見返りを求めた女と見返りを求めなかった女 - 嫌な女の感想

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嫌な女

2.752.75
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見返りを求めた女と見返りを求めなかった女

4.04.0
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目次

対極にある二人を固くつなぐもの

この物語の主人公の徹子と、裏主人公である夏子は対照的でありながら、おおきな、ある共通点がある。子供のころに、親に見捨てられた経験と、そのことで受けた傷を持っていることだ。徹子の場合は、子供のいない親戚の夫婦の、養子にされそうになって、未遂に終わったとはいえ、兄と姉と三人の子供のうち、自分が選ばれたことは、本人が自覚するより、かなりショックだったのではないかと思う。夏子も、父親が家をはなれたのは、一応出稼ぎにでたまま、もどらなかった、ということになっているものを、男をたぶらかすのを生き甲斐にしていたあたり、男を父親に見立てて復讐しているとも考えられるから、父親が他の女の人に走った可能性が高い。

見返りを求めない寂しくも潔い人生

親は子供を育てるのが当たり前のようで、そうではない。親にすれば、労力や時間をかけた分、報酬をもらえるわけでなく、むしろお金を負担してまで、子供を育てる。見返りか望めないどころか、自身を犠牲にまでして、しなければならないことを、普通、人はしたがらない。やりたくないと思っても、おかしくはない。だから、親が子供を育てるのには、経済の負担がかかる見通しや覚悟、報われなくても我慢する努力が必要になる。こう考えると、子供は自然に育てられるわけではなく、お金など現実問題への対応と、自分を犠牲にすることの忍耐ができないと難しく、案外、それをできる人は少ないのではないかと思う。
徹子が、養子にだされそうになったとき、「あきらめ」の思いになったのは、そんな子育てをできる条件、経済面を親は満たせないのだから、子育てができなくなってもしかたないと、冷静に見たからだろう。そして、兄でも、姉でもなく、自分を選んだことにも、おそらく納得した。兄は長男だし、姉は容姿に恵まれている。見返りを期待できない子供に、それでも、親はすこしでも、求める。長男なら、年老いたとき面倒を見てくれるだろうと、可愛い姉は自慢の種になると。比べて徹子は、二人ほど、見返りを与えてくれそうにないと親は判断した。そのことも、十分に徹子は納得しながらも、でも、傷つかないわけはなかった。だから、ほかの人に、自分のような思いをさせたくなくて、自分は親のように見返りを求めることはしまいと、心に決めたのかもしれない。みゆきが、徹子に「冷たいのではなく、人に期待しない」と言ったのは、そういうことだと思われる。
ただ、人に期待しないで、見返りを求めないと、たしかに、虚しくはなるだろう。努力は必ず実を結ぶと信じ、時間や手間をかけただけ報われると思うからこそ、人は情熱を抱き、奮起をする。苦労しても、ご褒美がもらえないどころか、人に恨まれたり周りに非難されたりするものだと、所詮、現実はそんなものだと思えば、そりゃあ、やる気は起こらないし、やり甲斐を感じられない。とはいえ、結構、現実はそんなものだ。人に与えても、見返りはなく、顔にどろを塗るように、ないがしろにされることも、少なくはない。たとえば、家をでていった、夏子の父親のようにだ。

見返りを求めつづけた寂しくも曲げない人生

夏子は、徹子とやはりに正反対に、見返りを求めつづけた。騙されたと、男どもは、けちや文句をつけてきたが、たぶん、夏子に言わせれば「人にいい思いをさせてもらっておいて、ただで済まそうなんて、虫がよすぎる」と、鼻で笑いたいところだろう。社会的には通じない理屈だが、夏子にとっては、筋が通っている。そもそも、与えられただけ、返そうと思わないほうが、おかしいのだと。そういう人は見返りを求めがちで、もらえないと怒るくせに、自分が見返りを与えることには消極的だ。一方的に与えられて、いい思いをしたがる。とはいえ、そんな人は多くない。普通は、与えられっぱなしでは、申し訳ないし、気が引けるものだからだ。ということは、夏子がカモにするのは、与えられることに慣れすぎて、自分が恵まれている自覚がなく、有難いと思いもしない、中々のいやな人間だといえる。そして、傍には与える人間、見返りを求めずに尽くす人間がいるわけだ。
もし、夏子の母親が、尽くすタイプだったなら、父親からの見返りを回収できないまま、逃げられて、馬鹿をみたということになる。母親のように、なりたくないというのもあるが、持ち逃げした父親の代わりに、男どもには、きちんと取立てをして、甘い考えが通用いないことを、夏子は思い知らせようとしたのではないかと思われる。
見返りを求めない徹子の信条に反することを、夏子はしているものの、見返りを与えるべきなのに関わらず、だし渋るような依頼人に仕事で接することがあり、夏子のように怒りを覚えたのだと思う。ただ、仕事だから、嫌々でも、見返りをあきらめるよう相手に説得しなければならず、そのことを「そんなのはおかしい」「間違っている」と代わりに、夏子が声高に訴えてくれているように思えた。だから、嫌いにはなれなかったし、男をたぶらかすのを、どこか応援していた。
夏子は徹子のことを「私の守護神」だと言っていた。周りからすると、徹子はさばさばしていて、そんなに慈悲深いようには見えないが、見返りを得られたら、すぐに人との関係を絶つ夏子が、間隔をあけつつ、長年頼りつづけてきたくらいだから、言葉通りにひどく信頼していた。一方で、徹子も、世間や社会が「詐欺師」と見なす夏子を、ヒーローのように見ていたのかもしれない。二人とも、幼いころに、埋めようのようない、傷を負った。でも、だからこそ、世間や社会的な物差しでは、はかれない、本来の互いの姿を、見つめつづけていられたのではないかと、思うのだった。

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他のレビュアーの感想・評価

こういう女いるよね

女子ウケ最悪なブリブリ女子と、まじめ一徹弁護士女子の奇妙な関係を書いた作品。題名のとおり「嫌な女」なんだけど、見方によっては色々な人を幸せにしているのかも、と思わせる感じ。でも文章構成があまり読みやすくないというか、面白くないと言うかそこまで感情移入できなかった。言いたい事、伝えたいことはわかるんだけど、なんだか全体的に微妙でした。夏子のキャラクターはほとんどの女子に嫌われる典型的なタイプで、わかる。わかる。と共感できる部分も多いのですが、いい子ちゃんキャラの主人公がなんだかんだほっとけない感じとかが、逆に狙った感じでわざとらしいかも。設定はいいんだけど、長いし少しだれる。いい所は、50年という長いスパンでストーリー展開してるので、若い頃の夏子から年を重ねた夏子の手口が、少し人間らしくなっていき、年齢に合わせた男性へのアプローチ(詐欺?)の仕方が面白い。100万円あたったら何をする?の...この感想を読む

1.51.5
  • maamaa
  • 45view
  • 524文字

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