最強のホテルマンは死してなお最強のおもてなしをする
常に最強であり続ける田中さんに惚れ惚れ
個人的に、わりとおもしろい作品だったと思っている。田中さんのあの顔以外は、細かなところまで描かれた綺麗な画だったし、廃れたホテルを立て直すという、ちょっと異質な方向からのアプローチがよかった。完全にこけし顔の田中さんが、廃れたホテルを必ず再興させてくれる伝説のホテルマンであり、生きている間も、死んでからも、ずっとその才能を買われて世界中を飛び回っているという…スパルタな話だ。生きている間も死んでからも、ホテルの事だけ考えなきゃならないなんて。田中さんにとっては天職だろうから、幸せなことだね。
どんな状況でも絶対に表情の崩れない田中さん。あらゆる逆境もすべて覆してくれるから、その活躍には毎話惚れ惚れしちゃうね。ポーカーフェイスの田中さんがいつ崩れるのだろうかと思いつつ、いつも最強でい続けてほしいとも思っていたし、ラストまでブレがなくてよかった。
ホテルヘルヘイムは、かつて栄華を極めた冥界のホテル。天国と地獄の間で、人間であろうと妖怪であろうと立ち寄ることのできるホテルであり、ホテルの建っている土地ごと移動式のホテルであった。死んだ後にも世界があるのだとしたら…という想像は誰もがすることで、太古の昔からの憧れ。永遠に終わることのない世界で、ホテルがあって、いつでも最高のおもてなしが受けられるって言ったら、死んじゃったほうがいいなって思うんだけどどうだろう…笑。せっかくこのホテルが舞台なんだから、もったいぶって支配人を出さないとか、ホテルヘルヘイムを今まで継いできた人の事とか、従業員たちの誇りとか…もっと描いてくれてもいいのにね。先々代よりももっと前の偉い人たちと交流があったという田中さんの謎ももっと聞きたかったよ。
田中さんのおもてなしはそんなもんじゃない
勝手にそう言っているだけだけれど、田中さんのおもてなしのレベルはまだまだ上があったと思うんだ。だけど、ホテルで働く従業員を尊重しているのか何なのかわからないが、ずいぶんと控えめだから…そんな影に生きる田中さんも好きだけれど、まだまだ上があるでしょ?ってもやもや。
ヘルヘイムでは、コック長のときが一番まとまっていた。料理に対する情熱はピカイチ、腕もピカイチ、だからこそ独りよがりのプライド…料理をとにかくしまくって思い出していく、料理は誰かのために作っていたという記憶…田中さんとのあたたかなバトルだった。なぜコック長がそんなふうにおかしくなってしまったのか。それはホテルが廃れ始めて立て直せなくなったことが先か、客層が変わったことについていけなくなったことが先かはわからない。というか、そのあたりエピソードが詳しくないので、知りたかったな…。埋もれた才能。カッコいいよね…それを取り戻せたらの話だけど。
みんな田中さんに導かれていくものの、持っているものはちゃんと一流で、少し汚れがついていただけなんだよね。おもてなしの神髄は心遣いなのであり、ホテルで働いていれば、それは自然と養われ、経験を増すごとに磨かれていく。そりゃーいろんなお客さんがいるよ。そのすべてに満足していただくと決めて、やり切る。そういう心意気って、ホテルマンももちろんそうだけど、すべてにおいて大事だなーって思うんだよね。
できれば、そんなに最強のおもてなしだと言うのなら、リピーターがまた来てくれる話をもう少し多くしてくれてもいいのになーと思う。頻繁に「田中さんのフルコースは最高だ」と言っているのにも関わらず、一度だって見せてもらえなかった…見れちゃったらその次がもたなくなっちゃいそうだし、それはお金を払ったお客様だけの特別コースだからタダではみせれませんってことなのかもしれないね。田中さんの人の力を明らかに超越した能力は、簡単に披露できるほど安くはないのである。
廃れても何度でもやり直せる
格式ある素敵なホテルヘルヘイム。それも支配人がおかしくなり、従業員がおかしくなり、お客様は来なくなる。そんな場所でも、メイのようにくすぶっている才能があるのだとしたら…コック長のようにくすぶっている能力があるのだとしたら…ホテルはやり直せる。そのきっかけを与えてくれるのが田中さんなのだ。
最強と言われたものも、それを生み出した人がいなくなってしまえば無くなってしまうかもしれない。引き継がれて、続いていくことのほうがずっと難しい。昔を知っているからこそ、もっと良くしていこう・自分のカラーを加えていこう。積極的に変わっていくことが、同じお店が長続きするコツなんだろうね。田中さんはきっかけを与える存在にすぎない。田中さんがやりたいのは、自分が常に最前線を走って最高のホテルを作ることじゃない。彼の体は一つしかないのだから、各地にあるホテルがすべて、疲れたお客様の心と体を癒す存在であるように、田中さんのマインドを伝えていくことなんだよね。…田中さんがセミナーやったらすごいことになりそう…。
究極のものなんてないだろうけど、常にその時代の、その時生きている人に、応えられるほどの知識と能力を兼ね備えようと決めること。毎日を努力し続けること。それができるかどうか。そういうふうに考えて行動できる人間が経営者に存在するかどうか。それが重要だ。なんかもうね、どうでもいい事に悩むのはやめたいよね。
多くの謎は回収されず
どうやら田中さんは生きていたらしい…っていう話になってからますますよくわからなくなった。ご存命だった田中さんの能力が欲しすぎて、冥界の閻魔様ががんばっちゃったっていうファンタジー…あぁ、そうですか。そういうところの設定は加えなくていいから、普通に田中さんの過去編・未熟だったころ編とかやってくれればいいのにね。そんな生まれた時から最強だった斉木楠雄じゃないんだからさ。元相棒が登場するなら、話はもっと長くしないといけないだろう?活躍ぶりを表現するにはまだまだ紙面が足りなかったはず。
そして支配人。出てきてくれたっていいじゃない。全部手紙で済ませる必要性がどこにあったというのだろう。少なくともホテルが廃れたおおもとの理由は彼に在るのに、彼はいつまでも逃げっぱなし。メイが支配人になったことはいいとして、そんなクソ野郎をお仕置きすることなく終わるなんて悲しすぎた。ヘタレでドジのメイががんばる話よりも、田中さんによる成敗!と改心・再興が見たいんだよね。
従業員が少ないんですけど
ギャップ再興だったのは酒呑童子だよね。もう一回ホテルに来てくれたら、きっと美しすぎる女性を侍らせて登場してくれると思うんだけど、どうだろう。リピーターのお客様、来てほしかった…。そして、メイとコック長だけじゃなくて、腐りまくった従業員たちが一生懸命働く姿はもう少し多めに見せてほしかった。短い巻数の中で語りつくせるものでもないだろうけど、従業員代表が全然いない…だって、実際におもてなしするのは従業員だろう?支配人とコック長がすごくなっても、仲居さんがザコだったら絶対行きたくないじゃん。お客様に対する接客が磨かれた後を見たかった。
田中さんを出し惜しみしすぎたせいなのか、だんだんネタ切れを起こしたせいなのか、打ち切られてしまったホテルヘルヘイム。広げれば楽しめただろうに、実にもったいなかった。ギャグ感も、いい話系もよかったのにね。田中さんがこけし顔すぎたのかな…
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