ギャグかと思いきやかなり壮大などうぶつのお話 - どうぶつの国の感想

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どうぶつの国

4.004.00
画力
4.25
ストーリー
4.25
キャラクター
4.25
設定
4.25
演出
3.50
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ギャグかと思いきやかなり壮大などうぶつのお話

4.04.0
画力
4.5
ストーリー
4.0
キャラクター
4.5
設定
4.0
演出
3.0

目次

序盤のおふざけが本当になんだったんだろう

モノコがタロウザを拾って、タヌキたち一族のほんわかとしたお話が続くのかと思ったら…やっぱりさすが人気漫画家さん。もうね、読み進めるたびどんどん深まっていって、答えのないような部分にすら平気で意見を盛り込んできてましたね。だっていきなりヒトの子どもがですよ?動物しかいないところにぽいっとされて、生きていくっていういい話系フラグかと思いきや、すべての動物の鳴き声が理解できるという能力にとび、その力での苦しみがまさか弱肉強食の世界への問題提起、命の重さを問うみたいな…そんな話にいくとは思いもしませんよ。ピーマンがふざけてあははーってそんなこと全然言ってられない状況になるし。どんな展開だよ!って思いました。

しかしまぁこの世界に投げかける疑問が、普通に納得するというか、普段わかっているはずなのに目を向けていない動物の本来の生き方なんですよね。言葉を持ったのはヒトだけで、それ以外の種族は同じ種の中でのコミュニケーション以外はできない。当たり前ですけど、生きていることの意味なんて、ヒトくらいしか考えないじゃないですか。死が怖いことだってことも、命をもらって食べてるんだってことも、ヒトくらいしかきっと思わないし。全部の動物の生き方をヒト目線にしたとたん、いろんなものが違って見えてきますよね…生きてることの価値を問うってもう哲学レベルです。

エクトールが思う世界のあり方

一番印象的なのが、クジラのエクトールの見てきたヒトの歴史ですね。確かにこの地球上にヒトはいた。そして滅びたんだよ…って完全に未来の縮図をイメージしちゃってますよね~自分の思うことを譲れないからこそ、争いはなくならないです。この漫画の通りの世界になったらと思うと怖すぎます…。子孫を残せなくなる「ゼリダ病」っていうのもありそうじゃないですか?わたしたちが生きながらえていくために、いろいろな薬が当たり前のように使われて、不老不死を探して…そのうちこの漫画の世界みたいに生殖活動ができなくなる病気が流行っちゃってもおかしくないのかもって考えたりもします。

そして、エクトールが言っている言葉の中でもう1つ印象深いのが「植物の鳴き声がわかったら植物すらも食べなくなるのか…?」っていうメッセージ…重いです。昆虫だって生きている。生きるために食べている。それは間違っていることなの?って。そうだよね…植物だって生きている。生きているものすべてに共通する言葉がないっていうのが、この世界の均衡を保っているじゃないですか。相手の言葉がわかっちゃったら…いったいどんな世界になるんだろうね。これだけいろいろなことを考えたり、生きていることを感情豊かにとらえられるのも、脳が発達したヒトだけです。もしほかの動物たちの脳もすごい発達したら…いったいどうなってしまうことやら…ヒトが生み出した最強のものって、言語じゃないかなーと思います。

弱肉強食の世界への問題提起

この本は弱きものが食べられることを悲しく思うことから始まっていますよね。でもね、食べている側だって普通に生きていくために同じ種から教わった方法で別の動物を食べている。私たちだって、スーパーで加工されているからわかりづいらいけど、豚や鶏をふつうに食べているじゃないですか。生きていくために必要な栄養素が含まれているから、きちんとバランスよく食べましょうって宣伝してるくらいなんです。それがちょっと弱いものの立場に立った途端、コロッと変わって弱き生き物を応援したくなってしまう…ほんと人間って感情でばっかり生きてるよなー。オオカミたちだってね、マンガの中で殺すことを楽しんでいるみたいな描写があるけど、真剣に食べているんだと思うんですよね。自分が生きていくために。自分たちがいたということを証明するには、子どもを残して種を残していくことしか動物たちに手段はない。楽しんでいるわけではなくて、必要事項だからやっているんです。そこに感情持ち込むほうがめんどくさい感じもします。それ言っちゃうとこの漫画の根本崩れそうですけど…

ただ、命に感謝して食べるということはしなきゃいけないなと、この漫画を読んでいると分かると思います。命のらせんの一部をもらって自分が生きていく。そういうエナみたいな気持ちのほうが、案外しっくりきます。

5人の子どもの生き方がすべてリアル

登場人物である5人の子どもは、人間の考え方を5通りに集約させてる感じでおもしろいです。正義感たっぷりにあらゆる動物すべての幸せを願って行動するのか、自分の守りたいもののために生きていくのか、守られるだけで生きていくのか、弱肉強食の世界を受け入れてその道で生きていくのか、そしてギラーのようにすべての生き物の死を望むのか…一人一人の生き方への考え方が、それぞれに信念があって正しいように思えます。ただ、ギラーのようにすべてをなくすことが正義であるとは言いたくないので、彼だけは論外ですけどね。生を受けたからにはまっすぐに生きていきたいじゃないですか。そこだけは否定しちゃいけないところだと思います。

最終的に、タロウザやカプリ、リエムは永遠の実を食べてあらゆる動物が仲良く生きていこうとする集落を作り上げています。これはこれで、キレイなまとめだったなーと思います。ジュウはリエムとの間に子を残すけれど、弱肉強食の世界に身を投じている設定でした。それもまた、生き方の1つです。それぞれに正しいと思うことは譲れない。それが人間ですよね。

自我を持つということ…未来への希望

個人的には、キメラが自我を持ってくれたことがうれしかったですね。彼らが生きている意味を考えだしたときは、感動しました。サラダうどんがまさに…いいキャラだった。彼がルークを導いてくれたようなもんです。「ここに俺があるっていう感覚」という自我をとらえた言葉もいいですよね…雷句先生言葉選び最高です!うんうんそうだよねって思いました。それが人間だよねって。別に母体から生まれたわけじゃなくても、ヒトの作ったものにヒトの気持ちがわかるようになるみたいなのって、ちょっと希望を感じませんか?種の存続のために必要な最低人数の壁を超える方法が、最終回ではまったく示されていないのですが、そこはキメラたちが解決してくれそうな気がしています。彼らなりの答えを見つけてくれるんじゃないかと思えましたね。

この漫画を読み終わったとき、どんな考えをもっていたとしても、生きている権利だけは奪われない。それでいいって思えました。ちょっとうれしい気持ちになりますね。ヒトは感情があり、考えることができるからこそ、壊すことも創ることもできる。ヒトって地球ではかなり大事なポジションにいると思います。自分たちが生きるために、動物たちが生きていくために、地球をどうプロデュースしていくか。それを考えて生きていかないといけないなーと思えます。ただ、あらゆる動物が生きれるようになったら、それはそれで地球の面積足りなくなるって話です。きっと地球温暖化や環境破壊は進むんだろう…生きていける種は限られてしまい、多様性は確実になくなります。それくらい、生命は絶妙なバランスを保って生き続けている。だから壊しちゃう可能性があることはやめたいですね。これはヒトが生きていくため、生物が地球で生きていくために必要なことなんじゃないでしょうか。

どうぶつを通していろんなことを考えさせてくれたこの漫画。さすがの講談社漫画賞ですわ。

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