音楽を通じた人間の多様性 - TARI TARIの感想

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アニメレビュー数 2,474件

TARI TARI

4.634.63
映像
4.50
ストーリー
4.50
キャラクター
4.43
声優
4.50
音楽
5.00
感想数
3
観た人
4

音楽を通じた人間の多様性

4.54.5
映像
3.5
ストーリー
4.5
キャラクター
4.0
声優
4.0
音楽
5.0

目次

何かを始める時の期待感

物語は宮本来夏が声楽部を辞めさせられるが、歌うことを諦められず、新たに合唱部を設立しようとすることがきっかけとなって進む。主要な登場人物は彼女と坂井和奏、沖田紗羽、田中大智、ウィーンの五人だと言えるが、その境遇や趣味などは様々であり、これがむしろ物語を面白くしている。部活動に限らず、新しいことを始めようとするのは不安を感じるものである。しかし、来夏はその決意の強さが故に、多くの人を巻き込んで合同発表会への参加を強行する。このように、一人で始めたことに多くの人が関わっていくと人間は不思議なことに、不安よりも期待感を強く感じるようになる。文句を言いながらも部員となった大智やウィーンも、活動を続けていくうちに合唱の楽しさを感じるようになっていく。そんな彼らの姿を見ていると、合唱に限らずスポーツや料理など何か新しいことを私も始めてみようという意欲を与えてくれる。一方で飽き性である私などは、始まりの期待感に満足してしまって実際には何もすることなく放り出してしまう。しかし、このような性格の人間でも、彼らと同じように何かに向かって進んでいるような気分になれるような没入感もこのアニメの大きな魅力と言えるだろう。

自分の将来を決めるのはあくまで自分である

中盤では、和奏の過去、あるいは母であるまひるについてのエピソードについても描かれている。音楽科に在籍していた彼女は音楽と共に生きているような母の影響によって音楽の道を選ぶことになったが、その母の死によって音楽から離れることを選ぶ。その後、来夏の強引とも言える誘いによって合唱部の一員となるわけだが、これは同時に彼女が本当に望んでいたことである。彼女のように生まれた環境や親の希望によって何かの道に進まされることはよくある話だと思う。しかし、それはあくまできっかけに過ぎないと私は考える。物事を自分で考えられる年齢になれば、自分のやっていることが好きか嫌いかということは判断できる。金銭的事情や親の希望を顧みれば、選択できない道もあるだろうが、嫌いなことを続けるような理由はどこにもないはずである。途中で投げ出すことも続けることと同様に人生における選択の一つだと言えるのではないか。和奏はその境遇によって音楽の道に進むことが当然だと考えていたが、一度自分が音楽をやっている理由を改めて考えた時に、その境遇とは何の関係もなく音楽が純粋に好きだということに気づいたのではないだろうか。この和奏の気持ちを想った時、私たちを縛る、可能性を狭めるようなものはこの世の中には何もないのではないかと思えた。つまり、人生において苦しい時こそ、自分の心に寄り添った決断こそが重要なのだと気づかされたのである。

音楽によって示された人間関係の多様性

作中では音楽が大きな要素の一つとなっており、どの曲もメッセ―ジ性が強く、同時に前向きになれる曲ばかりである。合唱は複数の人間の声が重なることで掛け算のように魅力を増すものだと感じたが、これは音楽のみならず人間においても同じことが言えるのでないか。一人の人間ではできることが限られるが、人が集まれば人数分以上のことができることがある。それは、仲間の長所、短所が互助的に働くことが要因であり、性格や生き方が違えば違うほどその化学反応は大きなものとなる。このアニメではそういった可能性を暗に示しているのではないかと勘ぐってしまう。また、他人と関わることで新たな刺激を感じることができ、自分の新たな面も知ることができる。友人に誘われて一度だけと始めたスポーツにのめり込んで、友人以上に熱中してしまうということもあるし、友人の行動に腹を立て口論しているうちに、お互いにお互いの考え方に共感する部分を得て、生き方を変える要因の一つになったということもあるだろう。こういった他人との関わりというのはやはり人生に不可欠であり、最も重要だとさえ言えるのではないか。また、物語の序盤では来夏のことを毛嫌いしている様子を見せていた和奏だが、来夏の人となりを知るにつれて気の置けない仲になっていく。他人と積極的に関わっていくことが重要だと前述したが、これは簡単ではなく、なんとなく受け入れられないという相手もいるだろう。私自身も、学生時代に第一印象で犬猿の仲となっていた者とひょんなことがきっかけで話しているうちにその内面を知り、意気投合してしまったという経験をしたことがあるが、人は見かけによらないとはまさにこのことである。大智とウィーンがそれぞれに熱中しているバドミントンやヒーローだけでなく、合唱部に入ったからこそ得られたものがあるはずだと思う。登場人物に悪意が感じられず、優しい気持ちになれる上に、青春を描いたアニメならではのエネルギーを与えてくれる。感情の起伏が激しいキャラクターが多いが、これを繊細に演じるキャストであったり、映像も美しく爽やかな気分にさせてくれたりと大きな欠点がなく、むしろ人生における多くの気づきを与えてくれる素晴らしいアニメだと言える。

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一つの宝石箱

キラキラこの作品は神奈川県の湘南近辺を取材したといわれる海辺の町のきらめきと合唱に青春をかける高校生たちの輝きと、明るい色彩のキラキラした映像を作るアニメ制作会社P.A.WORKSのキラキラが目いっぱいコラボした作品です。ぴょこぴょこした女子高生が、自らの思いこんだ道を突き進んで、本家の声楽部から独立して合唱部を設立し、打倒本家声楽部から部員の進路の救済、寂れた商店街の町おこし、経営方針による学校の閉鎖まで阻止しようというかなり思い切ったストーリーになっていますが、登場人物たちの青春期らしい輝きと明るい色彩・作画が相まってすてきな作品に仕上がっています。背景に海の見える町並みで繰り広げられる5人の登場人物の物語はまるで一つの宝石箱のように完成度が高く、はじめてこの作品でアニメDVDボックスを購入したくなりました。来夏の存在発表会での失敗から声楽部での閑職を与えられてしまった事へのリベンジをすべ...この感想を読む

5.05.0
  • たつこたつこ
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4.44.4
  • 永島藤也永島藤也
  • 71view
  • 531文字

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