「動物のお医者さん」だけでないと思わせてくれる作品 - チャンネルはそのまま!の感想

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チャンネルはそのまま!

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「動物のお医者さん」だけでないと思わせてくれる作品

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画力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
3.0

目次

新たな舞台を背景にして

この「チャンネルはそのまま!」の作者は、「動物のお医者さん」があまりにも有名な佐々木倫子だ。「動物のお医者さん」ではその繊細なタッチでたくさんの動物(猫の和毛のなんともほわほわしたところ、ハスキー犬の巨体にもかかわらずその表情の豊かさなど)たちを詳細に描いた。あの作品の影響でハスキー犬ブームが起こり、それだけでなく獣医希望者が増えたのも有名な話だ。それほどの社会現象を巻き起こした作品の作者というのは比較的その有名な一作だけで終わりがちなのだけど(決してそれが悪いというわけではないけれど)、佐々木倫子はその後も「おたんこナース」や「Heaven?」と連続して読ませてくれる作品を書いている。もちろんそれぞれ「動物のお医者さん」ほど社会現象を起こしたりドラマ化されたりというわけではないけれど、なにか引き込まれる世界観がどの作品にも感じられるのが佐々木倫子だと思う。
今回の「チャンネルはそのまま!」はテレビ局で働く新入社員を主人公に、また新たな舞台で新しい主人公が生き生きとして動き出しているのを見ると、ついついわくわくしてしまった。

「バカ枠」採用 雪丸花子

面接で数々の失敗をやらかしながらもなぜかそのまま採用となった雪丸花子のその採用理由は、なんと「バカ枠」でということだった。しかしこの雪丸、決して“バカ”ではない。確かに失敗は多いし間違いも多いのだけれど、そこになぜか人をひきつけるところがある。心配し怒鳴りながらも、なぜか皆彼女が気になってしまうのだ。そういう存在であるということを見抜いたからこそ採用されたのかどうかわからないけれど、エリート大学出身のきれいな人間だけでは成し得ない数々の武勇伝をすでに彼女は打ち立てている。そういうところから見ても、確かに「バカ枠」以外のいい表現が見つからない。しかしそれは決して頭が悪いのではなく、相手に警戒心や威圧感を一切感じさせない、いわゆる“正直者がバカをみる”のバカのような感じなのだと思う。
時にそのようなバカ差加減や天然ぶりを描くとどこか現実離れしているように思えて、リアリティが感じられないことがよくある。そういうストーリーにでくわすとこれくらい最低限ができないのに感動させられるはずがないように思えて、まだ巻の早いうちから切り上げることも多々ある(しかしこれはある程度巻数が多いマンガだからこのようなことができるのであって、小説だと悔しいことに、首をかしげながらも最後まで読んでしまうことがよくある。これはとても悔しい)。しかし雪丸のやらかすことは、ありえるかも…と思いえる、あくまで“地に足のついたボケ”であることがほとんどだ。だからこそハラハラもするし、周りもついつい世話を焼いてしまうのだろうと思う。

「プチプチ」山根一

端正なマスクと冷静な判断、計算されつくした言動がすべてとも思える山根だが、同期である雪丸のことが面接当初からある意味気になってしまっている。彼の冷静な性格から言うと“気になる”というような消極的な対応ではなく、異物感とも言うのだろうか、どうしても目に付くといった感じだろうか。「バカ枠」である雪丸と周囲との緩衝材としての「プチプチ」と上層部から言われているのもうなずける話だ。なんだかんだいって世話を焼き、冷たい態度ながらもアドバイスをし、そしていつも雪丸を視野にいれているところからも、案外山根自体も面倒見がいいのではと思わせるところだ。
このようなボケとつっこみの印象が強いのは「のだめカンタービレ」ののだめと千秋真一だ。千秋もクールで近寄ってくるのだめを追い払いながらも、どこか面倒を見続けていた。雪丸と山根は彼らのような関係性を彷彿とさせる。千秋も理知的でクールであり、山根もそうだ。のだめも天然だけれども類まれな才能を持っていたし、雪丸は天然ゆえ周囲の警戒心を解いてしまうところが才能でもある。また彼女に振り回されている山根は彼自身も気づいていない才能を開花させているように思え、これ以上にない組み合わせだと思える。そしてその関係性は、のだめと千秋のように恋愛関係になくともうらやましいなと思えるものだった。

