ホテル再興にギャグと感動を詰め込んで
けっこうおもしろかったと思う
なんで打ち切りなんでしょうか。けっこうおもしろかったと思うんですよね、この漫画。画が綺麗で、細かいところまでよく描かれているし、それでいて主人公の田中さんは手抜き感満載なこけし顔。ホテルを建て直すための術をすべて知る、伝説のホテルマンという肩書とのギャップがとてもよかった。現世でも、死んでからも、その才能を買われて世界各地のホテルを建て直し続けている。どんな状況でもまったく乱れないその鋼の心、ホテルマンとしてのすべてが叩き込まれたその頭脳と体を生かして、全身全霊でホテル再興への道を歩んでいく。その姿はかっこよかったと思います。
起こるイベントもなかなか練られていました。まず、ホテルヘルヘイムはホテル自体が動くことができるっていうね。土地ごと動くなんて、なかなかない設定でしょう。また、地獄と天国の間にある、冥界という場所や、人間でも妖怪でもなんでもありで、設定に事欠かない感じも豪華でした。しばりが本当にない物語だったので、人間死んだらみんなこんなことになるのか、死んだ奴らがいつまでもこうやって冥界に居続けるのかとか、正直なところ、細かいところはもっと決めておいてほしかったですね。妖怪っぽいやつらはみんな冥界生まれみたいな雰囲気だったので、この世界の全容がぼやけていたように思います。田中さんがこの世界にやってきてからの時間の変遷もよくわかりません。先々代とか、それよりもっと前の偉い人たちとの交流があったようですが…ヘルヘイム自体の仕掛けの謎ももっと掘り下げられただろうし、ヘルヘイムにまつわるエピソードはもっとあってもよかったでしょう。
すべてがおもてなしに繋がる田中さんの教育
田中さんのホテル再興は、結局は細かなところに繋がっているのですが、要所のでかいところを叩きのめします。いろいろエピソードはありましたけど、コック長との話がなんだかんだ言って、一番よかったように思いますね。コック長には、確かな情熱とすごい料理の才能があった。だけど、なぜあんなふうにひん曲がってあんなコック長になってしまったのか…ここのところは説明されなかったので、謎のままです。こういう細かい背景情報が足りないっていうのは、少しイラっとします…。料理に熱中するうちに、過去に自分の料理を人に食べさせることが好きだった自分を思い出していき、ホテルに所属するコック長としての意味を見出していく。自然に田中さんに導かれて、大事にするべき気持ちを思い出していく。すべては「心遣い」であり、ホテルで働く者が皆備えているべき基本を自然と言葉少なに伝えてくれているんですね。田中さん、なんてすごい人…!せっかく楽しかったので、そうやって最後までそれぞれの長を導いてから、相棒の話とか過去の話とかしてくれても遅くなかったんじゃないかなーとは思いました。まだまだ田中さんの能力はすべて発揮していない気がしています。せっかくおもてなしについて説いているのに、実際にホテルに戻ってきてくれたお客さんの話は一切なかったし、まともなお客様に対する田中さんのフルコースも満足に見ることができませんでしたし…こればっかりは残念です。
田中さんの人知を超えた能力であらゆる困難を解決することだけではなく、メイ新支配人がホテルのために賭け事に屈することなく立ち向かったシーンも熱いものがありました。S級のジャッジメントさんをもてなす話、みたかったなー…。
まずはお辞儀の角度から、常にお客様を癒すものであるための立ち居振る舞い。接客を受けたという要人方にもお会いしたかったです。
究極を極めても廃れるが悪い事でもない
ホテルヘルヘイムは、以前は格式ある素敵なホテルだったとメイが言っていました。それが統率がなくなり、誇りがなくなり、時代と共に廃れていく…。こういう話を見ていると、最高のものを創っているのが人なら、その人がいなくなったら終わってしまうことがほとんどなんだよなーって切なくなります。
よく、意志を受け継いで、古きものを守りながらも、時代に呼応した新しいものを創り出そうとする、みたいな後継者の話が話題になりますよね。そういう立場の人で成功する人に共通することっていうのは、原動力が人のためであるということ。そして、苦難を経験し、這い上がってやろうと思うだけの心の強さを持っていることですよね。それができなきゃ、後は消えていくだけ。のらりくらりで生きていくことも、できないわけじゃない世の中。なりふり構わずがんばれるだけの何かを持ち、自分の生きざまってやつをちゃんと見つめ直そうって思えるような大人になりたいものです。何歳になってもね。そうでなきゃ、何のために生まれたとか、どうでもいいことに悩んで、時間を無駄にして、冥界送りになって、冥界でもただの通行人Aみたいな存在で終わっちゃいそうじゃないですか。
逆に、究極が終わってしまったとしても、0から何度でもやり直すことができるのも人間のいいところですよね。昔の流行りが後になってまた流行ることもあるし、何度でも繰り返しながら、ちょっとずつ進化していく。脳がある限り、可能性が無限大に広がっている気がします。
田中さんの謎も支配人の謎もまだまだ浅い
結局田中さんは、生きてた…?おいおい、ファンタジーを加えすぎて、ちょっとおもしろくなくなってきたよ?田中さんのおもてなしが、もうワンランク上に上がるところまで見てみたかった。なのに、閻魔様に呼ばれてあーだこーだと…終わりが近づき、何とかまとめ上げようという結果なのかもしれませんが、だったらそのまま冥界でのホテル再興に尽力するところでよかったのに。余計な設定いれてくれたなーって思いましたよ。元相棒も登場するなど、いきなり話がぶっ飛んでしまったのが残念です。
また、田中さんが今の状態に至るまでの過程は、こんなもんじゃなくもっと丁寧に描かれて欲しかったですね。ホテルマンになるまでの経緯や、現世での活躍ぶり、冥界での活躍ぶり、ブランクがあったけれどまたヘルヘイム再興のために動き出した経緯など、まだまだ語れることはたくさんあったはずでした。
ホテルヘルヘイムの支配人が全然登場してくれないのももったいなかったですしね。彼のせいでこのホテルは廃れてしまったと言っても過言ではないかもしれないのに、まったくいっさい触れられることがなく、メイがヘタレ全開でがんばる姿が描かれる。もうひとひねり欲しかったです。
従業員のすごさも際立ってほしかった
ホテルヘルヘイムの宿泊客もそうですけど、働く従業員たちにももっとスポットライトを当ててほしかったですね。全体でいったい何人くらいいるのかもわからないし、役割分担もあいまいで、そうこうしているうちに中央へのお引越しが決まって、相棒が出てきて、えー田中さんそういう人?ってなって…めまぐるしかった…雑魚な従業員ばっかりだったけど、コック長みたいに骨のあるタイプをもっと描いてほしかったです。また、ヘルヘイムを訪れるお客様のインパクトがね…酒呑童子がでかすぎたので、そのあと続かなかった気がしています。酒呑童子、もう一回ホテルに来てほしい…あの美しさは最強でした。リピーターのお客様に対する田中さんの癒しの接客が見てみたかったです。
打ち切りを惜しむ人もちらほらといたので、まだまだこれから面白くなれただろうとは思います。ふざけ具合もウザすぎず、ちょうどよかったと思いますし。どこかで番外編としてちょこちょこ登場してくれたら嬉しいなー…と思っています。田中さんだけでも。
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