すみれちゃんが達観している
離婚により母子家庭となったすみれちゃんのなんでもない毎日
いきなりの1話目で、すみれちゃんのキャラが決まります。「人への気遣いを忘れない・いつの間にか世の中がよく見えるようになってしまった少女」です。彼女はまだ小学校4年生。まだまだ判断力はないお年頃のはずだけど、すみれちゃんは両親の離婚を経て、いい子になりました。って以前の姿を知っているわけではないけれど、いろんなことを考えたから、これだけ努めて明るく、正直で、迷いがないようにがんばっているのだろうと予測されます。そんなすみれちゃんの何気ない毎日。ちょっと周りから気を遣われて、自分もちょっと気を遣ってしまう。苦しくはないけれど、心のどこかが少しだけ寂しい。お父さん、お母さんのことが大好きで、二人のことを本当に大切に想っているからこそ、文句は言わない。でもやっぱり時々辛いときがある…いじらしいもんだから、ついつい応援したくなってしまいます。
すみれファンファーレという題にある通り、軍隊のように一歩一歩を着実に進んでいく応援歌が自然と鳴り響いているような気がしてきます。すみれちゃんが家のことだけじゃなく、学校生活で奮闘することや、お友達との何気ないやり取りの中で自然と自分の事・他人の事を考えられるようになっていく姿は、微笑ましくもありほんの少しだけ悲しげです。時々何かを考えているようなそぶりを見せる彼女。天気の良い空の下、セリフもなくたたずんでいるだけの描写や、自然の太陽やきれいさを感じてにこやかに笑うすみれちゃんが登場し、どこか物憂げな雰囲気を演出します。自分を悲劇のヒロインとは思っていないながらも、読者からすればつい涙してしまう健気な姿…心の底から笑えているだろうか?そんな心配もさせます。
親を子どもは見ている
そういうふうに、どこか遠くから人を見ているのは、親を見て育ったからですよね。大切なものがなくなってしまうことがあると、小さいながらに知ることとなったすみれちゃん。お母さんもお父さんも、自分のお母さんとお父さんであることには変わりがないから、二人の都合を考えながら、いい子でいながら、時々子どもらしくわがままになってみたりする。これは泣けてきますね…グレることなく、この先歩んでいけるだろうか、心配だよすみれちゃん。今からそんなに気を遣っていたらどんな大人になるんだ?
第1話でのお父さんの約束破りっぷりは、すみれちゃんなら許してくれるだろうという安易な信頼ですかね?困ったもんです。そんなんだから離婚すんだよ。お母さんも忙しいだけ忙しくて、きっとお互いすれ違ったんでしょうね。でもね、子どもは親の都合なんか関係ないんだよ。その背中を見て育っているんだ。反抗するか、反面教師として糧にするか、子どもによってもそれぞれ違うだろうけれど、すみれちゃんがこれだけ愛ある子に育っているのは、お父さん・お母さんがそれなりに努力してくれたおかげでしょうね。それは認めてあげましょう。父親がたとえ新しい奥さんをもらっていたとしても、自分のお父さんを好きになってくれるのは嬉しいこと…なんて、普通言える?少しくらい寂しくても、元気でいてくれるなら嬉しいって…そんな…いい子!かわいらしい!健気!もうがんばって!応援したくなりますよそりゃーこんなにできた子なら!
幸せは小さくてもいい
こういう徒然なるままに日々のことを語ってくれる漫画は、疲れた心にじわーっと染み入りやすいですね。ちょっとほっとしてしまう。そして、お友達と遊べること、お母さんとおしゃべりを楽しめること、手作りしたお茶や料理がおいしくできたこと、苦手だったものをちょっと好きになれたこと…別にものすごい衝撃があったとかでもないけど、うれしかった。その1つ1つが幸せな出来事だなと気づかせてくれます。こういう幸せは、気持ちが豊かになる幸せで、物が豊かになる幸せではないんです。小さくてもいいから、幸せだなーと思う体験をしたいなーって思うし、大切な誰かにもさせてあげたいなーと思わせてくれます。すみれちゃんがうれしいと、お母さんもうれしい。みんみがうれしいと、すみれちゃんもうれしい。
だけど、幸せが当たり前じゃないことをちゃんとわかっているからこそ、どんなに小さなことでもうれしいと思えるものだよっていうのも、すみれファンファーレは伝えてくれています。ちょっとした無言、間(ま)、迷いの表情、そして的を得た〆の言葉…その日のお話の主要メンバーたちが、何気なく言う言葉に、うんうんってうなづいてしまうような格言めいたものが隠れていたりもします。全部がうまくできているんですねー。それに気づけるか?っていうのも、読んでいるときの楽しみの1つになりそうです。時々本当にどうでもいいような日も…あったりが、それもまた物語の緩急かなと思えますね。
子どもが読んでも親が読んでも泣く
読み進めていると、家族のかたち・友達のかたちを考えてしまいます。すみれちゃんは、どこか寂しそうな雰囲気もありながら、一生懸命大人たちの都合を理解しようとしている。それを象徴する言葉と言えば、やっぱり第1巻のこの言葉でしょう。
でも、私 おとーさん、幸せかもと思いました。こんなに気持ちをぶつけてくれる人がいて…ずっと欲しがってた書斎もできてたし…おとーさんとおかーさん仲悪くなかったけど、2人とも忙しくて、そういう小さい希望とかお互いかなえてあげられなかったかも…で、でもね、でもでも…でもね、おかーさんも大好きだったの、おとーさんのこと。だから…
何も言えない…大切に想っていても、うまくいかないことがあるんだって知ってしまったんだね。ちょっと言葉が足りなくて我慢すると、どんどん積み重なって身動きがとれなくなっていく。それもわかってしまったんだね…うん。お母さん、今でも十分幸せだろうけど、これからも幸せで、毎日をすみれちゃんと共に過ごしていってくださいね。お互いに見捨てることさえなければ、幸せでいれると思いますよ。でもどうか、すみれちゃんを子どもだからと色眼鏡で見ないで。ひとりの立派な人間で、お母さんの理解者だから。そしてすみれちゃんにとってもお母さんはたった一人です。バツイチ子持ちになるといろいろと苦労が多いでしょうけれど、子どもに罪はないから、精一杯の愛情でこれからも育てていってもらいたいなーと思いました。
すみれちゃんはどんな大人になるだろう?
すでに気遣いを覚えてしまっている末恐ろしい子で、大人になっていきなり方向転換していかないだろうか?という不安もなくはありません。いろんなことを言わずに我慢している、ともとれるし、いろんな気持ちを素直に受け止めて小学生らしくポジティブに生きていこうとしているともとれる。すみれちゃんの複雑な気持ちは、すみれちゃん自身もどう表現したらいいのかわからない。そんな姿も見えてきます。そういうすみれちゃんにお願い事をされると、大人って断れないな~…庇護欲が出るとでもいうんでしょうか。喜ばせてあげたいと思ってしまう。大人になってもそんな感じで養われていくのか、はたまたものすごいキャリアを身につけてバリバリと突っ走って生きていくのか。どちらもあり得そうです。
すみれがんばれ!っていつもファンファーレが鳴っている。そこを前だけ向いて歩いている。アニメだったらそういうテーマソングがばっちり似合う物語でしょう。
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