夢と現実に翻弄されて、堕ちていく
二つの相容れないものが混ざり合った世界
奇才「テリー・ギリアム」の作品のうちの一つ、「未来世紀ブラジル」。
この物語は、「融通の利かない世界(現実)」と「どんな事でもできる夢」の二つが、
陰陽のように合わさっている。
…と、物語の世界観とか、監督の思惑とか、この作品に込めた想いとか、
そういうのを考察できるほど頭が良くないので、私なりにこの作品の好きなところを書きたいと思う。
新しいの?古いの?
物語は「20世紀のどこかの国」という事だが、新しいのか古いのか、
未来っぽいのかそうじゃないのかがよくわからないのに、
不思議と違和感はなく、そのままを受け入れられるような見せ方が好きだ。
いたるところに張り巡らされているダクト。
使いにくそうなパソコン。
最新の美容整形方法に、ベッドタウンの様子など、どれも新しさも感じるし、古さも感じる。
パソコンがあるのにタイプライターを使っているところなんて、
まさに「20世紀」という感じがする。
「20世紀」といえば、第二次世界大戦があったりアポロが月に行ったりと、
科学技術が劇的に進歩した時代だというのに、
一方でノストラダムスが人類滅亡を唱えてたりするんだから、
平成生まれの私にしてみると、新しいのか古いのかよくわからない、
ごちゃごちゃした時代に感じるから、本作とマッチしていると思うのだろう。
どこか古くて新しい、懐かしいような知らないようなというまどろみを感じさせる作品だと思う。
ちなみに私は、主人公:サムの住んでいる部屋の感じが好きだ。
真っ白で、四角で、近未来感があるんだけど、
電話やフライパンなどの小物はちょっと懐かしい感じのアイテムがそろっていて、
ちょっと、いや結構住みたいと思っている。
怪しくて不気味な世界観
テリー・ギリアムの作品は、他に「バンデッドQ」と「バロン」も観ているが、
どれもどこか薄暗くて怪しい雰囲気でとても好きだ。
美容整形手術に失敗しているおば様も十分怖いが、私の中では特に、
サムの夢の中にでてくる赤ん坊のお面をつけている黒服達は、断トツで不気味に感じられる。
赤ん坊、胎児を模したモンスターはよくホラー映画なんかに出てくるが…これとは全くの別物だ。
このお面は映画の終盤で、友人のジャックもかぶっている。
本当に不気味で気持ち悪い。
中国のお面にもこのお面に似たものがあったような気がするが、
中国のそれはもっとカラフルでかわいかったはずだ。
しかもなんだか薄汚れていて汚い。
使い古されたお面のよう。
あのお面を被った人たちがわらわらとこちらに向かってきたら、それはそれは怖いと思う。
他にもある。
サムが最後に連行されたドーム型の屋根の部屋はもちろん気持ち悪い。
黒色が強めの灰色の部屋(…でいいのかな)は、本作を観た後必ずと言っていいほど夢に出てくる。
それもサムと同じように、真ん中で椅子に縛られて。
そして気がつくと私の足元には赤黒い蜘蛛で埋め尽くされていて、
それらが徐々に這い上がってくる…。
という怖い夢を見るぐらいなのだから、相当だと思う。
あの部屋はきっと寒いんじゃないかな…。
あんな打ちっぱなしのコンクリートむき出しみたいな部屋…。
冬は結露とか酷そう…。
デパートの爆発シーン後に出現した鎧武者もなかなかだ。
鎧の形はN○Kのはにわのキャラクターに似ているのに、
背中に背負っている…あの…後光のようなやつは、豊臣秀吉のようだ。
日本ぽいのは日本ぽいのだが、どこか違っている気がした。
刀ではなくて槍をもっていたからなのか、それとも他の理由なのかは私にもわからないが、
なんだか違って不気味な印象。
大概の海外の監督が日本のものを登場させようとしてもあまり日本ぽくはならず、
どちらかというと「中国とか韓国とか日本とかなんかその辺」という感じの、
混ざり合った形で表現される事が多いので、他の映画なら「ああ…うん。」と納得できるのだが、
この鎧武者に関してはなぜか私の中でそうはならず、
その混ざり合った武者の出で立ちが「怖い」と思った。
あ、サムが捕まって連行されて、拘束着の状態で吊るされながら移動していく様を
影のみで表現していたのもゾワッとした。
お偉いさん方の後ろに映っている、首吊り死体のような塊の影がゆらゆらと動いているのは
まるでホラー映画のようで、初めて観た時は本当にぞっとしたものだ。
後味が最高に悪くて最高に良い
この映画は私が今まで観た映画の中で一番好きだが、一番好きな理由として、エンディングにある。
皆さんもご存じのとおりのエンディング。
「助かった」のは頭の中だけ、という、全くハッピーエンドでないところが好きだ。
いや、逆にサムにとっては最高のハッピーエンドだったのかもしれない。
だってジルと一緒に、夢の中ではいつまでも幸せに暮らせるのだから。
肉体がどうなっていようと、外がどんな状況になっていようと、
サムにとっては「幸せ」を感じている方が現実なのだから、ハッピーエンドなのだ。
そう考えると、「現実」という概念が曖昧になってくる。
「夢」だと思っていた方が現実で、現実だと思っている方が「夢」かもしれない。
現実とはその人の主観によって変わるのだから、
いくら外野が「これは夢だ」と言ったところで本人は気付かない。
何故なら、その人は外野がいる方が夢だと思っているのだから…。
…と、ちょっと難しく考えてみたりもしたけど、結局のところ、
「夢と現実を皮肉っているこのエンディングは最高だ。」
という事だ。
最後に
…初めて「レビュー」というものを書いたが、どうだっただろうか。
私は全然頭も良くないし、映画を観るのは好きだけど「考察」等はした事がなかった。
が、どうしてもこの「未来世紀ブラジル」が面白くて大好きで、
どうしてもそれを伝えたかったのだ。
うまく伝わっている事を祈る。
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