突飛なSF設定の切なく苦い恋愛マンガ。憂鬱注意の号泣マンガです。 - 最終兵器彼女の感想

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最終兵器彼女

3.883.88
画力
3.50
ストーリー
4.00
キャラクター
4.38
設定
4.13
演出
3.50
感想数
4
読んだ人
11

突飛なSF設定の切なく苦い恋愛マンガ。憂鬱注意の号泣マンガです。

4.54.5
画力
4.0
ストーリー
4.5
キャラクター
5.0
設定
3.5
演出
4.0

目次

突飛なSF設定だが・・・それを描き切った作者は神か

最終兵器が彼女・・・。どんな話だよと思って読んでみました。文字通り、普通の女子高生である彼女が軍事兵器(しかも最強の最終兵器)として改造され、有事に駆り出される突飛なSF設定。
招集がかかると、人目をはばかりながらも、背中から羽をはやして、道端から飛び立っていきます。

このような突拍子もない、突飛過ぎてギャグかと思うレベルのSF設定ですが、人体の改造や戦っている敵(戦争なのか、エイリアンの侵略なのか、日本が攻めているのか、守っているのかという事など)については詳細が解説、描写されておらず、片鱗が見える程度の描写しかありません。(Wikipediaには、細かい設定の解説がありました。)

にもかかわらず、読み手がその世界観に入って想像し考察していくことで、ある程度明確に作品の世界をイメージすることができてしまうから不思議です。
また、「何が起こっているのかよくわからない状態」というのが、実は、妙なリアリティを感じさせる事に寄与しているのだと思いました。
実際、突然世の中が戦争状態になり、通信や情報が遮断された状態を想像してみると、このような「何が起こっているのかよくわからない状態」になるのだと思います。

このように、突飛なSF設定ではありますが、敢えて説明や解説を行わない事で、逆にリアリティを感じさせられます。これには、作者の構成力の高さや、繊細ながらも力強さを感じました。

有事描写、恋愛描写。そして、北海道だべさ。

北海道の札幌近郊の地方の「自衛隊の町」が舞台となっており、自衛隊の存在感がマンガ的ではなく、日常生活的にそこにあるものとして描かれています。北海道の当たり前の雰囲気、たとえば札幌近隣の市町村の子は、みんな札幌に買い物に出かけるといった姿の描写があったり、気付きにくいが北海道弁が随所に織り込まれていたり、自衛隊の町が身近にあったり、何気ない日常的な風景が、随所に北海道を感じさせてくれます。
最初に描かれる有事も、主人公カップルが札幌に買い物にいったときに、札幌が大空襲を受けるところからで、小生、仕事の都合で15年ほど札幌に住んでおりましたので、ノスタルジーを感じてしまいました。

戦場や戦闘シーンでは死に対する心理描写がはかなく、切なく胸を絞め付けます。
恋愛描写、性描写もリアリティを感じるし、妙な納得感がある。
焦燥感や、軽い嫉妬感、主人公ちせが消えてなくなってしまう不安感のような、何とも言えない軽いストレスを常に背負わされながら、読まされている、そんな辛苦を感じさせてくれる作品です。

全体のストーリー、テーマが戦争、恋愛、生死といった重いものであることと相まって、物語の舞台が、小生の第2の故郷である北海道だということが、いやがおうにも甘酸っぱいノスタルジーと、前述の辛苦の感情をごちゃまぜにして、嗚咽をさそう、なんとも厄介な作品です。

とにかく泣いたし、憂鬱になった

とうてい抱えきれないような問題(日本の防衛)を、高校生の女の子がひとりで抱えてなんとかしようとする。
自分ひとりが嫌な思いをしたら全部丸く収まる、でも、普通の女の子としての幸せも感じたい、という主人公ちせの揺れ動く心理描写、行動、つよがりや嘘。そして、成長、達観、兵器部分に浸食されての人格崩壊、それでも残っている純粋なちせの強い初恋の気持ち。読んでるこっちの気持ちがオーバーフローさせられてしまいました。

主人公カップル(ちせとシュウジ)は、お互い純粋だが、二人とも、有事状態という状況のなせる業もあって、行きがかり上、浮気(と言ってよいのかわからないが・・・)もしてしまう。このあたり、NTR属性の歯ぎしり感も同時に味わえる、なんとも胸が苦しい作品なのです。

葛藤、達観、諦め、さらにNTR属性、喪失感、なんとも鬱々としたドロドロ感と、それでも初志貫徹、彼氏彼女をひたすら愛し続ける一途で強い叶わぬ恋。
これらの要素が、彼女がある日突然、戦争兵器にされてしまうという非現実的で、突拍子もないSF設定とのシナジーで読者の号泣を誘う、何とも厄介な作品なのです。

