大空に飛び立った少年の夢の続きが気になりすぎる - リンドバーグの感想

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リンドバーグ

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ストーリー
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キャラクター
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大空に飛び立った少年の夢の続きが気になりすぎる

4.54.5
画力
4.5
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
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4.5
演出
4.0

目次

伝説の地エルドゥラがかっこよすぎる

父さん、そんなに外の世界はいいところなの…?

父親に対する尊敬はありながらも、命を落としてまで追いかけたいほどのものが外の世界にあるのだろうか…?ニットはそんなことを考えながら生きています。子どもながらに、父親への信頼もあっただろうし、それでいて自分や父親が嫌われることへの羞恥心みたいなものもある。そして、ただ生きて、死んで、を繰り返している気がするという漠然とした諦めのような気持ち。複雑な気持ちがこの言葉には込められているなーと感じましたね。

空を飛ぶことは犯罪とされ、ただ王族に従い続けることを強要されている国エルドゥラ。辺境の地ではあるものの、民は家畜を育て、畑を耕し、お酒を造り、みなで協力して暮らしていた。まさかすでに伝説の地がスタートだったとは…一般的に、移動する島・国っていうのは、ラスボスのちょっと手前くらいにようやく会えるかどうかという超レアな地のはず。スタートしたのが伝説の地からというのは、なかなかないですよね。すでに出発するときに、今まで守られていた古代の番人たちの妨害を受けるという…逆転してておもしろい。そしてエルドゥラの見た目が相当かっこよすぎる。こんな地に住んでいたことを誇っていいと思うよニット。

そして肝心のリンドバーグ。プラモは本当にかわいらしく、大人になっちゃうのがもったいないくらいのフォルムでした。宙を飛ぶというよりは、空気を蹴るというドラゴン。翼は人間が付けてあげ、協力して空を飛ぶ…お互いが相当楽しいだろうなと思いますね。プラモが古代種であると知らずして、ペットとして育てていたニット。王族もまた、自分たちの権威に胡坐をかき、何も知らないバカばかりの様子。平和ですな~…恐怖のない国においては、みんなバカになるかもしれないなーと感じずにはいられませんね。何か乗り越えたい障壁すらない、ただ生きて、死ぬだけの国。それを利用する人間と利用される人間。伝説の地といえど、住んでいる人間はやはり人なわけですな…

人とリンドバーグの関わり合いが素敵

リンドバーグすら知らなかったエルドゥラの人々。外に出てみればあら不思議。これだけたくさんの人間がこの世界で生きていたわけです。そして、当たり前のようにリンドバーグを乗りこなし、その技を競っている。ニットとプラモにとって、何もかもが新しい世界だったことでしょう。今まで知りもしなかった新たな世界・知識に出会うこの瞬間。どんな漫画を読んでもやっぱりいいよね。気持ちがすごく晴れやかになる気がする。

ニットとプラモはすでに信頼関係はできていたけれど、空を飛ぶことは知らなかった。そんな二人が、シャークに連れ出されて飛ぶことを覚えていく。序盤、シャークが悪い人のような気がしてならなかったけれど、やっぱりいい人で本当に良かった。リンドバーグをとても愛しているし、大切にしてくれているのがわかる。そして何より、リンドバーグを傷つけないようにしてくれているのが嬉しいよね。同じ命として扱ってくれているのが分かる。グラナロッサが出てきて、完全にリンドバーグを道具として扱っている人間が出てくる。そこと闘うというか、争いながら、どうやっていくことが正しいのかをずっと模索する。そのことに主軸がおかれていきます。単にニットとプラモが旅を楽しむことだけに目的を置くことなく、自分を連れ出してくれたシャークへの恩返しや、人間とリンドバーグが虐げられる世界へ反抗、空賊団として生きていく覚悟など、新たな地で新たな生き方を見つけていくお話になっているわけです。

女王陛下とシャークの悲しい道

女王とシャークの関係性がね…とても痛々しいよね。だって、お互いに大事な人だったわけですよ。なのに、シャークの想いと女王の想いはすれ違った。お互いに譲れぬものがあったり、自分を認めさせたいというプライド、それでいてまだ情も残している曖昧な関係…同じ立場にいたのに、シャークは空賊(まぁ義賊だけど)になっている。シャークが生きているときは、まだどんなふうにも変わっていける気がしていました。リンドバーグを道具とせずとも、切り開いていけるものがあると。だけど、シャークが殺されて、より女王はおかしくなりました…せつない…目の前で死ぬっていう残酷さ、エルドゥラにいたらなかったよね、きっと。

