ドラマ自体が創作落語
落語ブームの火付け役
このドラマは、宮藤官九郎作品でありながら比較的取り沙汰されることが少なかった作品ではないかと思う。放送されていた当時は、宮藤官九郎の新作ドラマとして話題にはなったが、放送が開始してからの視聴率は伸び悩んでいた印象がある。その理由のほとんどが、テーマが「落語」だったことに起因すると思う。おそらくこの作品を作った目的としては落語を広く世間に広めて、もっと一般的に楽しんでもらえるように、という意図があったのだと思うが、それは少しハードルの高い目的だったのかもしれない。私自身も落語に関してほとんど知識を持たずに見た当時よりも、落語についていろいろと興味を持ち出してから見た今作の方が面白いと感じた。特に古典落語なんかは、中身がほとんど決まっていて、サゲにしてもいつも同じものが話されるのに、観客はそれを愉しむことが出来る。この人はあの話をどのように話すのかな、ということや、今日はどのあたりで笑いが起きるのだろうかというそれぞれの「違い」を愉しむことが出来るからだ。そういったある種の伝統が面白いのであって、それをいかにカジュアルにするかということに関しては、新しく落語に触れあうきっかけにはあまりなっていなかったのかもしれない。
とはいえ、このドラマは宮藤官九郎が脚本をかいたということ以外にも、キャストがとても豪華だったことや、当時ジャニーズの若手が一人とその他を若手俳優が脇役を固めるという手法が一般的だったにもかかわらず、長瀬智也と岡田准一をダブルで主演にするという、ある種の「ひき」は強かったように思える。
私としては落語を知った後に見た方が面白かったという見解だが、それでもこの作品に関してはよくできていると思う点がたくさんあったので、それを考察してみようと思う。
古典落語と創作落語
宮藤官九郎は一つのドラマ、特にコメディを作るときには毎話毎話で同じ構成にすることが多い。木更津キャッツアイのように前半の物語を野球の表とし、その最中に起きていたことを裏として後半に構成する。今作でもそのような決まったフォーマットで作られた。前半は実際によく話される古典落語を師匠連中から聞かされた小虎(長瀬智也)が、後の自分の高座でそれを実体験に基づいた創作落語として話すという内容だ。先にも書いたが、この点に関しては少し新しい落語ファンを取り込む大変さが露呈していたと思う。いわば本来の古典落語の内容はこのドラマにとって理解しなければならないフリであって、その間ははじめての人にとってはそれほど楽しめるものではない。さらに万が一このフリの部分を理解しきれなければ、この話全体が理解しにくくなってしまう。しかしその点さえクリアできれば、この話はとても楽しめるものになる。
本来創作落語や現代落語というのは自由度が高く、話し手次第でどんな高座にもすることが出来る。まずそれがよくわかる内容だった。今作のパターンではいわば古典落語の内容をそのままに、キーワードや登場人物などを変えた創作落語を披露していたが、そういったこともできるんだということが分かれば、落語をより自由に楽しむヒントになると思う。これに気づきさえすれば、もっと違う古典の話が聞きたい、とか、この同じ話を他の人から聞きたいという欲求が出てきてより落語にはまることが出来るはずだ。
実際の落語の面白さ
落語に関して多少の知識がある場合、このドラマはより楽しめた。何より、色々な俳優たちの落語が聞けるからだ。落語というのは何年もの修行が必要ないわば匠の技であり、誰もが簡単に出来るものではない。しかし俳優というのはそもそもそういう職業であり、自分の本職ではないことも画面を通じて本物に見せてしまうということを生業としているのだ。今作では実際の落語家である笑福亭鶴瓶の話が聞けることに加え、西田敏行などの話も聞けるのだが、素人目にみてもそれは十分に楽しめるものだった。プロが話すそれに十分見えたし、その人の話し方や声や演じ方で古典落語が楽しめた。それだけでもこのドラマは楽しめるものだったと思う。
また毎話毎話で古典落語とそれに対応する創作落語を作ることもすごいと思うが、それらすべてが連続ドラマとして全体的につながっているということが面白い。この辺りはさすが宮藤官九郎と思わざるを得ない。とくに前半では「饅頭怖い」や「茶の湯」などの短くてわかりやすい話を用いていき、後半になりドラマの内容が佳境になっていくと落語のテーマも「品川心中」や「子は鎹」などの少し感動があったり内容のあるものになっていく。実際のストーリーでもそのテーマに沿っているのだから本当にこの脚本の作り方には感心する。
テーマがテーマだけにいつもの宮藤官九郎作品ほど自由には作られていない印象だった。しかし落語の内容を知っていればいるほど、その構成の凄さや面白さに魅了される作品だと思う。
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