圧倒的な世界観がすごい - 阿・吽の感想

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阿・吽

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画力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
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圧倒的な世界観がすごい

4.54.5
画力
5.0
ストーリー
4.5
キャラクター
4.5
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4.5
演出
4.5

目次

最澄と空海という永遠のテーマ

歴史に確かに実在した最澄と空海。この二人がどうやってそれぞれの宗派の祖となり、仏教を広めるにいたったのかということに関しては、もう他の作品でもさんざん語られてきたと思います。伝記のようなものもたくさん出ているし、いったいここからどう描いていくんだろう?という興味をわかせてくれます。まず「阿吽」というタイトル。すごいいろんな意味が込められてるなーと思います。阿吽そのものの意味は、口の開けて最初に出す音をあらわした阿、そして口を閉じて最後に出す音をあらわした吽です。そこから万物の始まりと終わりをあらわすみたいですね。深い…まさに、最澄と空海が、何もなかったところから生み出していく様を表現してるみたいですよね。そして、そこから意味が変わって二人の人が呼吸を合わせるかのように一緒に動くことを表現するようになったみたいですけど、阿吽の呼吸・阿吽の仲とあらわされるように、最澄と空海の関係性を表現しているんだろうなと思います。実際の歴史上では違うとしても、この物語の中の平安時代にあった人々の荒廃や貧富の差、欲望の数々っていうのは、確かにあったものだと思うんです。だって今もありますもんね。最澄と空海という、二人の天才が、世の中の本当を探して会うべくして出会い、そして革命を始める…なんか本当にあった気もしてくるじゃないですか。もしかしたら、ですけど。かっこいい…家柄も、学び始めた背景も、仏教に出会うまでの過程すら、何もかも違って全然対照的な二人なのに、見据えている世界は同じなんですから。何を起こしてくれるんだろう?っていう期待感がものすごくありました。

描写が感情的

おかもと真理先生のこの作品は、とにかくイラストが心にグサグサと刺さります。人の感情が白と黒、線の濃さ・太さでこれだけ表現できるんだなーということに驚きです。どんなに博識ある人物でもたどり着けない世界がある。無の世界。欲望のない世界。逆にどんなことでも許されてしまう世界。人のある意味。知識をもつからこその悩み、正義を信じるからこその悩み…こういうものは、ただ悩み・苦しみ・善と悪みたいな言葉だけだとなんか物足りなくて、言葉だと表現しきれないってことを痛感させます。そこにこの濃すぎるイラストが…ブスっと刃を立ててくれるんですね。

綺麗に描きこまれた絵はとても大好物なのですが、どちらかというと、阿吽のような絵ってちょっと抵抗があったんですよね。何しろ怖いから。人間の醜いところをどしどしだされると、ちょっと頭痛もしてくるんですよ。でも、希望があるんです。それが救いでした。井上雄彦先生のバガボンドもちょっと阿吽と近いじゃないですか。リアルで、キレイで、生々しくて、人の感情を無言ですっと表現してくれている感じ。イラストの細かさでいうとバガボンドのほうが阿吽よりも上かなーという気がしますが、バガボンドは宮本武蔵という人物1人の葛藤の物語ですからまた別物です。宗教を取り巻き世界の在り方すら見つめなおそうとする最澄と空海を描いた阿吽は、スケールがよりでかいと思います。一番いいシーンといえば、最澄の水浴びでしょうね…だってもう神様だよあれ。あがめられていいと思う。

それぞれの正義を新しい形で描いている

最澄も空海も、新しい世界への渇望は絶望から始まりました。最澄は信じて疑わなかった人の言葉の裏を知り、人の死に対しての無力感を知り、仏教の僧侶というものに絶望する。空海は、大学に通って学んで官吏になる出世コースにいて、それは果たして何の役に立ち、自分は誰のために何を求めているのかを探し、人が何を求めるのかを知り、人に絶望する。お互いが天才で、書物という書物を読み、世を知り尽くしたように思い、それでも何か足りないと道を探し続けていく中で、新たな仏教の道があることを知る。それが唐へ渡ることなんですよね。うわー遣唐使という歴史ともちゃんとかぶせてきている…!歴史ファンタジーおそるべし。ただのファンタジーかと思いきや、ちゃんと歴史に沿ったようなことものせてきているんですよ。面白すぎる。