頼みの綱は妹(ということになっていた)ティルダ。実はシャークの忘れ形見であり、女王エスペランサの娘…このネタ、もっと使えたと思うんですけど、わりとあっさり公開されてしまいましたよね?ティルダはシャークの気持ちを受け継いでいる娘。人とリンドバーグは共に生きる存在だと考えている女性であり、気高さとプライドの高さも一流だが、リンドバーグを愛することも一流でした。絶対架け橋になってくれると思ったんですけどね…そりゃーニットと協力して、うまいこと国をあげてリンドバーグを保護することも今後できていくだろうけど、エスペランサとシャークがもうね…なんで分かり合えなかったのか、そのときにティルダがもっと大人だったら…って思ってしまった本当に悲しいです。勢力を広げることより、空に恋することより、ただお互いを大事に想っていることが間違いないと教えあえたらよかったのにな…ただただ残念です。

誰かの死の上に自分が立つ

そうして時は過ぎ、シャークなしで成長したニットたちが、空賊としてたくましく生きている姿を見せてくれました。プラモもすっかり大きくなって一人前に。シャークが死んでしまっても、みんな卑屈になることなく、仲間を、リンドバーグを、大切にする精神をみんなが受け継いでいることが本当に嬉しいよね。こうやって人は大きくなるんかなーとしみじみとします。いい話だ…。女王だけは、己の求めるチカラへの欲求にますます拍車がかかっちゃったけれど…。シャークが言ってた、

ニットに銃は絶対持たせるな

という言葉。誰かを傷つけることを、小さな子どもには教えない。そんな世界にしたくない。シャークの優しさが見えてくる言葉です。そんな大それた、世界の平和がどうのこうの、ということを描いているわけではないんですけどね。ただ夢を持ち、自分と同じ気持ちで空を見て生きてくれる子がいることが、シャークの喜びでもあった。そのおかげで、ニットは立派に成長しましたし、これだけインパクトを受けて変わってくれた人がいた。先生はお前は卑怯だって言ってたけど、卑怯なくらい、いい奴だって思うね。

エルドゥラへの帰還は…

世の中多少平和になったわけですが、わたしはモーリンともう一度再会してほしかったわけですよ。守護者をどうにかする方法を見つけて。きっとエルドゥラでは、王族だった奴が地に落ちて、国民に自治のある国になったかもしれないし、逆に争いの絶えない国になってしまったかもしれないし…シャークがあの忌々しい王様を殺してしまってから、すっかり音沙汰なし。もしかしてさらに国外に出ようと試みた人がいるとか、そういう話もなく…美しく成長したモーリン、そして親代わりとなってくれたナンナたち夫婦と、素敵すぎる再会をしてほしかったのにな~…いつか帰ってくれるだろうか。いつか、見つけてくれるだろうか…シャークでも見つけるのに10年かかってた。だけど、時代が移ろえば、きっと見つけるのが多少は容易になってるんじゃないかな。モーリンのほうから会いに来てくれてもいいけどね!そしてティルダやルゥルゥと争ってくれてもいい(…あくまで軽くね)。そこがなかったことだけが心残りです。

冒険ファンタジーとして、相当おもしろかった。いい作品に会えたなーって嬉しくなるお話です。

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こんなにおもしろいのに有名じゃないのがびっくり

夢の国からスタートする展開のおもしろさニットは外の世界に憧れる男の子。エルドゥラに生まれ育ち、そこで生きていく方法しか知らない彼は、長い間ずっと悩んでいた。父さんが外の世界を見てくるからと空へ飛び立ち、戻ってこれなくなって数年。なぜ父さんが反逆者だと言われなくてはならなかったのか。外の世界にある真実が何なのか。でもそれを知る由もなくここで自分は生きていくのか…?ニットが抱く気持ちは、とても複雑で、純粋で、少し悲しい思いだった。地上に生き、空に憧れてリンドバーグと共に空を飛ぶ者たちからすれば、エルドゥラは伝説の地。でもそこに生きていたのは、閉鎖的な王と、外を知ることすら許されない哀れな民だった。伝説の地には確かに財宝があり、地上の人間たちからすれば観たことのない世界が広がっていたかもしれない。でも必ずしも夢にまで見た場所が夢に描いたままの場所とは限らないのである。結局、民は家畜を育て、畑...この感想を読む

4.54.5
  • kiokutokiokuto
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