小林聡美ともたいまさこの、クセが無さ過ぎてクセになる世界 - マザーウォーターの感想

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マザーウォーター

4.004.00
映像
4.17
脚本
3.50
キャスト
4.33
音楽
4.33
演出
3.67
感想数
3
観た人
3

小林聡美ともたいまさこの、クセが無さ過ぎてクセになる世界

5.05.0
映像
5.0
脚本
4.5
キャスト
5.0
音楽
5.0
演出
5.0

目次

どこにでもありそうな日常を描いた映画ではあるけれど・・・

『かもめ食堂』の大ファンになってからというもの、小林聡美さんともたいまさこさんコンビの映画を一つずつじっくり味わうように制覇しようと決め、この度めでたくこの映画『マザーウォーター』を手に取ることができました。

映画が始まって1秒後にはもう、あの私の大好きなのんびりゆったりとした世界が画面中に広がり、「やっぱり今回も私を裏切らないわぁ~!」とニヤニヤしてしまいました。

小林聡美演じる一見サバサバとしていて冷たい感じがするバーの店主・セツコ、もたいまさこ演じる淡々としていて頑固そうな雰囲気を醸し出す老女・マコト。相変わらずの設定ではあるけれど、やっぱこうじゃなきゃ!と再びニヤニヤ。

そばに居た旦那さんに「コレ、どんな映画?」と聞かれ、「多分、別になんにもどうにもならない映画だよ。」と答えると不思議そうな顔をしていたけれど、何か大きなことも小さなことも起きるわけでもないところが、この映画の一番の魅力だと私は思います。

時々出てくる料理のシーンは、毎度のことながらお腹が鳴りそうになります。特に、もたいまさこが筍と枝豆のかき揚げを作っているシーンは、こちらにもその香りが漂ってくるような錯覚さえも起こします。

朝起きて、ご飯を食べて、夜眠る。映画の中だけではなく、自分も含め今生きているほとんどの人がしているであろう生活の一場面が映し出されているだけの映画といえばそうなのですが、次第になぜが彼らを憧れのまなざしで眺めている自分にいつも気付かされます。もしかすると、なんて退屈な映画だと思う人もいるのかもしれませんが、私にとっては『かもめ食堂』然り、何度も観たくなる不思議な魅力を持つ映画でした。

40代女子の“楽観刹那主義”。

バーの店主であるセツコと、カフェの店主である小泉今日子演じる・タカコ。おそらくこの二人は40代の独身女性であり、それぞれのお店を気ままに経営しながら毎日を淡々と送っています。ゆったりとした、人としての余裕をも感じさせる大人の女という感じではありますが、その節々には、若いころに酸いも甘いも知ってしまった悲しみのような、切なさのようなものが読み取れて、同じくアラフォーの私は妙に共感してしまうところがありました。

楽しいものを「楽しい!」と言えたり、苦しいものを「苦しい!」と言えなくなった自分を俯瞰で見ている自分。タカコがセツコのバーで言った言葉が印象的でした。

「満開の桜を見ていると、悲しくもないのに涙が出ることってない? パーッと散ると、気持ちいいなぁ!って思ったりするし。」

満開の桜を見て「わあ!キレイ!」と感動していた昔の自分、桜が散って「ああ・・・散っちゃったね。」と悲しくなっていた昔の自分。あの頃の自分と、良くも悪くも変わり果てた今の自分に気付かされる、そんな虚しさを感じる瞬間が私にもある気がします。人に何かを質問されても、世の中は“イエス”か“ノー”かでは決められないものなんだと知ってしまったアラフォー女は、「うーん、どうかなぁ。まあ、どっちでもいいんじゃない?」としか、答えられなくなってしまうのかなと、しみじみ思います。

そんな二人に、まだ人生を模索中の豆腐屋の店主である市川実日子演じる・ハツミは、「お二人は楽観刹那主義ですね。」とため息交じりに言うシーンがあるのですが、この言葉に胸を細い棒でサクっと突き刺された感じがしました。確かに私たちは「人生はうまくいかないものだ。だからもうこれ以上傷つかないように欲を出さずに行ける道を行こう。」と、どこか人生を思いっきり楽しむことを諦めているところがあるかもしれません。

さらに達観された60代女子。

セツコやタカコを大きく飛び越え、マコトはさらに悟りの境地を切り開いたような達観した人間性を醸し出します。人に振り回される20代30代、それがほとほと嫌になって人との関係をシンプルに削り落とした40代、それを超えるとマコトのように、男も女も老いも若きも関係なく、人をみな同じ人間として同じように接することが出来るようになるのかもしれないと思いました。頼まれてもいない他人の赤ちゃんの面倒をみて、悩める若者の背中を頼まれてもいないのに押して、たまたま通りすがったハツミを呼び止め卵サンドを御馳走して、ベンチで居眠りして、そして家では一人、具だくさんのアツアツの出来立てのお味噌汁を満足気にすする。そんな風に人と人との間に存在する遠慮や見栄や無駄な気遣い、そういった面倒くさい感情を一切取り払って人と向き合うことで、自分自身がよりシンプルに心地よく毎日が過ごせるようになる。そうなったときに初めて、誰かのために生きるのではなく、自分のために生きていると思えるようになるのかもしれません。

「今日も機嫌よくやんなさいよ。」

これはマコトの口癖です。なんだかこの言葉には、そんな深いメッセージがあるような気がしました。

やっぱり何も起きない映画でした。

本当にいい意味でブレのない、思った通りのまったくもって何も起きないゆるりとした映画でした。

映画にしかできない世界を楽しむ映画はたくさんありますが、映画でしか覗くことができない誰かの日常を観ることの出来る映画は、このシリーズの映画くらいではないでしょうか。今後おそらく、私は年に数回ついついこの映画を観てしまいたくなるのだろうなと予感しています。

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他のレビュアーの感想・評価

BGMのように。

かもめ食堂、めがね、プールなど小林聡美さん、もたいさん好きなら多分外さずに観るはずだと思います。それぞれのテーマがあるとしたら今回は「母なる水」とでも言えるでしょうか。京都を舞台としていますが、京都と水、意外と深い関わりがありました。盆地である京都には良質の地下水脈がありとても水の良いところなのですね。映画にもお豆腐や、ウイスキー、コーヒーお風呂までお水に感謝せざるを得ない生活をしている人達が出てきます。その中でもたいさん演じるおひとりさまの理想形ともいえる静かで丁寧で、でも何故か周りの若者たちには、つまんないやつだね!とか、一度溺れてみろ、浮かんでくるからとか。時に淀んだ時を綺麗に洗い流すかのように切れの良い言葉を投げかける。あんなかっこいいひとになれたらいいなと観るたびに思います。最初に出てくる母と子供。母はどうやら一時姿は無くても、色々なひとが代わる代わるポプラ君を抱っこし、大切...この感想を読む

3.53.5
  • hapihapi
  • 82view
  • 558文字

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