏の画力は一体どこで培ったんだろうととても疑問であったのだが、のちに今泉氏が、魁!男塾の宮下あきら氏や、コブラの寺沢武一氏、北斗の拳の原哲夫氏など、荒々しい画風で有名な作家のアシスタントをしていたと知り納得した。

コミカルな絵柄は今泉氏独自のものであるが、あの試合中の迫力は、それぞれの格闘漫画等で有名な作家の元で培われたものと思うとうなづける。

ややボクシングの描写が物足りない

主人公の弾は、最初から天才気質で描かれていて、設定上も神様にもらった左手と、努力だけでは到達し得ないボクサーの資質を天性で持っているということになっている。

そのせいか、よくボクシングにありがちな減量の苦労や、きつい練習に苦労している弾の姿というのは余り描写がない。また、試合もボクシングの素人が読む分なら全く気にならないかもしれないが、ボクシングを知る人が読むとあり得ない反則が行われているシーンもある。

そういう意味では、バスケット漫画のスラムダンクのような、現実の試合のリアリティを漫画で楽しみたい人向けというよりは、サッカー漫画のキャプテン翼や野球漫画のアストロ球団のように、あり得ないような必殺技でも楽しめる漫画(実際はそこまでの誇張ではないのだが)の類と言える。

設定へのツッコミと唐突な最終回

この作品は、読んでるうちは気にならないものの、読了後に言われてみるとなんでだろうと思う設定もかなりある。例えば主人公の弾は、幼少期は日本語が流暢だったのに、長年日本人の親と死に別れていたからと言って日本語が片言になる必要があったのかということなんかがそうである。また、神が与えてくれた左手という設定はともかく、キリスト教の信仰者にする必要もあったのか?という点など。

そして、永遠のライバル友樹との壮絶バトルで物語を完結にしても良かったのに、その時点では編集から連載延長を求められていたのか、会ったことがない弟が現れたものの、これから弟とバトルだというところで、話が終わってしまうのだ。何かの事情で無理やり打ち切りになったとしか思えない展開。

色々事情はあったのかもしれないが、もう少し編集サイドに作品を大切にする方針があればと感じざるを得ない。可能なら弟との勝負を描き切って物語を完としてほしいと願うばかりだ。

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