突飛なSF設定の切なく苦い恋愛マンガ。憂鬱注意の号泣マンガです。
突飛なSF設定だが・・・それを描き切った作者は神か
最終兵器が彼女・・・。どんな話だよと思って読んでみました。文字通り、普通の女子高生である彼女が軍事兵器(しかも最強の最終兵器)として改造され、有事に駆り出される突飛なSF設定。
招集がかかると、人目をはばかりながらも、背中から羽をはやして、道端から飛び立っていきます。
このような突拍子もない、突飛過ぎてギャグかと思うレベルのSF設定ですが、人体の改造や戦っている敵(戦争なのか、エイリアンの侵略なのか、日本が攻めているのか、守っているのかという事など)については詳細が解説、描写されておらず、片鱗が見える程度の描写しかありません。(Wikipediaには、細かい設定の解説がありました。)
にもかかわらず、読み手がその世界観に入って想像し考察していくことで、ある程度明確に作品の世界をイメージすることができてしまうから不思議です。
また、「何が起こっているのかよくわからない状態」というのが、実は、妙なリアリティを感じさせる事に寄与しているのだと思いました。
実際、突然世の中が戦争状態になり、通信や情報が遮断された状態を想像してみると、このような「何が起こっているのかよくわからない状態」になるのだと思います。
このように、突飛なSF設定ではありますが、敢えて説明や解説を行わない事で、逆にリアリティを感じさせられます。これには、作者の構成力の高さや、繊細ながらも力強さを感じました。
有事描写、恋愛描写。そして、北海道だべさ。
北海道の札幌近郊の地方の「自衛隊の町」が舞台となっており、自衛隊の存在感がマンガ的ではなく、日常生活的にそこにあるものとして描かれています。北海道の当たり前の雰囲気、たとえば札幌近隣の市町村の子は、みんな札幌に買い物に出かけるといった姿の描写があったり、気付きにくいが北海道弁が随所に織り込まれていたり、自衛隊の町が身近にあったり、何気ない日常的な風景が、随所に北海道を感じさせてくれます。
最初に描かれる有事も、主人公カップルが札幌に買い物にいったときに、札幌が大空襲を受けるところからで、小生、仕事の都合で15年ほど札幌に住んでおりましたので、ノスタルジーを感じてしまいました。
戦場や戦闘シーンでは死に対する心理描写がはかなく、切なく胸を絞め付けます。
恋愛描写、性描写もリアリティを感じるし、妙な納得感がある。
焦燥感や、軽い嫉妬感、主人公ちせが消えてなくなってしまう不安感のような、何とも言えない軽いストレスを常に背負わされながら、読まされている、そんな辛苦を感じさせてくれる作品です。
全体のストーリー、テーマが戦争、恋愛、生死といった重いものであることと相まって、物語の舞台が、小生の第2の故郷である北海道だということが、いやがおうにも甘酸っぱいノスタルジーと、前述の辛苦の感情をごちゃまぜにして、嗚咽をさそう、なんとも厄介な作品です。
とにかく泣いたし、憂鬱になった
とうてい抱えきれないような問題(日本の防衛)を、高校生の女の子がひとりで抱えてなんとかしようとする。
自分ひとりが嫌な思いをしたら全部丸く収まる、でも、普通の女の子としての幸せも感じたい、という主人公ちせの揺れ動く心理描写、行動、つよがりや嘘。そして、成長、達観、兵器部分に浸食されての人格崩壊、それでも残っている純粋なちせの強い初恋の気持ち。読んでるこっちの気持ちがオーバーフローさせられてしまいました。
主人公カップル(ちせとシュウジ)は、お互い純粋だが、二人とも、有事状態という状況のなせる業もあって、行きがかり上、浮気(と言ってよいのかわからないが・・・)もしてしまう。このあたり、NTR属性の歯ぎしり感も同時に味わえる、なんとも胸が苦しい作品なのです。
葛藤、達観、諦め、さらにNTR属性、喪失感、なんとも鬱々としたドロドロ感と、それでも初志貫徹、彼氏彼女をひたすら愛し続ける一途で強い叶わぬ恋。
これらの要素が、彼女がある日突然、戦争兵器にされてしまうという非現実的で、突拍子もないSF設定とのシナジーで読者の号泣を誘う、何とも厄介な作品なのです。
読み終わったあとも、なんだか憂鬱で、ちせロス状態になってしまい、1週間ほど無気力になるという副作用も認められました。。。
憂鬱だけど、メディア化もされた良作と言える
連載当時は、少し気になってはいたものの、手にとって読む機会に恵まれず、つい最近、一気読みしました。同作者では、本作と「いいひと。」が代表作のようです。「最終兵器彼女」は、アニメ化、実写化のいずれもなされており、「いいひと。」もドラマ化されています。
作者は、ドラマチックな描き方、詩的な描き方が秀逸で、読み手を世界に引き込みます。
メディア化されたから良作とは限りませんが、すくなくとも、「最終兵器彼女」という作品は、突飛なSF設定のインパクト、戦争有事の描き方、恋愛マンガとしての切なさの演出、キャラクターの魅力といった要素について、突出して良い評価を与える事ができます。
ラストシーンは、永井豪先生のデビルマンのラストシーンを思い出してしまいました。さみしいラストで後味はあまり良くありませんでした。
憂鬱になるのがつらいので、頻繁に何度も読み返すことができない、不思議な、思い出深い作品です。
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