偉大なる記憶。
たかが一夏の思い出、されど一夏の思い出
主人公がふと思い出した小学生の頃の夏の思い出。残念なことに個人的にこんなに色濃い夏休みの思い出がないのでとにかく羨ましかったりもする。夏休み開始とともにいなくなった母。その穴埋めにやってきた父の愛人。天真爛漫で豪快なヨーコさんは色で言うなら赤とか青とかではなく、まさしく虹色。熱い赤い色の部分もあれば、愛人と言う立場の哀しい紫色の部分もある。そのカラフルなヨーコさんと母との違いが大き過ぎて戸惑ってしまう主人公。子供のときはいつも周りにいる大人が大人としての基準になる。いきなり基準から大きく外れた大人が舞い込んできて、戸惑う気持ちがよくわかる。
散歩ルートが広くなった犬
主人公と弟の大好物、麦チョコ。普段は少量しか買ってもらえずちまちまと食べている麦チョコ。そんな麦チョコを豪快に何袋も買い、大きなカレー皿に盛ってくれるヨーコさん。それをもらう子供たちは餌をもらった犬の様だ。そして今までよりもちょっと遠くまで出かけたりと行動範囲が広がり、その分刺激的な日々となる。主人公が始めは警戒していた謎の女、ヨーコさんに対して徐々に警戒をとき、好きになり、犬がお腹を見せるかのように親しみを抱いて行く。
ヨーコさんがくれたもの
ヨーコさんはいろんなことを教えてくれるのだ。骨が溶けるから怖くて飲めなかったコーラの味。全然乗れるようにならない自転車の乗り方も。清志郎の歌も。全てが新しくキラキラして見える主人公はヨーコさんから何かを教えてもらうたびに、主人公自身も輝いくかのように見える。最初はちょっと湿った感じの地味な女の子だったが、徐々にヨーコさんの虹色に染まっていくかのようだ。大人になって、ヨーコさんのことは忘れてしまったかのようにも見えるが、ある日、弟に指摘された大雑把なところなどヨーコさんの影響が染み込んでいるのかもしれない。血の繋がりもなく、ただただ一夏のひとときを過ごしただけの間柄ではあるが、小学生くらいのときに受ける影響と言うのはとても大きい。ヨーコさんのことはもちろん、ヨーコさんと父との関係など、子供ながらに理解していたのだと思う。大人になってから父と母との間になんとなくできた溝は元をたどれば、あの夏からでき始めたものなのではないか。父の愛人と母が喧嘩をし、母を打ちのめしたヨーコさんの姿もきっと心の底に刻まれているだろう。きっと主人公が喧嘩をしたら豪快な頭突きをかますのだろうなと思わずにはいられない。
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