女の本音は怖くない
主人公たちと四人の男
キャリー・ブラットショーの恋人であるビッグ(ジョン・ジェームズ・プレストン)。
サマンサ・ジョーンズの恋人であるスミス・ジェロット。
シャーロット・ヨークの夫であるハリー・ゴールドブラット。
ミランダ・ホップズの夫であるスティーブ・ブレディ。
この四人の男たちは主人公たちの心の支えでありながら悩みの種でもある。
ドラマから4年の月日が経ったあとに上映されたこの映画。ドラマを見続けていたファンにとっては待望の映画化であり、ドラマを見たことのない人でも楽しめる映画に本作はなっている。言わば女の本音を描いたこの作品は女性にとっては痒いところに手が届く映画であり、男性にとっては女の本音が垣間見える貴重な映画と言えるかもしれない。
最近の日本は少子高齢化に伴い結婚する人の率もぐっと下がり、一生独身という人も少なくはない。もちろんそれは悪いことではないし、それぞれの人が持つ選ぶ権利の中に当てはまる。
だから、この映画の中で「独身の女王」と呼ばれていたキャリーが結婚を選んだのには少し驚いた。ビッグとはそもそも腐れ縁のような関係でキャリーはずっとビッグに振り回され続け、ビッグ以外の恋人と付き合っているときもビッグの言いなりのように彼の思うがままに結局暮らしていた。そんな二人が恋人同士になったのはドラマのシーズン6の最終話だった。私はそれまでビッグがあまり好きではなく、どちらかと言えば嫌な男だなと思っていた節もある。確かに魅力的だが、ビッグにいつまでも振り回され続けるキャリーに疑問を抱いていた時期もあった。
だが、今回この映画で私はビッグの心に触れたような気がした。
ビッグの本心
結婚式の前日、浮気をされて怒ったミランダはビッグに「結婚なんて最悪」と口走ってしまう。それが原因でビッグが翌日のキャリーとの結婚式をすっぽかした理由にはならないが、私はビッグの気持ちが分からなくもない。
紆余曲折あったが、ビッグにとってキャリーは最愛の人。やっと見つけた運命の人なのだ。ビッグもキャリーももう子供ではない。酸いも甘いも経験した大人なのだ。だからこそ、ビッグは迷ったのではないだろうか。
「自分と結婚したら、キャリーが今までのキャリーではなくなるかもしれない」
「キャリーが最愛の人ではなくなり、今までの女のようになるかもしれない」
それは確かに女性からしたら考え過ぎでしかない。だが、男性からしてみれば、考えすぎなどという簡単な問題ではない。現にキャリーはビッグとの将来というよりも「自分はこうしたい」という自分本位な考えばかりを雑誌の取材で語っている。キャリーは元々そういう類いの女ではない。だからこそビッグはキャリーが今まで見て来た女と同じように自分の中で特別さを失うのが怖かったのではないだろうか。ビッグは結婚ごときではびくともしない芯を持った彼女が好きなのではないだろうか。
キャリーとビッグ
確かに結婚は女性にとっての一大イベントであり、キャリーが命がけになる理由ももちろん分かる。だけど今回、この映画を観てビッグの恐怖心も私は感じた。愛しい女が結婚に奔走し、夫になる自分さえ見えなくなり、今まで自分が見て来た彼女が彼女ではなくなる。その恐怖は計り知れないものだろう。特に今まで結婚に失敗しているビッグにしてみれば尚更だ。しかもビッグにとってキャリーはいつまでも「特別な女」なのだ。そこから言ってもビッグの迷いを咎め続けることは出来ないように感じる。もちろん裏切られ、ウェディングドレス姿で会場を後にしなくてはいけなかったキャリーの痛みや恥ずかしさも痛いというほどの分かる。でも結婚はお互いがお互いを思いやってするものだと私は思うのだ。だからこそ、キャリーにはビッグを見てほしかったし、ビッグはキャリーに何か言えるタイミングがあればよかったのだ。
最初に主人公たちにとって四人の恋人たちは心の支えであり、悩みの種でもあると書いた。本当にそうだと思う。だけど、愛し愛されているということ、好きな相手が今も自分を好きだという事実。そこに甘んじてしまう部分もたくさんあるが、好きな人が自分を好きだということは言ってみれば奇跡でしかない。そんな奇跡が起こる確率は本当に少ない。今まで恋をしたことがある人ならば尚更分かるだろう。だからこそ、そこに甘んじてしまうのではなく、一から相手を考えて、どうやったらこれからも好きでいてもらえるのかを考えるべき時が来たのではないだろうか。少なくともこの映画「セックス・アンド・ザ・シティ」を見ている私達は少なくとも子どもではないのだから。もう子どもとも名乗れないのだから。私達には無邪気さはもうない。だけどその分、相手を思いやれる心の余裕が出来た。無邪気さを誇るよりも相手を気遣う心を持てることに誇りを持とう。
「あなたに出会えてよかった」という言葉は年齢を重ねるほどに魔法の言葉になるのだから。
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