目指すべき無限城はいつもそこに
キャラクターの謎解きが魅力
主人公である美堂蛮と天野銀次がとても愛あるキャラクターで、お互いへの絶対なる信頼やそれぞれに抱えた闇の謎が楽しい作品です。「盗られたものを奪り還す」Get Backersとして活動する二人組が、持ち込まれる案件を次々解決して奪い返していく。それはモノに限らず気持ちだったりもするので、読んでいると優しい気持ちになれます。
登場するキャラクターたちは、特徴的な能力を必ず1つは持っているので、楽しいです。銀次は電流を、蛮は邪眼とスネークバイトを操るんですが、二人がどういう人物であるか、周囲の支えてくれるメンバーのことも含めて全然明かされません。それが少しずつ明らかになるのかと思いきや、まさかの途中から新章と謳って過去編ががっつり入るとは思わなかったです。長さ的にもちょうどよかったので、これはいいなーと思いました。しかし、それでも全部は語られていなくて…最後の最後まで真実を引っ張ってくれましたからね。二人の事が丸裸になるまでが長かったですが、それが楽しみで読んでいたところもあります。
銀次は電気体質で元「雷帝」として無限城のロウアータウンに君臨していたということ、キレると雷帝人格になってしまうということなど、明るい男の闇ってやつはそそるなーと思います。しかし上を行くのが蛮なんですよ。クールで容赦がないけど根っこは優しい。邪眼、握力200kg、魔女の血を引くドイツ人クウォーター…どれだけ悪魔よりなんだろうか。まさしく、銀次は救世主設定・蛮は悪魔設定で、いずれは敵対するのかもというのは見えていましたね。それでもちゃんと分かり合える終わりにしてくれて、本当にうれしく思いました。どちらか片方が死ななきゃないとか、ひどいじゃん。
序盤はヘヴンやその他依頼者から依頼を受けて奪還屋として活動する姿を描いていますが、
殺し合いした相手同士ですら絆芽生える展開山盛りで、本当の悪が何なのか?ということが常に問われている気がしてきます。
無限城マクベス編で終わりだと思ってた
無限城が最初に登場したのはマクベスとの闘いの時でした。銀次の雷帝としての過去と踏ん切りをつけるため、そして東京を壊滅させてしまうほどの威力をもったILを止めるために。長かったけど、やっぱりマクベス編がかなり印象強いです。最終的な結末も和解するという優しい終わり方。本当に求めているモノは絆だったというのが、ちょっとぬるいけどいい話でした。そしてこのマクベス編自体も重要な伏線になっていて、マクベスの欲しがった「絆」が、最後の闘いにいたるまでずっと重要なウェイトを占めていきます。花月と十兵衛、シドとマドカ、親と子、ポールとデル、宿敵と宿敵、そして蛮と銀次。それぞれの想いはどれも少しの闇を抱えながら、それでも光を見ていたいと願うものでした。だから、最終的に悪い奴がいないんですよ、この戦いに身を投じた奴らって。心底腐っている奴らはすぐ彼らによって淘汰され、いい人同士なのに自分の信念のために殺しあわなきゃいけない状態になってしまっている。つらい戦いばっかりでした。悲しい思いをしたからって誰かに押し付けていいわけでも、自分が行う人殺しが正当化されるわけでもない。それなら闇に染まろう。そう考えるか、いや立ち向かっていこうと考えるか。その違いしか彼らにはなかったと思います。Get Backersとその仲間たちによって、本当に大切にしたいと思うものがなんであるかと考えさせられていく敵のみんな。ピュアだね~…それでも奪還は続いていくぜ。そうやって物語が終わるのかと思いきや、なんと過去編をはさんでまた始まるわけです。彼らのさらなる成長と壮大なバトルが。
壮大なバトルへと発展
無限城のロウアータウンのさらに上にいき、この世界を壊す何かと戦わなければならなくなったGet Backers。失われた刻を奪り還すことを目標に、ずーっと戦い続ける彼らは、大変よね~…でも傷の治り早くない?戦いのあとますます綺麗になっている気がするよ。途中で蛮の過去もたくさん出てくるし、個人的には大満足。デル・カイザーが実は蛮の父親だとか、ポールの初代Get Backers相棒だったとか、楽しすぎでした。そして、最上階にいるのは銀次の母親。まさか銀ちゃん本体死んでたなんて知らんかったよ…今までの出来事・この世界そのものがバーチャルで、どうにか銀次を生き返らせて、本来の世界と統合させてしまおうともくろんだ母親。そ…壮大な物語になってきたやないの。森羅万象、生と死についてまでも管理されている世界のほうが良いと考える者と、それに反発する者の対決がひそんでいたなんて。最後に奪還するのは世界なのかい。オウガバトルのせつなさ、本当に嫌だった…てか本当に強い者だけが最後の扉を開けることができる…とかそんなん雷帝出来レースだったわけ…なのか?そもそも、みんなもう一つの世界の人間だったわけで、刻が失われているって当たり前よね。肝心な記憶がどこかあいまいで、どこかいびつで。でもちゃんと意思があり、選択することができる生き物。世界を創造するとかわけわからんことより、今ここにあることをなかったことにするなんてできない。銀次素敵。
というか母親も、有無を言わさずくっつけることだってできるような立場にいたんじゃないのかなーと思うけどね。でもそれを本当に望むようにするにはいろいろ制約があって…ま、そんな何でもかんでもできたら困るよ。人間は神様なんかじゃないんだし。しかも、結局母親のエゴよね。こんな壮大なこと言っちゃってるけどさ、欲しいものはすごく小さなものだったりする。よくもまぁこれだけの人の命を無駄にしてくれたもんだよ。
どこまでも邪眼
Get Backersといえば邪眼。その生物の闇に付け込んだ悪夢も見せることができるし、心から願う世界を見せることもできる能力。悪魔っぽい能力だけど、
ジャスト1分だ。いい夢、見れたかよ
っかぁ~…最後のオウガバトルの締めも邪眼でした。これは、さすが!やっぱりそうこうなくちゃ!でしたね。あまりにも痛々しく、悲しく、せつなかったからこそ、蛮は最強でした。どこまでも優男だった。そして蛮は能力も一番多いし、「必然の天才」と呼ばれるほどの能力の持ち主がどんなふうに覚醒を遂げていくのか、最後の最後まで魅力的でした。銀次はずっと自分の中にある雷帝と戦い続けている奴だったけど、蛮は違うんですよね。なんか全部わかってるふうなところがあって、銀次と同い年だけど銀次よりもいろんなこと考えてて。お兄ちゃんと弟って感じです。
男の子の心をくすぐる美しい登場人物とロマン
もちろんね、少年漫画らしく少年たちの喜ぶお姉さんのシーンも盛りだくさん。どいつもこいつも刺激的だったことでしょう。そして、結局お互いが引くに引けない何かを心に抱えながら戦っていくんだっていう少年漫画らしい考え方、白熱のバトルシーン、裏切ろうが何が起ころうがなんか結局分かり合える単純さ、いいよね。全体として、奪還するものがけっこうマニアックな歴史がらみ・文化的遺産がもとになっていたりするので、説明が長ったらしいのも特徴ですね。読むのがちょっと疲れます。無限城の構造といい、登場人物の多さ・関係性の複雑さといい、全部を理解しきるには難しい物語かなーという気はしますね。それでも、そんな生々しいわけでもなく、それほどとっつきにくいわけじゃなかったです。
ちょっと気になっているのは、目次がほとんど変わり映えしないこと。○○を奪還せよ1、2、3…わかりやすいっちゃーそうだけど、なんかネーミングつまらんよね。
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