好感持てるが色んな意味でちょっと惜しい - セイフ ヘイヴンの感想

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好感持てるが色んな意味でちょっと惜しい

3.63.6
映像
4.0
脚本
3.3
キャスト
3.8
音楽
4.0
演出
3.3

目次

テレビドラマとして見るのなら良作

色んな意味で、この監督の一番いい時期は過ぎ去ってっしまったのだろうなあ、と思いつつ、久々にラッセ・ハルストレム監督の作品を見ましたが、予想外に健闘していると感じました。ですが、けして悪い印象は持たなかったのだけど、映画らしい大柄な器というか、詩的な味わいというものが感じられず、良くも悪くも分かりやすく整理整頓されて語られている感があって、物足りなさのようなものを感じてしまいました。

優れた映画を見ると、あまりの緻密さにくらくらとさせられます。考えに考え抜かれた、さらに作り手の能力を超えたある種の奇跡のような調和と普遍性にときに圧倒させられ、「言葉にならないかたまり」のようなものをまるごと受け取るというのが、自分にとっての映画を体験するということなのだと感じていますが、そういう感慨をこの映画から受け取る事はありませんでした。

クライムサスペンスであり、ラブロマンスであり、家族愛であり、ドラマチックなアクションの要素もある。分かりやすく観客をひきつけるための要素がたくさん盛り込んであって、スペック的には盛りだくさんというか、キャッチーな作品といえるのだと思います。ですが、要素てんこもりなだけにどうしてもぶれてしまう印象もありますし、「この映画で本当に描きたいこと」に向かって全ての要素が調和して高まっていくという感覚がなかったように思います。

けして悪くはなく、最後までひきつけられて見ました。でもそれは、「続きが見たくなるように作られているテレビドラマ的な演出」に乗っかっていたという感覚に近いものでもあります。感動的なシーンも、驚きもありました。しかしながらどこか深みが欠けているように思えてなりません。よく出来たテレビドラマ、という印象です。

そういった意味で、ラッセ・ハルストレム監督の作品は、やはり「ショコラ」あたりまでが個人的には好きですね。

正統派の恋愛だけではもはや映画が成り立たない?

全体にはそつなくまとまっていたと思います。小さな港町のおだやかな風景が美しく撮影されていました。個人的には主役のふたりのキャスティングはとても良かったと思います。ケイティを演じたカントリー歌手でもあるジュリアン・ハフは、ジェニファー・アニストンの若い頃のような雰囲気で、健康的なヤンキー娘というかんじ。アレックスを演じたジョシュ・デュアメルは、まあメロドラマ的に素敵なんだけれど、ちゃんと二人の子持ちの男やもめらしかったと思います。

とても普通なお話ではあるけれど、二人の恋の深まる過程は正統派の恋愛映画らしい「ああいいな」という感覚で、昨今の変なひねくれ感のなさが見ていて心休まるようでした。

ですが、今のアメリカ映画は、こんな普通の恋愛では、とても映画一本成立しない、ということなのでしょう。だからこそこのような形でサスペンスの要素が盛り込まれたのかなとも思います。

唐突な展開にとまどい

先述したとおり、この作品ではサスペンス的な要素とメロドラマ的要素が、わりにどっちつかずなかんじで並行的に描かれており、そしてクライマックスに至っては、ばーんと花火があがり、どーんと大火事が起こるというドラマチックな展開にいささかびっくりさせられます。どこか唐突で、ちょっと心理的についていけない不思議な感覚があります。

さらに、エンディングではケイティの隣人で良き相談相手だったジョーが、実はアレックスの亡くなった妻であり、ふたりの新しい恋が実るように見守っていたというこれまた唐突なファンタジーな展開。このファンタジーの要素は、エンディングに至るまで、私のキャッチ力が足りないせいかもしれないですけど、ほとんど仄めかされることなく来ているので、とりわけ唐突な感じがしました。

遡って考えると、そういえばジョーが現実に生きる人として存在してなかったと仮定しても成立するように描かれていたなとはもちろん思うのですけれど、何か映画の文法としてこういう種明かしの仕方は腑に落ちないというか、やはり布石のようなものはあったほうがいいのじゃないかと個人的には感じました。

亡くなった人が残した手紙という装置

映画であっても小説であっても、「亡くなった人が残した手紙を読む」というのは、個人的には最も好きな仕掛けのひとつかもしれません。ですので個人的には好きなんですけれど、誰しもを感動させることのできる「ずるい」装置でもあるのだとは思います。

生きた人同士が向かい合ってやりとりするのは、ダイナミックな化学反応があるけれども、生々しくもあり、齟齬も嘘も駆け引きもある。発される言葉は生まれたそばから消えていく。

けれど、手紙は熟考され、醸成された「本当の」言葉たちが、確かな存在感と愛を持って相手に託される。そしてそれを書いたその人はもうこの世にはいない。なんという美しい自己完結でありましょうか。

だからやはりほろっときてしまうんですけれどね、そこまでの布石が緻密でない場合は、泣いてもすぐ忘れるみたいなことになりがちなんだと思うのです。次の日には全部忘れてしまう、というような。

涙が出るというと、余程感極まったような印象があるけれども、どれだけ心に刺さるかということと、涙って、特に相関性はないのだと思います。

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