スターたちが、ロシアとアメリカの芸術と歴史を刻む!
ミハイル・バリシニコフはバレエで語る
私がこの作品を観ようと思ったのは、バリシニコフの踊りを観たかったからです。
彼が映画の中で踊る内容は、古典ではなく、比較的、新しいバレエです。
映画の中でフルに観ることができるのは、現代の振付家(数年前にお亡くなりになったローラン・プティ氏、ジジ・ジャンメールのご主人でもある方)の作品です。
旧ソ連ではダンサーとして演じられる作品が限られ、より広い可能性を求めてアメリカへ亡命するダンサー達がおり、バリシニコフもその一人でした。
アメリカで、古典ではないバレエを踊りこんだ彼が映画で踊るのが、白鳥の湖のような古典作品ではなく、現代バレエの作品であるところに大きな意味があります。
ロシアで踊っていたころの元パートナー(今も名脇役として活躍中のヘレン・ミレンです)に協力を求め、情熱的に踊ってみせるシーンなども迫力があり、亡命して力をつけたのに、不慮の事故でロシアに戻ってきた彼の無念が心を揺さぶります。
もちろん演技にも問題はありませんが、バレエで訴える、それがカリスマ的なバレエダンサーだった彼らしいと思います。
グレゴリー・ハインズのダンスと深い演技力
ハインズは、アメリカからロシアに亡命したタップダンサーを演じます。
実際に、素晴らしいダンサーのようで、バリシニコフがそうであるように、まったく役柄に違和感がありません。
ロシアの田舎の小さな劇場で、ミュージカルを歌い踊る彼は、ちょっとその土地では浮いて見えますが、彼も悩んでいるのです。
バリシニコフ演じるロシア出身のダンサーとの会話と交流を重ねながら、自分の生き方を考え、悩み苦しみ、(イザベラ・ロッセリーニ扮する)奥さんとともに行動を起こしていくさまは、本当に感動的でした。
ハインズの深い演技力があったため、映画のストーリーにぐんぐん引き込まれ、もはやフィクションとは思えなくなりました。
気の利いた展開と演出
展開はすごく面白くて、まるでサスペンス。
果たして、バリシニコフ、ハインズ演じる主人公たちはどうなるのか、目が離せません。
撮影は旧ソ連ではなかったそうですが、風景はソ連と似通ったもので、一度亡命したダンサーとしてKGBの人たちの厳しい監視を受けている様子が、フィクションとは感じられませんでした。
脇役のイザベラ・ロッセリーニとヘレン・ミレンの演技も素晴らしく、映画を盛り上げていたほか、すべての出演者が熱演。どれだけせりふが少なかろうが、登場シーンが少なかろうが。
それが、素晴らしい主役を得たことに加えて、この映画に価値を与えているような気がしてなりません。
当時の時代背景をそのまま写していたからでしょうか。
これほど力の入った映画があるということ自体が驚きです。
最初から最後まで、もう完璧です。
ただ、政治や人の自由の問題がからむからか、大変に重苦しく、気持ちに負担がかかってしまいます。
重いテーマの中に、ほっとするような要素があったらさらにレベルが上がったのでしょうが、すでにかなりの完成度なので、これ以上、求めるのは野暮かもしれませんね。
バレエファン、ミュージカルやタップダンスのファンでももちろん楽しめますが、この映画のテーマは、もっと重く深いです。
社会的な映画や戦争映画に近いかもしれません。
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