まだ最澄と空海は出会ったばかりで、世のこと、ちゃんと見つめきれていないです。でも、日本こそ井の中の蛙。もっと知らなければならないし、知りたくてしょうがない。この二人の好奇心はすごいです。最澄はどちらかというと善の道。どうか人が人として正しく生きていける道を歩みたい。そんな優しい願いです。だけど、山籠もりって逃げなんですよね。逃げていたって何も変わらないし、腐敗は付きまといます。空海は粗削りでケモノみたいなのですが、なんでこんなに腐っている?ってずーーーーっと考えて、導いてくれる人と出会い、仏教を知る。やはり人は知り合うことで世界が広がるんだなということがわかると思います。

人間の欲望との闘い

とにかくね、人間が醜いです。帝の世界、貴族の世界、平民の世界…全部が輝かしいところ、汚いところを持っています。人間の動く力の原動力って、結局欲望なんですよね。絶対きれいなことなんかない。でもそれを抑えて、理性で解決することで得られる世界がある。それを知らしめてくれる人はやっぱり博識ある人なんだと思います。知識と経験は財産。それをみんなが知ることになれば、アイディアはあらゆる方向に、人の数のぶんかけ合わさって無限大に生まれてくるはずなんだなーと、阿吽を読んでいると思います。ただ、その分生まれる悪も必ずあって、それとどう向き合っていくかっていうのは、生きている限りずっと課題なんだろうなという気もしてきます。美しいものには棘がある。触れば痛いが、飾れば美しい。人間ってつまんないなーって思うときもたくさんあるけれど、自分だってそうだし、最澄と空海だってその綺麗さを求めることすらも欲望であると言えるわけだから、人の数だけ生き方があることを認めなくちゃならないですよね。

ただ、人が人を貶めることだけはやってはいけないっていうルールはあったほうがいい。それだけはどんな理由があったとしてもやってはいけないなって思えてきます。命を消すことは可能性を消すことだから。どうしようもない人間もいるかもしれない。でもそんな人が消費するお金だけじゃなくて、糞尿だって植物の役に立っている場合もある。生きているって、ご先祖様から受け継いで生きているって思ったら、もっと尊い命に感謝できると思うんですよね。

二人の目指す世の中のかたち

これから、二人の知がどう融合していくのか、楽しみですね…直面する欲望もものすごいでかいものになりそうです。だいたい考えられるものでいくと、食欲、性欲、睡眠欲、怠惰、お金、地位、名誉、人よりも秀でる優越感、個体それぞれが持つ独特な快楽のかたち…身分違えど思うことは大して変わらないのが人ってやつだと思うので、それをどうまとめていくのか、もう期待しまくりです…!また、個人的に気に入っているのは巻頭のカラーイラスト…美しすぎる…綺麗なイラストってなんでこんなにドキドキするんですかね。そんな調子で読み始めるから、もう終始緊張感があります。というか、阿吽の物語は緊張の連続…先の読めない展開ばかりなので、あーこの感じね、ってなることが少ないんです。多少の疲労感も楽しみながら、楽しい読書は続いていきます…まさか伝記みたいなことになってあっさり終わらないよね?さすがにそれはないよね?どんでん返し、待ってます。

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他のレビュアーの感想・評価

宗教ですら欲望であるかもしれない

日本でずっと語り継がれる尊き人最澄と空海は確かに日本にいて、仏教を広めてくれた人である。それが日本人の心に多大な影響を及ぼして、間違いなくマインドになっている。この2人がどのようにして祖となり、語り継がれることとなったのか。そこにファンタジーの要素も加えてよりおもしろく、より情熱的に描いているのがこの「阿吽」であろう。まずタイトルが好きだ。阿吽は物事の始まりと終わりを示すものでもあり、言葉をなしに分かち合うことも意味する。人が生まれて死ぬことを考えさせ、仏教の始まりと終わりに思いを馳せる。…深すぎる。最澄と空海が、何もなかったところから新たな考え方を生み出したこと、そしてお互いが高めあう存在であったことをよく表現していると思う。人がいるところに欲望はなくならない。嫌でもそう気づかされていく最澄と空海。人々の汚いところはいつの時代もあるんだなーと思うと、切ない。でも、最澄と空海という天才...この感想を読む

4.54.5
  • kiokutokiokuto
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