どこにでもいる人物の非日常の物語 - 探偵物語の感想

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探偵物語

4.004.00
文章力
4.00
ストーリー
3.50
キャラクター
4.00
設定
3.50
演出
3.50
感想数
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どこにでもいる人物の非日常の物語

4.04.0
文章力
4.0
ストーリー
3.5
キャラクター
4.0
設定
3.5
演出
3.5

目次

どこにでも居そうな登場人物

この作品の主人公は、ごく一般的な中年男だ。くたびれた雰囲気のサラリーマンという設定では世の中の大部分のおじさんを表していると思う。もう一人の主人公の直美は二十歳の大学生で、明るく元気な性格はベタな女の子という感じである。一見どこにでも居そうな登場人物が読者に親近感を持たせ、読みやすい話になっているのではと思う。辻山は43歳にしては、しっかりしてくれよと言いたくなるような抜けた人物で、少し応援したくなるのもこの作品の特徴かなと思う。

読者を飽きさせない展開

この作品に絡んでくるのは、殺人事件、ヤクザ、逃走劇、とキーワードを上げるとこのようなもの。まず、ヤクザなどドラマの中でしか見たことがないし、普段見かけることもない。この他殺人事件も日常生活において縁のないことなので、読者は非日常の世界をこの作品で楽しめるわけだ。

物語の中で、ちょくちょく逃走劇が見られるのも見所の一つだろう。特に引っ越しの荷物に隠れて逃走を図るシーンなど現実ではありえないと思ってしまう。大の大人が洋服ダンスに入れるのか?引っ越し業者がそれを承諾するのか?など、少々突っ込み所はあるが、その現実味の無さがかえって読者を惹き付けるのかもしれない。

また、殺人事件の謎解きも絡んでくるのだが、テレビでよくある刑事ドラマの凝った細工があるものではなく、犯人の殺害方法は至ってシンプルなのだ。それだけ?と思ってしまう人もいるかもしれないが、その単純で分かりやすいトリックが逆に読者も推理しやすくて話に引き込まれていくのではないかと思う。

印象に残った一言

作品の中で直美が「後悔しても始まらないわ、先のことだけ考えましょう。」と言っていたのが個人的に印象に残った。これは辻山が直美を事件に巻き込んでしまった責任を感じて申し訳ない気持ちを述べているときに直美がかけた言葉だ。この一言で直美がいかにポジティブか分かるが、なかなかこう言える人はいないのではないだろうか?人間何か失敗があると、ああすればよかったなど既にどうもしようがないことを考え勝ちだ。時間は戻らないのだから、くよくよ後悔するのではなく、その失敗は次に生かせると割り切ってこの先どうしていくかを考えるのが最優先だと改めて教えさせてくれたと思う。この直美のポジティブさは尊敬するべき点と言えるだろう。しかし、これを二十歳の直美に言われる辻山はやはり頼りない男である。

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