死神と生きている人が結ばれるにはこうなる
死ぬ間際に会いに来てほしい
いやむしろね、こんなかわいい人たちが命を取りに来てくれるなら、来てほしいなって思ったわ。壁からみょーんとやってきてくれるあのタイミングもまた、印象深い。死ぬはずだった満月の運命は、めろことタクトに出会ったことによって変わった。影響しあい、闇に向き合い、タクトが満月をフルムーンに変身させている間は病気も進行しなかったという奇跡。命を狩りにきたはずが、結果的には救ってくれた。それなら死神ではなく、やっぱり天使なんだろう。
死にゆく魂を迎えにやってくる死神たち。死神は、自殺した魂が冥府で与えられる仕事。記憶を失った状態で、命を狩る仕事をするのが死神。まぁ記憶を取り戻したとしても仕事はなくならないらしいけどね。それならどのタイミングで彼らは役目を終えるんだろう…冥府の長ミスティアと部長さんが力を使って消滅する道を選んだけれど、天使として新たな役割を見出した冥府で、これからはどんな物語が展開されるだろうかと気になっている。続編が出ることはないとわかっているし、これ以上ない終わり方をしたとは思う。
種村有菜さんの作品の中で、一番ほっとするし、なんか共感しやすいのも、この漫画だね。少し古いのだが、満月がかわいく、タクトがかっこよく、登場人物たちの恋がどれも少し切なくてそれでも愛にあふれている感じ、人気が出るよなーと思う。要所のギャグが古いところから、やや年代が分かってしまうのもまたおもしろい。
めろこといずみ君
この2人、本当にこじらせているよね…めろこはわかりやすくいずみ君にフォーリンラブしていたが、いずみ君はそれを受け取れるほど心に余裕がない男。なぜかはわからないけれど、死神として生まれ変わったいずみ君には生前の記憶がほとんど残っており、失った記憶のほうがわずかだった。死んだときは小さな子ども。生まれてからは見た目は大人の男に。中身は子どものくせに妙に悟りが入ってて、周りがちょっと距離を置きたくなるような、寂しそうな顔をしている…そこにめろこの母性が入って、愛情いっぱいに彼を愛そうとすっるから、愛を知らない・知るのが怖いと思っているいずみ君は拒絶してしまう。複雑なんだけれど、いずみ君の気持ちにはすごく共感してしまった。彼は、人生に絶望して自殺を選んだんじゃない。自ら、死ぬことで、母が笑う顔を見ようとした結果だった。母が大好きだってこと、表現したいがための子の行動…ほろりとくるよね。
めろこの過去と、満月の祖母文月さんの過去は繋がっている。めろこの自殺の話もまたすごーく泣ける…結局文月さんと古賀さんも結ばれなくて、すべてがクリアになってから、もう一度巡り合う…種村さんの他の作品よりも、すごく巧さがあったなーって思うんだよね。それぞれの因縁めいた関係性とか、あとから回収される伏線の数々も、よくできている。脇役こそ光るものがあって、みんなが愛着あるキャラクターであることが伝わるお話たちだった。
タクトと満月
すでに死んだ扱いになっている存在と、現在を生きる人とで横恋慕を起こすとは…なかなかおもしろかった。光理がめっちゃかわいくて、でも性格は終わってて、タクトはそれでも惚れていた過去があって。今は絶対満月のものなのに…!ってやきもち焼いちゃう満月がこれまたかわいいし、今まであんなに英知君ひとすじだった彼女が、タクトの存在に助けられ、違う恋もあるって教えられていく。…何の因果かわからないけれど、満月の父・葵とタクト、若王子先生はルート・Lとしてバンドを組んでいた。そして、小さなころの満月と、ちゃんと生きていたころのタクトは会ったことがあるという設定。…いったいタクト何歳…?本来12歳の満月と、おそらく20歳超えているであろうタクトでは、犯罪級。満月が成長したとしてもまだ中学生で、タクトと恋するにはちょっときついものが…いや、恋に年齢は関係ないということで…いいだろうか。タクトの時間も止まっていればまだよかったんだけど、彼は植物状態で生きていたから、年齢は重ねているしね。
最初はタクトの一方的な片想いで、英知くんなんかより俺を選べ!っていう勢いが好きだったね。何より、英知くんが死んでいるってわかってからのタクトがもうイケメンで。彼のおかげで満月は歌うことをずっと選び続けてきたし、それが生きることだと感じることができた。初デートすっぽかされた後の満月がもうかわいくて、タクトが満月を溺愛しているのがまた甘くて最高。一番いい感じの絵になっていたと思う。
死神の世界で、めろこがいずみ君を吹っ切れずにいるところを目撃さえしなければ、タクトはめろこのモノだったかもしれない…と思うと切ないところではある。めろこは確かにタクトが好きだったから。めろこにはいつも守ってくれる人がいなくて、満月との差を感じてしまったこともあるだろう。だけど満月のおかげで過去と向き合えたことも事実。救われたことも事実。もどかしさと前向きな気持ちを共存させるのが本当にお上手だ。
英知くん
英知くんが死んでいる…衝撃を受けたことを覚えているね。ずっとタクトがライバル視してきた相手はすでに死んでいて、闘う術すら残されていない。満月の心はずっと英知くんに囚われていて、満月もそこから逃れることを望まない。のどの手術を受けないことも、死んだら英知くんに会えるかもしれない…って気持ちが入っていたからだし、歌手になる夢と、英知くんを想い続けることが決して一直線上にあるわけではないと、自分でも気づいている。でも誰かに触れられたくない…自分でわかっているのに、言葉にしたら終わってしまう気がする。進んでしまう気がする。その気持ちがすごく共感できるね。悲劇のヒロインになっていつまでも浸っていたいときとよく似ている。
英知くんが満月のそばにいたことによって、満月には死神たちの姿が見えていた、というオチについては、うん、よくまとまっているなーと思った。満月が幸せだと心の底から言えるようになったとき、英知くんの魂は天に召されていってしまったけれど、そうするともはやめろこやいずみの姿は見えなくなるわけで。いつも嬉しい・楽しいことがあるわけじゃない。何かが終わって、何かが始まる。そんな現実を見せてくれた気がするよ。でもまぁ、どうにかしてめろこといずみは人に見えるように神術使うだろうから、さほど心配はしていない。さすがにずっと会えないままなんて、悲しすぎるもの。英知くんのだけが、本当に切なかったな…大好きな人に大好きだと告げて、告白の答えを待ちながら、飛行機が墜落して死んでしまった。だから、物事はいつも、決着つけてから進んだほうがいいね。
天使として
これから天使として、冥府の死神と呼ばれた者たちは、死に際を幸せにしてくれる仕事をするんだろう。誰が長になるかはわからないけれど、少なくともめろこといずみではなさそうだよね。彼らは白い衣装をまとい、これからも小児科として小さな子たちの魂をかわいく迎えにきてくれるんだと思う。いずみにとっても、やはり小さな子たちの死こそ、向き合って最後を迎えさせてあげることが、自分自身の慰めにもなると思うんだよね。いつでもめろこが、そばにいてくれるから。
声を失ったタクトのために、消滅してしまった部長ジョナサンと冥府の長ミスティア。彼らもまた恋仲だったっぽいのだが、そこらへんは詳細省くんだなー…いつもは番外編でも必ず全部の主要キャラクターの話を入れてくると思っていたから、そこは残念だった。せめて、ジョナサンが自殺した話、聞きたかった。
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