カラマーゾフの妹は不滅の名作になれるか
歴史的な名作の続編を、認める?認めない?
この作品は、フョードル・ドストエフスキーの名作の続編を書いたものですが、続編のあらすじを推理して書いた推理小説です。しかし、「カラマーゾフの兄弟」の事件の謎も推理しており、2重の推理小説になっています。
人気のある名作の続編であるだけに、この作品への評価は割れています。絶賛している人がいる一方で、評価しないという人も多くいるようです。
その原因としては、おそらくストーリをまとめたような短い作品であること。細かい設定に無理がある部分がある、ことなどが主な原因ではないかと思われます。フョードル・ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」は、読むのをためらう人も多い大変な長編です。そのため、書き出し部分には十分なほどの詳細な状況説明や幅広い人物の紹介が書き込まれています。それが「カラマーゾフの兄弟」の独特の世界を作り出しているともいえます。
しかし、続編である「カラマーゾフの妹」はストーリーを追った小説であるため、そのような細かい書き込みはありません。ストーリー必要な内容を書きこむという文体であるため、世界観を作りだすことに心を砕いているわけではありません。この作品を読む読者は、「カラマーゾフの兄弟」を読んでいるという前提が考えられるため、それを上手く利用しているのでしょう。
しかし、推理小説好きと文学好きは、好みが異なるため文学好きには物足りない文章量であるかもしれません。
設定に気になる部分もある
「カラマーゾフの妹」の登場人物は、時間を経たことで当時とは違う設定に変わっています。結婚したり、別の仕事についていたり、時代背景そのものが変化していたりという具合です。
また、ロシアという国の国内事情が、あまり一般に知られていないということもあり、設定が正しいのか、無理があるのか判断できない部分もあります。
そのような設定の部分に違和感を感じると、作品自体に興味をもてなくなるということもあるかもしれません。もう少し、文章量が多く時代背景や社会事情を細かく書き込んでいくと、作品のリアリティが高まったのではないかと思われます。
ストーリーや推理の面白さはピカイチ
しかし、作者はあえてそのような書き込みをしなかったのではないでしょうか。ストーリーのあらすじといってよいほどのスピード感のある書き方をしているため、ストリーが大変印象的にインパクトを持って現れるのです。
そして、その推理にもなるほど、と思えるような裏づけがあります。なぜ、続編がこのストーリーになったのかを納得させるものを、きちんと作品中で示しているからです。
そして、なるほどと思わせます。推理小説好きであれば、この結末や犯人に納得がいかなくても、推理の面白さは楽しむことができたのではないでしょうか。
思い起こせば、確かにそうかもしれないと思わせる
イアンは、「カラマーゾフの兄弟」では、特別な人物であるように描かれています。肥溜めの鶴のような、地獄の中の天使のような存在です。
そのため、イアンは殺人犯からは最も遠いところにいるという印象をもつことでしょう。実際、犯人探しの際にもイアンが疑われることは、ありませんでした。
しかし、天才ドストエフスキーが推理小説を書いたとしたら、犯人をこのような善人として書くことは十分に考えられることです。
ドストエフスキーは、あまりにも文学上の評価が高いため、なかなか通常の作家として考えることができません。「カラマーゾフの妹」のような本を冒涜だと感じる方もいるかもしれません。
しかし、「カラマーゾフの兄弟」はその書かれた時代に反して、とても現代的な新しさを感じる作品でもあります。裁判の場面での弁護士が追い詰める様子は、現代ドラマでも通用するのではないでしょうか。
そのような挑戦的な新しさを持つ作品として「カラマーゾフの兄弟」を読んだ場合、「カラマーゾフの妹」のストーリーは十分にありえる結末に思えます。
意味がないと思っていた描写が鮮やかに意味を持つ
イアンが犯人である場合、「カラマーゾフの兄弟」の意味がないと思われていたさまざまな状況描写が、いきなり鮮やかに意味を持ち始めます。
例えば、イアンが司祭さまを介護している場面や死にゆく様子が細かく記載されている理由がはっきりします。なぜこの場面が必要であったのかが分かるのです。イアンがどんな人物であるのか、をわかりやすく浮き彫りにする場面に変化します。
なぜ、ドストエフスキーはこのような場面を書くのだろうか、という疑問は一度は頭をよぎるのではないでしょうか。イアンの善良さを理解させる場面が、イアンが犯人である場合には、一転して疑惑の場面へと変貌します。
天才ドストエフスキーならば、このどんでん返しを仕組んだかもしれないと思わせてくれる「カラマーゾフの妹」は、やはりただものではない。
文学上の名作が、推理小説上の名作にもなる可能性に気づかせてくれたのだ。
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