コミカルな展開ながらも考えさせられる深さ

この作品は全体的には雪丸がバタバタして周りが巻き込まれ、なんとなく勢いで解決といったパターンが多く見受けられるけれども、それだけでない深さを時々感じさせるところが佐々木作品のよさのように思う。今回も同期同士で飲みに出かけた先で、部署毎の思惑と仕事と理想が食い違い、言い争いに発展してしまうところがあった。言い争いの発端は、スポンサーメインの情報を出してくれと言う大人しいながらも芯が強そうな服部と、情報はそのような偏ったものではないと言い張る山根の2人だったけれど、決してどちらも悪くなくどちらも正しい論争に終わりがあるはずものなく、ケンカ別れのような形となってしまう。雪丸は仕事で来れなかったため、後日その話を聞いて服部を助けようとする。そこには大きな正義感も大義も感じているわけでなく、なんとかしようよ!といういわゆる学生の文化祭のようなノリであるにもかかわらず、不思議と皆が団結していくのだ。この不平を言っていた皆がなんとなく集まって一つの方向に向きだす展開はとてもリアルで、こういう瞬間確かにあるなと実感した。
それは小さな奇跡といっても過言ではなく、それを実現させたのは少なくとも雪丸だということが、彼女のバカという名前の底力なのかもしれない。
カメムシ一斉防除の話も捨てがたいが、この話も数ある話の中でも個人的には気に入っている話のひとつだ。

恋愛につながらないストーリー展開

どうしても同期2人が揉めながらもうまくやっているところをみると、この2人はくっつかないのかなとか思いがちだけれど、佐々木作品ではあまり恋愛に話しがつながらない。「動物のお医者さん」のハムテルと菱沼とか、「Heaven?」のオーナーと伊賀くんとか、性格的にはお互いかなりぴったりしているように思えるけれどそこから恋愛に発展しないのが佐々木作品のよさだ。
なんでもかんでも男女が仲良ければ恋愛につながる、恋愛一辺倒の傾向はあまり好きではないので、そういうのがいやだからこそ佐々木作品を読むといっても過言ではない。
今回の雪丸と山根もかなりピッタリなカップルになりうると思う。そしてそのようなストーリーを作るのは簡単だと思う。だけどあえてそうせずに、ずっとテーマである「バカ枠」「バカ係」として2人を描写するというのはなかなかいいところだと、私は思う(とはいえ、雪丸と山根が2人で雪の中の穴に落ちたときは少しワクワクしてしまったのだけども)。

少し絵柄が変わったか

佐々木倫子作品は「動物のお医者さん」からしか読んでいないのだけれど、この「チャンネルはそのまま!」と比べると若干絵柄が変わったように思う。「動物のお医者さん」からは実に20年がたっているし、マンガ家の絵が変わっていくことは当たり前といえば当たり前なのだけど(初期と後期でまるで変わったマンガ家もいることだし)、「動物のお医者さん」時代の繊細なペンタッチが個人的には好みだったので、少し残念な感じがした。でもこれはそれ以降の「Heaven?」ではあまり感じなかったので、新しい試みなのかもしれない。
また、若干話がパターン化してしまっている感じは否めない。そのため6巻で完結というのもちょうどいいところだと思う。
とはいえ、このような斬新なストーリー展開(恋愛抜きというのも気に入っているし)は佐々木作品ならではだと思うので、また新作がでたら読んでみたいと思う。

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