こんなにおもしろいのに有名じゃないのがびっくり - リンドバーグの感想

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リンドバーグ

4.504.50
画力
4.50
ストーリー
4.50
キャラクター
4.25
設定
4.25
演出
4.00
感想数
2
読んだ人
2

こんなにおもしろいのに有名じゃないのがびっくり

4.54.5
画力
4.5
ストーリー
5.0
キャラクター
4.5
設定
4.0
演出
4.0

目次

夢の国からスタートする展開のおもしろさ

ニットは外の世界に憧れる男の子。エルドゥラに生まれ育ち、そこで生きていく方法しか知らない彼は、長い間ずっと悩んでいた。父さんが外の世界を見てくるからと空へ飛び立ち、戻ってこれなくなって数年。なぜ父さんが反逆者だと言われなくてはならなかったのか。外の世界にある真実が何なのか。でもそれを知る由もなくここで自分は生きていくのか…?ニットが抱く気持ちは、とても複雑で、純粋で、少し悲しい思いだった。

地上に生き、空に憧れてリンドバーグと共に空を飛ぶ者たちからすれば、エルドゥラは伝説の地。でもそこに生きていたのは、閉鎖的な王と、外を知ることすら許されない哀れな民だった。伝説の地には確かに財宝があり、地上の人間たちからすれば観たことのない世界が広がっていたかもしれない。でも必ずしも夢にまで見た場所が夢に描いたままの場所とは限らないのである。結局、民は家畜を育て、畑を耕しているし、お酒も造って、何ら地上と変わりのない生活をしている。ただそこには、「発展」というものが欠けてしまって、人は増えもせず、努力しなければ減る一方になる。そんな狭い世界と、外の世界を比べたら、そりゃー外の世界に行きたいと思うよね。変わっていきたいと思うよね。ほんと、あのアホな王様のせいでいかに民が苦労してきたか…でもね、王族だけが私腹を肥やすと言えど、やっぱり限界があって、エルドゥラの中でできるものだけを守っていくしかない。そう考えるとみんな哀れだよね…。

とはいえ、やっぱり伝説の地というだけあって、エルドゥラの存在している空の島はほんとにすごい。最強レベルでかっこいい。まさか巨大すぎるリンドバーグで空を飛んでいるとは思えないじゃん。シャークたち地上の人間が憧れた場所は、少し拍子抜けしたかもしれないけれど、やっぱり伝説の場所。そんなすごいところから出てきたニットが、案外普通の人間であることが皮肉であり、大人としてはうなる面白さを感じる。

人と共に生き自由に宙を飛ぶ

人にとって、空を自在に飛ぶことはロマン。鳥人間コンテストに出ようとも、自在に方向や高度を操れるような飛び方は決してできない。ただ飛んで、どこかへ落下するのみだ。リンドバーグという相棒を持つことにより、風をつかみ、自在に空を飛ぶことができる…素敵。ドラゴンのお友達がほしい。

ニットが偶然出会い育てていたプラモは、リンドバーグの古代種であることがわかり、ニットとプラモが協力して空を飛ぶことになっていく。こういう真新しい世界に触れて、成長していく漫画って爽やかでいいよね。始まりで悲しみが多かっただけに、嬉しい限りだ。ニットは、父親のこと、ナンナたちのこと、モーリンのこと…いろいろな人を想いながら、エルドゥラを旅立った。シャークも、エルドゥラの民を想い、王を殺すという行動に出た。ほんと、1巻だけで激動だったね…そうやって始まった彼らの物語は、人とリンドバーグとか共に生きていけるよう、模索するというのがテーマになっている。ニットとプラモが空を飛ぶことに関してどんどん一流になっていき、ふたたび故郷へ戻る話になるのかと思いきや、ニットたちを連れ出してくれたシャークやその仲間たちと、国との間で巻き起こる血みどろの攻防が待っていようとは…カエルが大海に出たとたん、スケールのデカいケンカが巻き起こっていることを知るのである。

シャークはどう見ても悪そうだったので、ニットとプラモの将来を心配しまくったが、結局はいい人で、リンドバーグを本当に大事にしてくれているのが伝わる、いいおっさんだった。この物語は、ニットははっきり言って脇役に近く、シャークとグラナロッサという元夫婦のデカいケンカの物語なのだ。

