女がショービジネスで生きるということの光と影を描く - ストックホルムでワルツをの感想

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女がショービジネスで生きるということの光と影を描く

4.14.1
映像
4.8
脚本
3.8
キャスト
4.2
音楽
4.8
演出
3.5

目次

スウェーデンの大スター、モニカ・ゼタールンドの生き様

2013年スウェーデン作品。北欧映画をそれほど見ていないので、ペール・フライ監督の作品も初めて見たわけですが、とても美しく撮られているなあというのが一番の印象です。撮影がとにかくきれい。目に心地良くて、いつまでも見ていられる、そんな撮影です。撮影監督はエリック・クレス。ラース・フォン・トリアーの作品なども撮っている一流の撮影監督です。

もちろん音楽を題材にした映画だけに音楽が素晴らしいです。やっぱりジャズっていいな、そんな落ち着きのあるムードたっぷりのジャズが全編を通して流れています。そして、実際にシンガーであるエッダ・マグナソンは、まさにはまり役でした。歌は上手いし、見た目のク―ルな美しさも似ていて、本人のようでした。

原題は「MONICA Z」。主役のモニカ・ゼタールンドの名がそのまま題名になっています。私はたまたまモニカ・ゼタールンドがビル・エヴァンズと共演した「ワルツ・フォー・デビー」のアルバムを持っていて彼女の事は知っていましたが、日本ではさして有名でないこの歌手の名が題名では、ということで、「ストックホルムでワルツを」という邦題をつけたのだと思いますけれど、やっぱり邦題って難しいというか。やっぱりタイトルは何語であろうが、その映画をひとことであらわすものであってほしい気がします。雰囲気だけで安易につけるのでなく。

見ていて途中でなんだろ、この映画は何を見せたいんだろ、ということが分からなくなるような感じになったのですが、原題に立ち返って納得、この作品は「MONICA Z」という特別なひとりの大スターの生き様と、彼女がスターダムにのし上がり、きらきらと輝いていた頃の時代を美しく見せたかったのだなと腑に落ちたのでした。

スウェーデンでは最高の歌手のひとりと称されるとても有名な人のようです。2005年に火事で亡くなっています。映画の内容も併せ持ってみると、日本で言うとさしづめ美空ひばりのような。

ですので、スウェーデンの人にとっては、この人の生き様を見ることそのものが、映画として見るに価することなのですね。そこは他国の人が見る時とは温度差がある部分かもしれません。

ショービジネスで大成功する女性の光と影

まあ何というか、一般人の感覚では共感しづらい女性です。そしてショービジネスで成功するスターにおいては、ある種の定型のような人生。

残念なことですが、女性においては芸能やクリエイティブの世界で生きていくことと、女の幸せを両立することは、経験的に見ても相当に難しい、ある意味離れ業みたいなもののようにさえ思えます。

モニカは、作品の冒頭から負い目を背負った女性として描かれています。幼い娘を老いた両親に預けて時に何日も放置し、夜の街で歌うシングルマザーとして。そしてそんなモニカを絶対に認めようとしない厳格な父親。保守的な田舎町の暮らし。誰もがどうせスターになんかなれないと決めつけている。

そうした状況の中で、彼女は自らの才能と歌に対する情熱を持て余すことになる。それが成功を希求する単なるハングリーさを超えてある種のいびつな貪欲さ、幼児的な自己中心性に結びつかざるを得なかった原因なのかもしれないとも感じられます。

ナチュラルに、流れる水のように、自分の好きな事に気負いなく向かい合えたらいいのですけれど、モニカは常に「常識人としてやらねばならないことを放棄する」という形でしか愛する歌に向き合う事ができない。その事をすることを、とても後ろめたく思わなければならない。しかし歌への情熱は深いので、父親にいくら繰り返し責められても、求められればどうしても歌いたい。

女性においては、時に他ならぬ彼女の才能のためにそういう引き裂かれた人生を強要されることになるのです。そこで多くの人がどちらを取るかを迫られる。そして無論彼女は、スターであり続けることと歌うことを止められなかったし、やがて精神のバランスを崩し、傲慢で身勝手で社会性のない振る舞いを重ねる事で、周囲の人々は皆去って行く事になった。

オーバードーズで意識朦朧となったモニカの元から、娘が連れ去られるシーンでは、髪振り乱して走り出す車にすがりつくモニカの姿が、胸が締め付けられるように哀れでした。

謎の大円団が惜しい

こうした流れの末に彼女がある破滅、ある結末に辿り着く、という部分までは心理的に納得ができるのです。

が、彼女がエンディング近くになってビル・エヴァンズにNYに呼ばれて共演する、そのことで、というかその一件だけで、オセロの面が黒から白へぜーんぶ一気にひっくり返る、というような、大どんでん返し、全部が急激にあまりに丸く収まるのには戸惑いました。

父親の急激な態度の軟化、「木の上の景色を見せてくれてありがとう」発言も、彼の屈託が「自分がミュージシャンとしての夢を諦めたのに、それを追求する娘への嫉妬」というポイントだけで集約されてしまったかのようで違和感がありました。

軽く見て、散々振り回し続けた誠実なベーシストのストゥーレへの身勝手な愛は、エヴァンズのライブでNYから彼の名を呼びかけることで婚約者を振り切り成就。映画はふたりの結婚式で幕を閉じます。ラストカットは、モニカがどう考えてもクレーンに乗せられて空に舞い上がっているようにしか見えない謎のハッピーエンド。面白くも不思議ではありました。ラスト15分が惜しい。

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