読み終わったあとも、なんだか憂鬱で、ちせロス状態になってしまい、1週間ほど無気力になるという副作用も認められました。。。

憂鬱だけど、メディア化もされた良作と言える

連載当時は、少し気になってはいたものの、手にとって読む機会に恵まれず、つい最近、一気読みしました。同作者では、本作と「いいひと。」が代表作のようです。「最終兵器彼女」は、アニメ化、実写化のいずれもなされており、「いいひと。」もドラマ化されています。
作者は、ドラマチックな描き方、詩的な描き方が秀逸で、読み手を世界に引き込みます。

メディア化されたから良作とは限りませんが、すくなくとも、「最終兵器彼女」という作品は、突飛なSF設定のインパクト、戦争有事の描き方、恋愛マンガとしての切なさの演出、キャラクターの魅力といった要素について、突出して良い評価を与える事ができます。

ラストシーンは、永井豪先生のデビルマンのラストシーンを思い出してしまいました。さみしいラストで後味はあまり良くありませんでした。

憂鬱になるのがつらいので、頻繁に何度も読み返すことができない、不思議な、思い出深い作品です。

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他のレビュアーの感想・評価

暗く重い純愛ラブストーリー

冒頭の衝撃的なシーンこの物語は、いきなり札幌の町が空襲されるところから始まる。そして現れる体半分が武器になった少女。この少女の戦闘能力は他のものと次元が違い、故に「最終兵器」と呼ばれる。という荒唐無稽とも思われる設定の物語がここまで読ませる力を持っているのは、徹底したリアリティを感じることができるという理由に他ならない。主人公の少女ちせがなぜ選ばれ最終兵器と改造されたのか、どこの国と戦っているのかということは、最後まで明らかにはならない。それよりも、ちせと彼氏であるシュウジの思いや苦悩、とても些細な幸せを大切にしているような二人の恋愛がメインに描かれている。そして、高校生なら誰でも感じる恋や切なさ、相手のことを考えるときや一緒にいるときの幸せ。そういうことがどれほど大切なことなのかと言うことがこれでもかというくらい描かれるので、ついつい感情移入しすぎてしまったりもする。そしてこのような...この感想を読む

3.53.5
  • miyayokomiyayoko
  • 148view
  • 3403文字
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大好き!!

不器用だけど確かな愛高校生の付き合うって、まだよくわかんない頃のギクシャクした感じの、でも確かにそこに愛がある。なりゆき、度胸試しで始まった恋人同士思春期らしいえっちな悩みもあったり、、、お互い好きなはずなの相手を傷つけてしまったり、でも好きなのに上手くいかなくて毎日彼氏と登校したくて地獄坂を毎日必死で歩くちせが可愛い!ごめんね。が口癖でちょっとドジでのろまなちせと、ぶっきらぼうですぐアホっていっちゃうシュウジ。昔ながらの交換日記が物語が進むにつれてどんどん切なく苦しくなっていく。伝えたくても伝えられない思いが交換日記に詰まっていって、開いたときにはもう止まらなくなる、、、兵器になった彼女戦争が始まってしまった北海道が舞台の漫画彼氏のシュウジが見たのは体から武器のついた彼女の姿傷だらけでお仕事(戦争)に行く彼女を見送るシュウジ。心臓に出来た大きな傷を見てシュウジが泣いてキスするシーンは...この感想を読む

4.54.5
  • たあかたあか
  • 136view
  • 1063文字

原作でがっかりしたパターン

アニメは物凄く良かった!アニメが物凄く良かったので、原作もチェックしようと全部読みましたが・・・。男性が読むとまた違うのかもしれませんが、女性視点だと原作はかなり残念でした。男性の妄想・幻想なんだろうな・・・これを言ってしまうと身も蓋も無いのですが結局、男性の胎内回帰願望が反映された作品、と言う事ですよね、多分。あれだけひっ迫した状況の設定で、「みんなどうなっちゃうんだろう~?」とハラハラさせられた末の落としどころがそれかい(^^;)と言うのが正直な感想ですね~。私も幻想を抱いていたアニメ版を見ていない人のために説明すると、アニメでは主人公2人がもっとピュアで、ギャグもありません。制作も凄く力が入ってて、宣伝の為の特番が組まれるほどだったんですね。そう言う感じだったので、私の方も原作に幻想を抱いていたわけです。あの世界が紙の上に繰り広げられているのね、とw チセの性格設定もマンガでは少し違...この感想を読む

3.03.0
  • ひよこ7号!ひよこ7号!
  • 473view
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