グラナロッサとシャーク

この2人の関係が本当に心苦しいもので…お互いに大好きだった人なのに、今では一番に憎い存在になってしまっているなんて、あまり考えたくない状況だ。お互いに譲れない気持ちがあったにせよ、リンドバーグをモノとして扱う女王と、家族として扱うシャークでは、そりゃ仲良くはできないよね。でもお互いのことを完全に殺したいとか考えていたわけではなくて、どこかで理解しあいたいとも願っていたからこそ、あの場で勝負をつけようとしたんだと思う。シャークが殺されて、女王はもっとおかしくなり、リンドバーグを改造することに拍車がかかる。…やめることもできないなんて、悲しいよね。目の前でシャークが死んで、止めてくれる人がいなくなって、ただ進んでいくしかなくなった女王。ティルダもまだまだ子どもだし、すべてを知ることはかなわなくて、グラナロッサは進むしかない。シャークの忘れ形見であるティルダは、リンドバーグと人とがともに生きていくことを一番に考えている存在だったし、どこかで彼女によって変えられることがあるのかもと思っていたが、無理だったね…ティルダがせめてあと5歳くらい年齢を重ねていたら、もっと重要な立場で発言権を持てたのかもしれない。王族として、リンドバーグを保護する対策を立てることもできたかもしれないしね。

大事に想いあいながら、殺しあうしかないなんて、怖すぎる。ただ空を自由に飛んでいるだけでは満足できないのだろうか?国とは、人がつくるもであるからこそ、武器を捨てる勇気を持たなくてはならないのではないだろうか…

あなたの分もたくましく強くなると決める

シャークのいない空賊。それでもみんなだって生きていかなくちゃならない。ニットたちは、たくましく日々を生きていた。仲間を見捨てず、プラモを信用し、人を大切にしていくシャークの精神がしっかりと船員たちに受け継がれていて、誇らしい気持ちになった。ニットだけじゃなく、プラモも成長して…って、プラモは成長しちゃってごつくなっちゃったね…あの小さなドラゴンだからよかったのに…中半端に成長すると、ダサいんだなー…いっきに古代種としてエルドゥラ支える勢いででっかくなったらすごいのにね。プラモその領域に到達できるのは、ずっとずっと先の未来のことなんだろう。

シャークが願ったように、ニットには人殺しの銃の使い方は受け継がれなかった。どうか、銃を使うことなく、幸せに生きる道を見つけてほしい。それがシャークの願いだった。彼を逃げ出した臆病者だと言う人間がいるかもしれない。だけど、それによって救われた何人もの命があった。どんだけシャークいい奴なのよ…!

ニットが故郷へ帰るときが来るのか

いろいろな攻防があり、リンドバーグと人との絆が深いものが戦いを制した形になった。世の中はそれだけで解決されることは少なく、世界は多少平和になっただけ。それがリアルで、心を打つよね。

個人的には、モーリンとどうにかして再会してほしいし、王族のいなくなったエルドゥラの地がどうなってしまったかを知りたいね。果たしてきちんと統率がとれているのかどうか、王なしでおかしくなっていないか…シャークでも見つけるのに10年も費やしたというエルドゥラ。時代が移ろって、いつか誰かがその存在を覚えていてくれて、見つけ出してくれたら…その時がニットたちが生きている間に訪れてくれたらと、願ってしまうね。モーリンとティルダ、ルゥルゥがニットの取り合いをしてくれてもいいし、伝説の地をわすれないでほしかったな…

人とドラゴンの冒険物語は、こんなに絵がかわいくて、ストーリーも豊かで、楽しい漫画なのに、なぜ表沙汰に宣伝されないのだろう?そればかりが残念である。

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大空に飛び立った少年の夢の続きが気になりすぎる

伝説の地エルドゥラがかっこよすぎる父さん、そんなに外の世界はいいところなの…?父親に対する尊敬はありながらも、命を落としてまで追いかけたいほどのものが外の世界にあるのだろうか…?ニットはそんなことを考えながら生きています。子どもながらに、父親への信頼もあっただろうし、それでいて自分や父親が嫌われることへの羞恥心みたいなものもある。そして、ただ生きて、死んで、を繰り返している気がするという漠然とした諦めのような気持ち。複雑な気持ちがこの言葉には込められているなーと感じましたね。空を飛ぶことは犯罪とされ、ただ王族に従い続けることを強要されている国エルドゥラ。辺境の地ではあるものの、民は家畜を育て、畑を耕し、お酒を造り、みなで協力して暮らしていた。まさかすでに伝説の地がスタートだったとは…一般的に、移動する島・国っていうのは、ラスボスのちょっと手前くらいにようやく会えるかどうかという超レアな...この感想を読む

4.54.5
  • betrayerbetrayer
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