現代風にアレンジされ、泥臭い恋愛要素にまみれたギリシャ神話 - オルフェの感想

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現代風にアレンジされ、泥臭い恋愛要素にまみれたギリシャ神話

3.53.5
映像
3.0
脚本
4.0
キャスト
2.5
音楽
2.5
演出
3.5

目次

現代風にアレンジされたギリシャ神話

「オルフェ」とは、ギリシャ神話のオルフェウス伝説を現代風にアレンジした、1951年制作のフランス映画です。主人公はフランス現代風にアレンジされたギリシャ神話の詩人オルフェ。生と死それぞれの世界の境をまたいで冒険する彼の姿からは、現世からは計り知れない夢の世界に憧れるという詩的テーマを感じます。それゆえ、幻惑的な作品となっています。

主人公オルフェが普段から通う「詩人カフェ」に、「王妃」と呼ばれる女性が現われます。オートバイにはねられたオルフェの友人でもある詩人セジェストの遺体を、王妃は自らの館に運びました。そこでセジェストは死の世界から蘇り、王妃と共に鏡の中に消えました。こうしたテンポで進められる展開は現実離れしており、理屈で理解することは大変に困難です。

監督は、詩人としてもしられるジャン・コクトー。ストーリーと同時に、コクトーの特撮技術を駆使した映画撮影も堪能したいポイントです。水銀を鏡に見立てたり、カメラの逆回しや鏡像を用いたりする素朴なトリック撮影映像は、耽美派コクトーの夢幻の世界を表現して見せています。

立場と意志が混濁する登場人物たちと、それらの落とし所

そもそも「オルフェ」はギリシャ神話のオルフェウス伝説を下敷きに制作されました。オルフェウス伝説とはどういう話でしょうか。

妻エウリュディケーを失ったオルフェウスが、冥界まで妻に会いに行くというストーリーです。冥界の王ハーデスと妻ペルセポネーは、オルフェウスの弾く琴の音色に感動し、オルフェウスの願いを受け入れて、エウリュディケーを地上に連れ戻すこと、つまり生き返ることを許しました。ただし、地上に着くまでは後ろを、つまり妻の方を振り返ってはならないという命令を付けます。オルフェウスはエウリュディケーを先導する形で地上へ向かいましたが、あと少しで地上世界に着くというところで、つい後を振り返ってしまいました。すると死の世界の死者たちが追ってきて、エウリュディケーを冥界に連れ戻してしまった、という神話です。

この粗筋を聞くと、古事記あるいは日本書紀におけるイザナキの黄泉の国訪問によく似ています。イザナキも死んだ妻イザナミのいる黄泉の国に赴きます。イザナミから、自分の姿を覗いてはならないと言われたにもかかわらずイザナキは、イザナミの姿見たさに覗きました。怒ったイザナミは黄泉の国の軍隊をしてイザナキを襲わせ、二人は永遠に決別することとなります。

大筋では、死んだ妻を求めて死の世界(冥界)に出向くという点で、二つの神話はよく似ているといえるでしょう。「オルフェ」の映画監督コクトーが日本の神話を知っていたかは疑問ですが、オルフェウスの冥界訪問にまつわる神話を下敷きにして、現代風にアレンジした訳です。

オリジナルの冥界訪問である旨を強調するために、コクトーはいくつか独特の演出、即ち加筆を行いました。ギリシャ神話では、オルフェウスが妻を求めて冥界に行くストーリーですが、映画では、妻ではなく死の世界からの死者(王妃)を登場させ、主人公オルフェと王妃が互いに愛し合うという話にしました。オルフェが冥界に行こうと決めた、何と妻に再会したいからというよりも、この王妃に会いたいからという流れに代わっており、それがギリシャ神話との決定的な違いです。

オルフェはなぜ、死の世界の王妃を愛したのでしょうか。死の世界の王妃と結ばれるということは、自分の死を意味することであり、現世に住む人間としてありえないことなのに、です。自分も死ぬことで人間は王妃と結ばれることができます。やはり王妃は、当初オルフェを冥界に引き入れておきながらも、オルフェを冥界にとどめておくのが辛くなってくる様子でした。愛する人を殺すことを意味するからです。それぞれの立場や意志が混濁し、その果てにオルフェは妻と共に地上に帰り、改めて人生を再開すると決める、というのが登場人物たちの落とし所でした。

神話には見られない、独自の恋愛描写

映画の前半において、オルフェが王妃の魅力に惹かれてゆく過程が描かれています。王妃の色気に篭絡される様子は映画ならではの演出であり、ギリシャ神話からはなかなかうかがい知れないことでしょう。後半のストーリーは、王妃に取りつかれたオルフェが、地上と冥界との間を行き来する流れです。二つの世界は、何とオルフェの部屋にある鏡によってつながっていました。オルフェは自室にある大きな鏡を通じて冥界に行くのです。

ところが、妻のユリディスも事故によって死んでしまい冥界の住人となってしまいました。もちろん当初のオルフェは、王妃に会いたいがために冥界に行ったのです。しかしその冥界には妻もいるようになってしまい、意図しない三角関係の真っ只中に立たされました。そこでオルフェは、王妃と共に冥界に留まるべきか、それとも妻を地上に連れ戻し生き返るか、選択を迫られる訳です。

主人公オルフェを演じたジャン・マレーは、監督コクトーの期待通り、ダンディでセクシーな雰囲気。妻ユリディスはマリー・デアが演じ、死者の国の王妃はマリア・カザレスが演じている。カザレスは、「天井桟敷の人々」の中では、誠実な妻の役を演じていたが、「オルフェ」においては、冥界から来た王妃の妖しげな役柄をかもし出していました。王妃とオルフェをつなぐ伝令のような役ウルトビーズはフランソワ・ペリエが演じています。

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