深い優しさと悲しみとユーモアに彩られたハーバート・ロスの遺作 - ボーイズ・オン・ザ・サイドの感想

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深い優しさと悲しみとユーモアに彩られたハーバート・ロスの遺作

4.34.3
映像
4.1
脚本
5.0
キャスト
5.0
音楽
4.0
演出
5.0

目次

90年代の良質なロードムービー

1995年アメリカ作品。ロードムービーが好きです。見ると、気持ちが広々とするから。

人生を旅に例える人は多いけれど、今の世の中の実感としては、人生をほんとうに旅のように感じられる人は、そんなには多くないと思います。現代人というものはおしなべて、努力やお金や才能といった、自分発信の働きかけで人生を相当コントロールできると思い込んでいるところがあります。そういう考え方は、何しろもうかるし、支配し搾取する側にとって都合が良いから、そのような価値観を賞賛したり、そのような意識を刷り込む情報が、あらゆるところにくまなく蜘蛛の巣のように張り巡らされている。まあ無理もありません。今の日本は「イージーゴーイング」なんて言葉の居場所がない、汲々とした雰囲気です。

なんだか競走馬みたいだな、と思います。常に鼻先ににんじんをぶら下げられた馬のように、目の前の目標しか目に入らぬよう、視野を狭めるためのカバーをつけられて、猛スピードで駆け抜けて行き、体を壊したらお役御免。さっさと代わりの馬がやってきて、空席に困ることはない。

でも、人生をどう生きるかは本当にその人の自由なのです。いつも誰かにこうしろと、これが望ましいのだと、孫悟空の頭の環みたいにぎゅうっと締め付けられるように思い込まされがちなのが、現代の世の中だけれど、そういう事を言う人たちは、誰ひとり、責任なんて取りはしない。人生というものは不確実性の連続であり、冒険であり、それでいて、小さな判断の蓄積の結果でもある。

そういう当たり前のことを、わくわくと楽しく、納得性をもって思い出させてくれるのが旅であり、ロードムービーは濃密な旅の疑似体験でもあります。車に乗り込んでご機嫌でアメリカの大地を横切って行く3人の「ガールズ」。一期一会だからこそ、何のてらいも計算も、余計な気遣いもない風通しの良さ。彼女たちの人生の旅を共に笑い涙しながら見て、でも少しも辛気くさくない。本作は良質なロードムービーだと思います。

ハーバート・ロスの巧みな話術

監督は、本作が遺作となったハーバート・ロス。彼の作品では、「グッバイガール」や「マグノリアの花たち」が好きで、とにかく話術が巧みという印象です。アメリカ人らしく、少しもしんどくなく楽しく見せ切るのだけど、浅はかで単純ということではなくって、彼の映画の世界は、深い優しさと悲しみとユーモアに彩られています。この監督のもつ、まっすぐな明るいトーンは、80年代から90年代特有の世の中の気楽な空気を思い起こさせ、なんだかほっとさせられます。人が良心と、粋と誇りに従って物事を決めることを、映画の中の人物も、観客も、何の違和感もなく受け入れられる世界。今、普通に同じことをしてもしゃらくさく思えてしまうんだろうか。

それでも、今の映画は、それが作り手の気分なのだから仕方の無いことなのだけど、いかに観客を出し抜くか、欺いてびっくりさせ、「想定内の範疇」を飛び出すか、ということを、しなくちゃいけないことみたいに捉えすぎてやしないかと、こういう映画を見ているとすごく思うのです。

唖然とするほど本物みたいなCGも、混みいった専門性の高い相関図やミステリーも、本質ではない。それこそ「On the side」なのであって、ハーバート・ロス監督のような、ひとつも無駄が無く、無理のない、完成度の高い脚本と高い演出性があれば、奇をてらうことなどせずとも、無理にひねくれなくとも、深い感動と納得が得られるんだということを、この作品は身をもって示してくれていると思います。

3人の女優のいちばんいい時期の作品

本作は、3人の主演のキャストのキャラクター設定がとても好対照で、ある意味分かりやすいのだけど、役者がとても上手いので、少しも退屈ではありません。作品が出来て20年経って振り返るようにして改めて見てみると、それぞれの女優の一番いい時期に、一番魅力的なキャスティングで起用されたのだなあと感じます。実力あるコメディ女優として人気を不動のものとしていたウーピー・ゴールドバーグとメアリ=ルイーズ・パーカーの職人的安心感。彼女たちの間に芽生える友情は感動的です。ウーピーの歌う、カーペンターズの「Superster」は優しさに溢れ、味わい深かったし、エイズで亡くなる設定のメアリ=ルイーズ・パーカーの死に向かう演技、その激やせぶりも含めてすごかったです。

けれど、本作で私の一番のお気に入りはドリュー・バリモア。水を得た魚のように生き生きと、きらきらとした存在感で作品の中を跳ね回っていて本当にキュートです。衣装も可愛かった!

1歳になる前からショービジネスの世界で生きて来て、「E.T.」の大成功の後、人気子役お決まりの転落ぶり、薬物中毒で一時期はもうだめかと思われたドリューでしたが、この作品は彼女が過去のイメージと決別し、飛躍するきっかけになったと思います。この作品のドリューは、ひとつひとつの表情や動きがいつまでも印象深くて、見る人を釘付けにしてしまう、特別なものに溢れていると思います。

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