スポ根の女バージョンで女の意地をみる
鼻水・涙を流して走れ
どこからどう見ても、主人公の旭は坂道くん。「弱虫ペダル」の坂道くんよりもどんくさくて、もっと才能がない。本当に本当の努力の塊だ。泣いて、苦しんで、鼻水出しまくって、歯を食いしばってがんばる。自転車競技の人口が増えたのは「弱虫ペダル」のおかげなんだろうなーって思うけど、薙刀に関しては間違いなく「あさひなぐ」の影響だろう。
旭は才能のなさがピカイチ。運動部にすら入ったことがないし、高校で何の部活に入るのかも、何を目標に生きていくのかも真っ白。ただ、薙刀を操る女子の先輩たちが光って見えたことだけは間違いなくて、友達が何を言っても、やっぱり自分はそれをやりたくて。そんな衝撃的な出会いを、人生のうちで何回できるんだろう?って思う。だから、旭がすごく幸運で、それに向き合うだけの努力ができる人間だったことが、嬉しい。そこだけで大人としてはけっこうぐっとくるものがある。
「何かが始まる気がする」。動機はそれで十分で、後は一生懸命取り組めるかどうかだ。なんか大人になるほど夢がわからなくなって、自分の安全圏守って生きていってる気がする。小さなころは、たとえ才能が無かろうが、お金が無かろうが、自分がやりたいと思うことのために時間を費やすことができたはずなのに…成長して、責任を持つようになっただけで
あっという間に自由がなくなってしまう。旭みたいに、泥臭くがんばることを簡単に忘れてしまうんだ。薙刀は個人競技だけれど、団体戦もある。チームのためにがんばることが、自分のためにもなるって、すごく嬉しいというか、自分が悲しいときに悲しんでくれて、自分が嬉しいときはみんな嬉しい気持ちになる。スポーツってそれだけで輝いているし、女が結束したらもっと強いんだって、第1巻からずっとヒシヒシと感じられる。
地味な努力こそ至高
旭の長所は真面目であることと、固定観念がまったくないこと。言われたことに全力で答えようとするから、たとえすぐに芽が出なくても、自分が至らないからだと本気で思える。ちょっとでも経験があったり、スポーツってものを知っているふうな人は知ったかぶりをして、エポケーできなくて、固定観念が邪魔して真面目に取り組めなかったりするからね。ダサくても、がんばってる旭がとてもまぶしい。自分腐ってるなーって思う時ほど、旭を見にきてしまうよね。入部した部活が薙刀部で、そしていい先輩ばかりで本当によかったなと思う。旭のようなタイプが不真面目な部活に入っちゃったらもったいなさすぎる。時間がかかっても、がんばっている人が最後の大事なところで勝つ。そう信じて練習していくしかないんだよね、スポーツって。
そりゃーがんばったって、たどり着けない領域ってやつはあるかもしれない。薙刀を始める人は、小さなころから慣れ親しんでがんばっているし、途中から始めた人が簡単に追いつけるほど、簡単なものでもない。そこにあるのは、差を感じて離れるのでなく、自分を卑下するのでもなく、単純に追いつきたいと思ってがんばれるかどうか、自分を信じていられるかどうかの違いだけだ。
薙刀部新入部員の3人がおもしろい
さくら、旭、将子の3人は薙刀初心者。顔的にも、キャラ的にもかなり特徴的だ。変にかわいくしたりしないから、そのままのさくら、旭、将子を見守ることができる。まったくの運動音痴な旭と違うさくらと将子。彼女たちですら、それぞれに抱えた悩みがある。それはもちろん真春や先輩たちも同じ。成長するには、同じフィールドに信頼できる人・負けたくないと思える人がいるかどうかが大事だと教えてくれる。
バレー部出身のさくらは、薙刀には適した高身長と体の柔らかさを持ち、スポーツ経験者だからこそわかる感覚的な考え方がある。しかし、お嬢様すぎて、がんばることは嫌いで、がんばらないのにプライドだけは高くて、天然で人を見下すところがある。頭がよく、ずるいからこそ強い。ビビる性格がどうにかなれば、相当な使い手だ。
将子は剣道部出身であることから、薙刀に剣道の動きが出てしまってうまく動けない。自分が3人の中で誰より一番に近いと思うからこそ、できないことを認められない弱さがあった。
そんな2人を成長させてくれたのは、間違いなく旭の泥臭い努力。言われたことをただやる。文句言わずにやり切る。誰よりも試合に出たいと願う。単純なことだけれど、知識がつくほどできないことを、旭は当たり前のようにやってみせる。それがさくらと将子を成長させてくれているし、それは現在進行形だ。一見相いれないような関係性でも、薙刀一つで繋がっていられるものもある。スポーツのいいところは、競技を通して本質が見え、素直でいられることだろう。
チームメイトだけじゃない
女の子が主人公なら、常に恋愛模様もちらつく。この作品では、男の子のほうから旭を好きになってくれる感じで、これまた嬉しい。どんくさくてどうしようもない雰囲気の旭を、そのままで見てくれる夏之。それは、薙刀を持っていたことがきっかけだろうけど、彼のおかげでますます物語はおもしろい。
自分は捨ててしまった薙刀。それに必死にくらいついている旭を見て、夏之もまた諦めずにもう一度薙刀と向かい合おうと決める。たとえそれが記録に残らないとしても、それは見てくれている人の心に、そして自分自身に残るから。旭の努力の物語でもあるけれど、途中から夏之の物語か?とも思えてくる。他の連中がすっかり脇役で、真春もほっといて、夏之と旭が支えあっているような…そんな気持ちになった。
要は、死ぬほどがんばったことが生きているうちにあるのか?と聞かれて、あると言えるかどうかが大事なんだよ。旭たち薙刀部は、間違いなくすべてを注いで集中しているし、弱かったとしても、強かったとしても、常に向上し続けるために努力できているかどうかが、社会に出てからの苦難に耐えれるかを決めるよね。この漫画のおかげで薙刀の株は上がっただろうね。
物語の行く末は
なんだかんだ、二ツ丘高校薙刀部の主軸は真春にある。彼女が薙刀にかけてきたもの。その大きさがみんなを支えているし、旭を支えている。ケガだろうと何だろうと、全国大会で勝つということが、真春の目標であり、部員全員の悲願だ。真春と野上さんの世代でいい終わり方をするのか、旭たちの世代にまで続く長い物語になるのか。おそらくこの長さからいって、真春たちでラストを迎えそうだけどね。真春のいない薙刀部は、あまりにも弱い。そして花がないから。
勝つかどうかはまだまだわからない。たとえ負けたとしても、彼女たちにとってはすべてがいい終わり方だと思う。できれば勝ってもらいたいけれど、うまくいかないこともきっとあるはず。夏之には絶対勝ってもらいたいね。身内で闘うのでなく、いい感じの組み合わせになればいいなー。
女は弱いのではなく、女であるからこそ強いと言われたい。「あさひなぐ」を読むと、爽やかな汗をかきたくなる。夏合宿の尼さんに言われたみたいに、女はきっとぶっ壊れるまでいってようやく変わり始める。旭でさえ、何もないことを受け入れるのはつらかっただろう。それを乗り越えて、真っ白になって、初めてあとは吸収するだけになる。尼さんの考え方が卓越してて、さすが出家して世の中見つめているだけあるなと思った。最後の最後まで、彼女たちらしい思い切りのよい試合をしてもらいたい。
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